活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

東京外国語大学国際日本研究センター対照日本語部門主催『外国語と日本語との対照言語学的研究』第13回研究会

日時:2014年7月12日(土)
場所:東京外国語大学 研究講義棟4階419室

発表1・川口裕司(東京外国語大学)
「フランス語の否定辞―通時的分析のために―」、

講演 ・大矢俊明(筑波大学)
「受動と使役~bekommen'get'とfree dative~」、

発表2・風間伸次郎(東京外国語大学)
「言語類型論からみた日本語―日本語は本当に従属部表示型の言語なのか?」

最初に本学の川口裕司氏による「フランス語の否定辞―通時的分析のために―」と題する発表が行われた。
川口氏の発表は、フランス語の否定辞の通時的変化について考察したものである。

古フランス語における否定辞の文法化の実態を、その文法化の段階ごとに、実例に基づき明らかにしている。それによると、最古フランス語の否定辞は"non""ne"などだけの単純な否定形(単純形)だったものが、12世紀後半以降"ne...pas""ne...point""ne...mie"のような不変化辞を伴った複合的な否定形(複合形)が現れ始めた。それでも盛期古フランス語では単純形が多かったものの、中期フランス語になると、"ne...pas"の形が他よりも優勢になり、"ne...mie"は衰退した。その後次第に"ne...pas"と"ne...point"が競合するようになり、単純形もほぼ脱落した。そして近代フランス語では"ne...pas"が増え現在の形へとつながっているとのことである。言語の通時的変化を多くのデータに基づき実証的に論じた川口氏の研究は、他の言語の研究方法にも多くのヒントを与えうるものであった。

  大矢氏の講演は、ドイツ語のbekommen'get'を用いた構文や「自由な与格」に受動と使役の両義性が認められる事実に着目し、この場合の使役の持つ意味について検討を行ったものである。

講演ではまずbekommen'get'構文に受動と使役の両義性が認められることを確認した上でbekommen'get'自体には使役者の行為は含まれず、使役の事態であるには「変化(+結果)」のみ存在すればよく、使役主の行為は必ずしも必要ないのではないかという主張が述べられた。また、free dativeも受動と使役の2つの意味を表しうるという事実から大矢氏は、"unintentional causer"という概念を提起し、様々な関連する言語現象を説明している。中でも日本語との対照という観点で言えば、「母親が子供を死なせた」「太郎が野菜を腐らせた」「太郎が会社を倒産させた」のような構文の主語が"unintentional causer"に該当することを述べ、これらの構文中の「させる」は、「腐る」「死ぬ」のような語彙的他動詞を持たない自動詞を他動詞化する働きをしており、使役という語彙的意味を導入しているのではないという解釈を打ち出している。
最後に本学の風間伸次郎氏による発表「言語類型論からみた日本語―日本語は本当に従属部表示型の言語なのか?―」が行われた。
  風間氏の発表は、日本語が従属部表示型言語であるのかについて、
(1)日本語の述語はかなりの場合は主語の人称を標示しているのではないか、
(2)日本語の名詞は、本当に主格対格によって文法関係を標示しているのか、という2つの問題点に基づき、検証を行ったものである。

  (1)については、一見従属部表示型のように見える日本語であるものの、動詞の方にデフォルトの人称階層があり、反転のシステムが十分に用意されている点で、主要部表示型の言語の性格を備えていると見ることができると主張している。
(2)については、口語における無助詞現象を取り上げ、日本語は口語では純粋な主格や対格は現れないことが多く、これは日本語が従属部に文法関係を示す標示を用いないことを意味するという点を指摘している。

この点はさらに映画のシナリオを用いたパイロット調査による検証が加えられており、その結果、日本語における典型的な格標示として、主語や目的語は明示的な形式を持っておらず、他方では主語や目的語といった文法構造は、述語の相対的人称標示によって主に示されているという点が主張されている。従って日本語、特に口語は、どちらかと言えばむしろ主要部表示型の言語であると見ることが可能であるという風間氏の主張は、言語類型論の枠組みの中における日本語の位置付けと合わせて考察された、強い説得力を持つものであった。
(三宅登之)

公開研究会 写真 (PDFファイル)

公開研究会 ポスター (PDFファイル)

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