活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

講演会「モバイル時代のコミュニケーションのゆくえ」(2012年1月23日)

1月23日(月)18時から、社会言語部門主催の講演会を行った。講師は東洋大学文学部の三宅和子氏。「モバイル時代のコミュニケーションのゆくえ」のタイトルで行われた講演は、コンピュータや携帯電話などのパーソナル・メディアがもたらしたコミュニケーションツールの変革と、そこで使われる様々な「約束事」が、これまでになかったコミュニケーションの形を産出しているという視点が提示された。対人関係を距離の近いものから順に「ウチ」「ソト」「ヨソ」と分けた場合、ネットが媒介することで「ヨソ」との接触がこれまでになかった頻度で起こるようになる。もちろん「ソト」が「ウチ」へと変わるということではなく、「ソト」が「ソト」のままで、コミュニケーションの機会が増えるのである。人類の歴史の中でメディアの「革命」はコミュニケーションのあり方を変えてきた。印刷物の普及、電波音声メデイアの登場などもそれにあたるが、しかしながら、対人コミュニケーションは、対面がデフォルトであり続けた。対人関係に依拠しない別のコミュニケーション世界ができることで、これを「非現実」と呼ぶには、特に若い世代ではリアリティがありすぎるのだ。

さらにこれまでのコミュニケーション研究になかった視座として、「受け手の研究」についての言及があった。携帯メールの文面の分析を通じて三宅氏が到達した一つの結論は、「受け手依存型のコミュニケーション」であった。具体的な事例として、怒っていることを暗に伝えるために用いられるストラテジーが紹介された。短い文面、絵文字などの使われ方が少ない、などのいくつかのメタファーから、受け手が「察する」という約束事ができあがっている。伝えたいことをストレートに表現しないコミュニケーションが、若者に使われているという分析が示された。絵文字というツールは実は日本独自のもので、三宅氏は需要があったからこそ発達したとの説明をする。日本以外からの参加者からは、その点について質問がいくつかあった。

また、質問やコメントの中に、三宅氏のデータは、特定の年代の(若い世代)、特定の性別(女子学生のデータが多かった)に限られるのではないか、というものが集中した。また現役の大学生からすると、少し古い感じがするというコメントも見られた。

ここに社会言語学のおもしろさと、難しさが共存している。つまり、動態を切り取る作業が要求される実際のフィールドでは、データを集めた時にはすでになんらかの「偏り」が生じ、分析が終わったときにはすでに古いものになってしまう可能性があるのだ。

こういったある種のディレンマを抱えながらも、常に新しい情報を入手し、分析し、発信し続ける、という作業を続けることに、この種の共時的なテーマを扱う際には意味を見いだす必要があることを考えさせられた。

研究会の 写真 (PDFファイル)

研究会の ポスター (PDFファイル)

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