活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

言語研究と教育シリーズ第1回研究会「『省略』日仏対照研究と教育への応用」

講演者:
金谷武洋氏(モントリオール大学、カナダ)
秋廣尚惠氏(プロバンス大学、フランス)

コメンテーター:川口裕司氏、藤森弘子氏(東京外国語大学)
日時:2011年7月19日(火)17:40~19:50
会場:東京外国語大学留学生日本語教育センター「さくらホール」

 このシリーズは、言語研究の成果をどのように日本語教育に結び付けてゆくかという言語研究と教育現場のインターフェイスを目指す研究会である。

 第一回目は、フランス語圏の大学で日本語を教えている金谷武洋氏と秋廣尚惠氏を迎え、日本語とフランス語における主語や目的語の(いわゆる)「省略」をめぐる研究発表と討論を行った。当日は生憎の大雨にもかかわらず、30名以上の参加者があった。

モントリオール大学の金谷氏は、日本語とフランス語の基本文を対比させ、フランス語や英語は、主語と動詞の結びつきが強く、主語によって動詞の形が決まるが、日本語の基本文は人称代名詞から一切自由であることから、日本語における主語の否定を主張した。

 一方、プロバンス大学の秋廣氏は、フランス人日本語学習者が目的語の省略を過剰に行う誤用例を紹介し、誤用が生じる原因として、フランス語において非照応的な省略が多く行われている点を指摘した。また、このような誤用を生じさせないために、動詞と目的語のコロケーションを早い段階から指導することを提案した。さらに代名詞の省略や繰り返しの有無は談話の規則に従うものであることから、日本語教育において早い時期から談話レベルにおける細かい指導が必要であると述べた。

 金谷氏、秋廣氏の発表に対して、川口氏は、省略を取り扱うには欧米語的視点である自他動詞の設定が必要かどうかといった議論から始める必要があることを述べた上で、15世紀以降フランス語の動詞活用の種類減少も一つの誘因として、フランス語のXVO構造がSVO構造に変化した経緯について言及された。一方、藤森氏は日本語教育の観点から、文型中心に動詞と助詞や目的語と動詞をペアとして指導することがグローバルな誤用の防止に肝要である点、さらに、秋廣氏と同様に文レベルではなく談話レベルで日本語を指導することの必要性を強調した。

 金谷氏は日本語の主語の(いわゆる)省略について類型論から論じ、秋廣氏は日本語とフランス語の目的語省略について例証した上で、おそらく言語転移として考え得るフランス語母語話者による日本語の目的語を省略し過ぎる誤用例も紹介された。

 今回の研究会は、日本語教育における文型積み上げによる指導法の重要性を再認識させられるものであった。

研究会の 写真 (PDFファイル)

研究会の ポスター (PDFファイル)

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