活動報告

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講演会「方言コスプレ」とは何か?(2012年6月28日)

講演者 田中ゆかり氏(日本大学教授)
日時:2012年6月28日(木)16:00~17:30 於 227教室

関西人でもないのに「なんでやねん」、土佐人でもないのに「やるぜよ!」――こんな「ヴァーチャル方言」を用いた言葉のコスプレのような現象を「方言コスプレ」と呼ぶ。「方言コスプレ」とは、関西方言はおもしろい、東北方言は素朴、といった日本語社会の中で広く共有されている「方言ステレオタイプ」が示すヴァーチャル方言の特定のキャラを、コスプレのように着脱可能なものとして身にまとう現象であると言える。方言はかつてマイナスのイメージを持つものであったが、1980年頃から、「方言」が個性として価値を持つものとして考えられるようになった。それは全国で「共通語」化が完了し、生育地方言と「共通語」を使い分けることが一般的になった結果である。その後、方言の部分的要素を「共通語」にちりばめて使うという用法が生まれた。それを「方言のアクセサリー化」と呼ぶが、そこから方言コスプレが生まれたと言える。その背景には携帯メイルなどの「自己装い表現」が多用される「打ちことば」が日常化したこと、方言をおもしろいものとして捉える「方言のおもちゃ化」も進んでいるということがあげられる。

「方言コスプレ」は「共通語中心社会」で特に目につく現象で、西日本などの「方言主流社会」ではこのような現象を不快に思う人もおり、ある意味、「東京勝手」な現象であると言うこともできる。実際、これは首都圏出身者が友人の友人宛のメイルに特徴的に現れるものである。しかし、非首都圏出身者でもメイルでは見られ、さらに、山形県での調査の結果から、将来「方言主流社会」でも実際に使われる「本方言」(リアル方言)の代替物として「方言コスプレ」などの自分の方言ではないヴァーチャルな方言である「ニセ方言」が台頭してくるという未来予想もある。

一見、単なる言葉遊びに見える「方言コスプレ」という言語行動の背景には、現代日本語社会のさまざまな問題が潜んでおり、さらには未来予想の一つの可能性も見せてくれるものである。

当日は約150名の参加があった。参加者は、今現在の言語現象、身近なところで実際に耳にしたり、使用したりしているものを取り上げられ、それに名前をつけることにより、一つの社会現象として意識されるようになるという過程を経験した。初めて聞く言葉ではあるが、現象やその意味するところは納得のいくものであったという感想が多く見られた。言葉は生きているもの、変化するものである。我々は常にその変化の中に生きているが、それを意識することは少ない。この講演により言葉を研究対象にすることのおもしろさ、特に、社会の中における言葉の持つ意味のおもしろさを参加者も味わったようである。生きた言葉を分析するという言語研究の一面を示した、興味深い、そして意義のある講演であったと言える。

(坂本惠)

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