活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

夏期公開セミナー2013「言語・文学・歴史―国際日本研究の試み」(同時開催「国内 外における大学院生研究発表会」)(2013年7月31日)

講師:
趙華敏氏(北京大学外国語学院)中国
徐一平氏(北京外国語大学)中国
于乃明氏(政治大学)台湾
陳明姿氏(台湾大学)台湾
金鍾德氏(韓国外国語大学校)韓国
川口健一氏、橋本雄一氏、野本京子氏(東京外国語大学)日本

日時:2013年7月31日 - 8月2日(水 - 金)10:00-16:00(8月1日は -14:15)
会場:東京外国語大学府中キャンパス アゴラグローバル3階プロジェクトルーム

※同時開催「国内外における大学院生研究発表会」
日時:7月31日(水)16:15-19:30、8月1日(木)14:30-17:00
会場:東京外国語大学府中キャンパス 留学生日本語教育センター103室、107室

「言語・文学・歴史-国際日本研究の試み-」と題し、昨年(「言語・教育・文化-国際日本研究の試み-」)に続く第2回として8名の講師による夏季公開セミナーが行われました。また今回は、国内外の大学院生による研究発表会を併催。日本・中国・台湾・韓国から集った19名の院生が発表をしました。セミナー各講義の報告要旨を紹介します。(敬称略)

仮名文字とハングルの発明と女流文学
金鍾德 (韓国外国語大学)
「かな」を発明と呼ぶかどうかはともかく、時代の違いはあっても「ハングル」の発明とともに男性にしか与えられなかった漢文リテラシーの権力構造の外側におかれた女性たちに、識字や文学表現の機会を与えたことは間違いがない。金氏の講義は時代や社会背景の違いを越え、すぐれた表現者であった女性たちの存在に改めて照射し、それぞれの王朝女流文学についての整理と分析を実にわかりやすく伝えていた。

『伝奇漫録』と『伽婢子』 ─『剪燈新話』受容をめぐる越日比較─
川口健一 (東京外国語大学、TUFS)
中国の伝奇小説集「剪燈新話」の日本とベトナムでの「受容」を、ベトナムの16世紀の「伝奇漫録」と日本では17世紀の「伽婢子」に見ようとする試みであった。同じ「漢字文化圏」とされる日本・ベトナムではあるが、ローカライズの違いが実に興味深い。自由にストーリーを付け加え作り替えるベトナムに対し、原作に忠実であろうとしつつも、日本の読者の理解のための改変はとりいれた日本。簡単に「漢字文化圏」と括ってしまうと見逃してしまうことがあることを教えられた。

「人間を助ける鬼」類型説話について―『今昔物語集』と中国の古代小説を中心として―
陳明姿 (国立台湾大学)
「鬼」の文字は日本では「おに」と読まれ、かわいいものから恐ろしいイメージまで偶像化され、身近なものである。陳明姿氏がレクチャーの中でこの文字を「ki」と読み続けることにこだわったのは、中国の小説の「鬼」は、日本人が「おに」に抱くものとはかなりの距離があることを強調するためである。「ki」が人間を助けるときに示す条件は、欲望と狡さに満ちているが、陳氏の類型化はそれらをむしろ楽しく伝え、人間誰しもが持つ醜い側面を「鬼」に託したものであると語った。
(前田達朗)

認知と言語の使用について
趙華敏 (北京大学)
認知言語学における事態把握について解説された後で、小説や母語話者の産出データなどから、主語の省略や授受表現などについて中国語と日本語の事態把握の相違について説明された。これらの理解の上で言語教育や教材開発にあたる必要があることがあらためて認識される内容であった。

日本語の多義形容詞の意味記述及び意味存在条件について ─コーパスの視点から─
徐一平 (北京外国語大学)
多義語「甘い」の共時的な意味について、コーパスのデータを活用し、意味用法を再考した上で、メタファー、メトニミーによる多義的な意味拡張について分析した。包括的かつ体系的に記述され、認知意味論、文法論、連語論などの理論に依拠しつつ、ボトムアップ的な研究方法が提案された。
(谷口龍子)

日本の近代化と農本主義
野本京子 (TUFS)
本講演は、いうまでもなく農本主義研究の第一人者である野本氏による、農本主義研究史の格好のサマリーであった。近代化・産業化に対する対抗思想としての農本主義。さらに「家」「村」が肯定的に論じられるようになった現代。講演は、主な研究を参照し、農業経営や農民の実態についてのデータを参照しながら、<農>そのものの問題提起的なありようと、その思想的な表現としての<農本主義>の相関関係を鮮やかに浮かび上がらせた。

眼線の地下室と都市 ―近代植民地ハルビンは文芸にどう関心を持たれたか―
橋本雄一 (TUFS)
本講演は、丁寧なフィールドワーク・史料調査にもとづく植民地文学研究を進めてきた橋本氏の手法と、大胆な文学的想像力とが組み合わされた華麗なページェントであった。植民地都市ハルビンの空間に引かれた〈眼線〉。上/下への眼線、異者の表象、都市の<外部>への眼線、そして多様なエスニシティーと労働・商業・住居をつなぐ歩行者の眼線......。これらが折り重なって表出する<文学>の快楽を氏は巧みに語った。

小田切万寿之助と中国
于乃明 (国立政治大学)
東京外語大出身の外交官・小田切万寿之助(1868-1934)は、于乃明氏の研究によって甦った形象である。近代日本政治史において活躍した東北人脈の一角を担いながら、歴史に埋もれてきた小田切は、日中実業・外交での業績、とりわけ中国人実業家・盛宣懐との協力にもとづく貢献に加えて、のちに「東洋文庫」に結実する「モリソン文庫」を購入したことでも知られる。原資料の詳細な調査にもとづいて小田切万寿之助という人物史を完成させた于乃明氏の研究は、それ自体が日中文化史の一頁である。
(友常勉)

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