LUNCHEON LINGUISTICS
要旨
2017(平成29)年
2016(平成28)年
2016年11月30日
「第153回日本言語学会大会報告」
  発表者 橋本直樹(東京外国語大学大学院博士前期課程)
 →2016年12月3、4日に福岡大学で行われた日本言語学会の報告を行った。まず大会の概要について説明した後に、ディリック・セバル氏(岡山大学大学院)の口頭発表「トルコ語における存在表現の文法化」を取り上げ、発表の概略を報告した。
2016年11月30日
「自然談話における宮古島池間方言のnyaanについて‐使用頻度に基づく意味機能拡張の仮説‐」
  発表者 呉唯(東京外国語大学大学院博士前期課程)
 池間方言における補助動詞nyaanには、「完了」のアスペクト的な意味に加えて、日本語標準語の「~てしまう」と類似する機能――「非実現バイアス」(実現しなかった方がいいという話者の評価)がある。先行研究では、「腐る」のような「ものの正常な機能の消失」を表す「準消失動詞」と組み合わせることがnyaan意味拡張の動機とされたが、調査した談話データでは合計70例の中に「準消失動詞」が2例しかない。
 そして、本発表では、「話者が動作主と一致しない場合に多用されること」が「非実現バイアス」が生じた主な要因であると主張する。興味深いのは、梁井(2009)によると、日本語の「~てしまう」は話者と動作主が一致しない例が多く、それが動機となりマイナスの感情・評価的意味が焼き付けられた。この言語事実は、まさにnyaanの「非出現バイアス」の表出と平行的に捉えられる。
2016年11月9日
「ConCALL 2016 (2nd Bi-Annual Conference on Central Asian Languages and Linguistics) 大会報告」
  発表者 山田洋平(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 2016年10月7日から9日の日程で行われたConCALL 2016 (2nd Bi-Annual Conference on Central Asian Languages and Linguistics)の報告を行った。大会はアメリカ・インディアナ州ブルーミントンのインディアナ大学で行われた。
2016年10月19日
「イロカノ語の直示的移動動詞」
  発表者 山本恭裕(京都大学大学院文学研究科博士後期課程)
 イロカノ語(オーストロネシア語族、フィリピン)は空間的直示動詞とされるʔay「来る」とpan「行く」を持つ。本研究では、映像刺激を用いた描写実験から得たデータにより、この2つの動詞の意味的性質を分析した。これら2つの動詞の分布を理解するには、(a)従来の分析で用いられてきた「直示的中心」という概念が、話者のやりとりが関わる機能的な空間として定義される必要があること、また(b)語彙化された意味と、推論により生じる語用論的な含意を区別する必要があることを論じた。これにより、(1) ʔayは話者領域(話者によって自身の領域と認識され、物理的な障壁などによって定義される)への移動を表し、一方(2) panは語彙的には直示性を持たない要素であり、全般的な移動を表す。また(3) panは典型的には非話者領域への移動を表すと解釈されるが、これは「より特定的な要素であるʔayが使用されない=話者領域への移動ではない」という推論から生じる含意であることを論じた。加えて、(4) 2要素の使用頻度は移動者の有生性により差が生じることを報告した。
2016年7月6日
「国際シンポジウム“Japanese and Korean accent: diachrony, reconstruction, and typology” 報告」
  発表者 小山内優子(東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 ジュニア・フェロー)
 2016年7月2日(土)~3日(日)に本学アジア・アフリカ言語文化研究所にて、国際シンポジウム“Japanese and Korean accent: diachrony, reconstruction, and typology”が開催された。本報告では、まずシンポジウムの全体像を報告したのち、2日間の発表の中から“Mora and syllable in the pitch accent system of Koshikijima Japanese”(窪薗晴夫国立国語研究所教授)を取り上げ、紹介した。
