活動報告

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講演会「宮澤賢治の作品にみられるキリスト教的表象」開催 2011年5月16日(月)

 2011年5月16日に比較日本文化部門・国際連携推進部門の共催で、プラットゥ・アブラハム・ジョージ氏(ジャワハルラル・ネルー大学)の講演会「宮澤賢治の作品にみられるキリスト教的表象」が開催された(本部棟中会議室)。コメンテーターは柴田勝二氏、中野敏男氏(いずれも本学教員)。70名を超える参加者で盛況であった。

 講演者であるジョージ氏は現在、国際日本文化研究センターの共同研究者として、国際的な宮澤賢治研究をリードされている。

 ジョージ氏は、宮澤賢治の作品の中におけるキリスト教関係の言葉、モチーフそして思想を丹念に拾い上げつつ、法華経信仰者であった賢治がなぜキリスト教という異宗教の要素を自分の作品の中に盛り込んだのかと問いかけた。そして、賢治の周辺のキリスト教関係者の存在、日本女子大学に入学しキリスト教に接していた妹・とし子の影響とその死などの転機を押さえつつ、聖書の黙示録から得たヒント、自分の作品における普遍性と救済の思想を深めようとした意図などを展開した。

 ジョージ氏の講演に対して、柴田氏は、法華経との関係からみた、賢治におけるキリスト教の影響の相対化、賢治における「本当の神」の意味などを、作品例を通して問題提起した。中野氏はジョージ氏の講演に示唆されるところ大であったとしつつも、戦前日本の大東亜共栄圏構想の思想的前提のひとつとなった国柱会が賢治に占めた意味と、関東大震災と今日の東日本大震災とを参照し、関東大震災前後の賢治作品にみられる変化から、「震災から戦争へ」という時代的思潮を読みとる必要があるのではないかと提起した。

 賢治のアイデンティティをどこにみるか、また、賢治がめざした宗教的思想的な普遍性と、賢治がコミットしていた時代状況とのどちらを重視するかという問題は、宮澤賢治研究が常に伴う争点であろう。ただし、そうした賢治研究の蓄積を消化しつつ、賢治作品がもつ宗教的普遍性という志向性をキリスト教的表象から論じたジョージ氏の講演は斬新であるだけでなく、賢治研究により広い国際思想的な視野が必要であることを実感させた。国際的な文脈に立った日本研究の意義を再確認する講演会であった。

研究会の 写真 (スライドショーでご覧いただけます)

研究会の ポスター (PDFファイル)

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