活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

『外国語と日本語との対照言語学的研究』第7回研究会(2012年7月21日)

対照日本語研究部門では、プロジェクトの一環として、次の研究会を開催した。
伊藤英人氏(東京外国語大学)
研究発表「類型論的観点から見た朝鮮語と日本語のひとつの問題 ― 朝鮮語史における名詞化 ― 借字表記法資料を中心に ―」
小川暁夫氏(関西学院大学)
講演「dummy subjectとその周辺 ― ドイツ語、他言語、そして日本語」
上田博人氏(東京大学)
講演「広域スペイン語語彙バリエーション研究における新しい数量化の試み: 日本語方言地理学の方法と比較して」

日時:2012年7月21日(土)11:45-14:45
場所:東京外国語大学 語学研究所(研究講義棟4階419号室)

伊藤氏は、現代朝鮮語の名詞化を概観した上で、ハングル創製以前の朝鮮語、すなわち10世紀以前の古代朝鮮語および10~14世紀の前期中世朝鮮語の借字表記法資料に見られる名詞化を考察した。動詞からの派生名詞と動名詞のほかに動詞の連体形の用例も多く取り上げ、豊富な実例を示しながら、連体形には連体修飾用法と動名詞的用法が認められること、また、前期中世語の-r連体形が現代語のような「時間的未実現」の意味よりも潜在的、叙想的世界で実現する事柄を表していたとする解釈などを提示した。

小川氏は、一般に虚主語(Dummy Subject)とされるドイツ語非人称構文のesを取り上げた。 wird dunkel.(暗くなる)などの天候・気候表現および感覚・感情表現の例文を観察し、 ist schlecht.(私は気分が悪い)のような経験者の与格の振る舞いとも比較しならが、当該のesは言わば「状況」を表すという意味で統語的にのみならず、意味的・機能的にも文を完全にする要素であると主張した。また、日本語を含む諸言語の当該表現を「ゼロ主語-虚主語-同族構文-虚述語」という軸上に位置づけるという類型化の試みも提示した。

上田氏は、VARILEX「世界の中のスペインの語彙バリエーション」プロジェクトの成果を踏まえて講演された。スペインとアメリカ大陸、さらにアジア(フィリピン)とアフリカ(赤道ギニア)に広がるスペイン語圏の24カ国63都市における語彙調査の結果を、今回は特に「罵り言葉」を中心に取り上げ、多変量解析、データ行列の統合化、原点平均距離法など統計処理法を比較しながら最適法を用いて、調査結果の生データから何が読み取れるかということを示した。分析に基づいて多言語等値線を引いてみるとスペイン語圏が大きく3つのグループに括りうるということを示した。

(成田 節)

伊藤氏による研究会の 資料 (PDFファイル)

研究会の 写真 (PDFファイル)

 English page