活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

国際日本研究センター 対照日本語部門主催『外国語と日本語との対照言語学的研究』第10回研究会(2013年 7月13日)

発表者:池上嘉彦氏(東京大学名誉教授)、金指久美子氏(東京外国語大学)、土屋 順一氏(東京外国語大学)
日時:2013年7月13日(土)13:50-17:30
場所:東京外国語大学留学生日本語教育センター1階 さくらホール

言語の歴史をさかのぼる上で古い時代の文献は不可欠であるが、その中に偽書が紛れ込む可能性がある。金指久美子氏はスラブ語の世界から、チェコの2つの偽書『クラ ーロヴェー・ドヴォルスキー手稿』『ゼレオホルスキー手稿』およびロシアの偽書『ヴェレスの書』について、文献の発見、歴史的背景、偽書説が有力になるまでの経緯、偽書と判断される言語的根拠や現在の見解などについて紹介された。共通してスラブの神話を題材にし、ハプスブルクに対抗する愛国心の発露であると する指摘に納得する。

土屋順一氏の発表は留学生にPC上で質問項目を日本語でキーボード入力してもらったアンケートのデータを10数年にわたり収集したデータベースの応用可能性について の興味深い報告であった。留学生がキーをどのように打ち込むかをそのまま録画し、誤入力を音声・音韻分析(母音の長短、摩擦音と破擦音など)に用いるのがプロジェ クトの当初の目的であった。その後文法・語彙への応用が試みられ、並列表現、助詞+「の」などの課題への取り組みがなされた成果が報告された。蓄積されたデータは 今後のさらなる研究の貴重な源泉となるに違いない。

池上嘉彦氏のご講演は対照言語学がテンスや数・語彙のように個々の言語的特徴を比べるよりはその統合的特徴をとらえるのが現代的方向であるとの導入から始まった 。文の生成の中心に<認知の主体>をすえ、言語化の過程で自らとの関連で<事態>をどのように把握するかを考える<事態把握>(construal)が基本となる。<事態把握>は相対的で、言語によって<好まれる言い回し>(fashions | of | speaking)がある。<客観的把握>が一般的である多くの言語に対し日本語は<主観的把握>を特徴とすることを川端康成『雪国』の冒頭文など豊富な例を挙げ、<主客合一>の実態が示された。最後に言語教育の場面でも、話者の動機や<認知スタンス>まで考慮することでより効果があがるのではないかとの示唆もあり、2時間近い講演が締めくくられた。

ご高名な池上先生をお招きすることができ、60名ほどの研究者、院生、学生が参加する盛会となったことを付記しておきたい。

(高垣敏博)

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