活動報告

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e-Japanology研究会「文化商品の海外展開について――アニメ商品を題材に」 2011年11月4日(金)

 比較日本文化部門+国際連携推進部門では、佐野洋氏(本学)、辻澤隆彦氏(東京農工大総合情報メディアセンター)に協力を仰ぎながら、e-Japanologyの研究・開発に向けた議論を進めている。e-Japanologyは学術・教育コンテンツの電子化・配信にとどまらず、デジタルテクノロジーを用いて日本学・日本研究を海外に発信するネットワークを構築しようという試みである。今回は現役のアニメビジネスを手掛けている関連会社からゲストをお招きし、①アニメ商品の海外展開における地域差、メディアの活用方法、②日本アニメ受容層について、③ライセンス保護について、などのトピックでお話しいただいた。その経験が学術情報を海外に発信するためのモデルになるのではないかと考えたからである。ゲストからは、ⅰディズニーのように大規模で直接的な販売戦略を展開してきたアニメビジネスと、海外の現地エージェンシーを介して行われる日本のアニメビジネスとの相違、ⅱ海外で流通している「不正規」商品(=違法なコピー)に対してコンテンツの質を守るための努力、ⅲ海外の日本アニメ受容層の特化傾向(=マニア化)と文化としての社会的位置、ⅳ日本のアニメ・マンガ商品のクオリティの源泉などについて、お話しいただいた。質疑応答もまじえた討論のなかでは、正確な文化翻訳こそが文化商品の現地化を可能にするという原則や、日本の水準に肉薄している韓国マンガの質の高さ、さらに、日本政府が主導して唱えているCool JapanやAll Japanなどの方針に、いささかの時勢遅れや実態に対する過大視があることなどが語られた。

 総じて、私たちが漠然と抱いていた日本アニメをめぐる最新の事情について、学び直すことが多かった。私たちの認識は、日本のアニメやゲームについて、海外からのリアクションが喧伝された1990年代の初頭ぐらいで止まっている場合が多いからである。いいかえれば、文化商品をめぐる私たちの想像の世界地図を刷新する必要があると強く感じた。コンテンツの特性や海外での位置についての新しい知見は、大学で日本の文化商品を語る上で重要である。さらに、今後、そうした最新のリサーチもますます必要になるだろう。

 越境の試みという点で共通性があるとしても、より多くの商品をより多くの地域で販売することを目的としたビジネスと、文化や学知のグローバル化をめざす学術研究とでは方向が異なる。また、必ずしもビジネスとして商品展開ができていなくても、日本アニメの受容層が確実に存在する地域もある。この研究会で得た理解を踏まえれば、著作権保護や市場の占有を争うリスクと費用対効果を問題にするビジネスに対して、学術研究・教育の「海外展開」は、地域や母集団の規模・その社会的位置に関係のない、ピアな関係を重視した多様な「オープンアクセス化」にこそ真価が発揮されると、改めて認識した。なお、十分な広報ができなかったが、15名ほどの参加を得ることができた。感謝したい。

(友常勉)

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