2016年6月29日
「日本言語学会第152回大会報告」
  発表者 蔡熙鏡(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 2016年6月25日と26日に慶應義塾大学三田キャンパスで開催された日本言語学会第152回大会について報告を行った。報告では、まず大会の概要について説明した後に、報告者が聞いた口頭発表から、倉部慶太氏の「ジンポー語における人称階層に基づく動詞の一致」と山田洋平氏の「モンゴル語の係り結び」の2件を選んで、やや詳しく紹介した。
2016年6月22日
「イディッシュ語とは何語か」
  発表者 鴨志田聡子(東京外国語大学非常勤講師、東京大学人文社会系研究科研究科研究員、東京大学先端科学技術センター協力研究員)
 本発表では、ユダヤ人の言語の一つであるイディッシュ語の歴史や言語的特徴を説明した。イディッシュ語話者たちはこの言語を日常生活で使い、豊かな創作活動をしてきた。しかしこの言語は「死にゆく言語」とも呼ばれている。これは話者が虐殺されたこと、世界各地に移住し拡散したこと、そして各地の言語に同化したことなどによる。とはいえ、ニュ ーヨークやエルサレムを中心に世界中にまだ多くの話者が存在している。イディッシュ語の話者の歴史はこの言語の特徴に反映されている。イディッシュ語は基本的にヘブライ文字で書くので一見ヘブライ語に見えるのだが、ラテン文字で書くとドイツ語に似ている。ドイツ語の影響が強いため借用語が8割程度あり、文法も似ているためだ。とはいえユダヤ人の宗教や伝統に深いかかわりのあるヘブライ語や、 ユダヤ人が長年住んだ地域の言語スラブ語からの影響も強い。これ らの言語の借用語も多く、文法的な影響も受けている。本発表の最後にユダヤ英語Yinglish (EnglishのEをとって、YiddishのYをつけたもの)を紹介した。発表を通じてユダヤ人の歴史を言語に反映したイディッシュ語は独特な言語だということを解説した。
2016年6月15日
「アイルランド語の『完了受動』における動作主人称」
  発表者 山田怜央(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 アイルランド語(印欧語族ケルト語派島嶼ケルト語ゴイデリック諸語)には、‘be done’のような構造で表される『完了受動』と呼ばれる形式が存在する。ただし『受動』と呼ばれてはいるものの、この形式は典型的な『受動』としての特性を持たないように思われる。
 そこで本発表では、この『完了受動』が持つ特性について、動作主人称に着目し、その情報構造の観点から考察をおこなった。具体的には、典型的な『受動』では、1人称動作主の出現頻度がかなり低くなることが予想される。
 結果として、アイルランド語の『完了受動』は無標の文と比べて1人称動作主の現れ方に差が見られず、情報構造の点からは全く『受動』らしくないことが明らかになった。
2016年6月1日
「第二回国際モンゴル語学会(於・カルムイク国立大学)報告」
  発表者 山田洋平(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 ロシアのカルムイク共和国エリスタにあるカルムイク国立大学にて2016年5月19日~21日の日程で行われた第二回国際モンゴル語学会(II Международная конференция по монгольскому языкознанию / Second International Conference on Mongolic Linguistics) の参加報告を行った。また発表者が学会にて行った口頭発表「ダグール語の条件副動詞」の内容を以下の通り紹介した。
 ダグール語の条件副動詞 -AAs「~すれば」には、所属の形式の付与が義務的である。これは主節と従属節の主語が同一である (再帰) か異なるかを示す指示転換がマークされているものであると言える。こうした義務的な指示転換は他のモンゴル諸語には類を見ず、また周囲のツングース諸語 (南グループ: ソロン語、ヘジェン語、マンジュ語) にも見られない。
2016年5月25日
「英語会話のco-constructionにおける話者間の知識・情報の共有」
  発表者 第十早織(東京外国語大学大学院博士後期課程)
 本発表では、英語会話におけるco-constructionを参与者のトピックに関する知識量の観点から分析した。Co-constructionとは、話者Bが話者Aの発話を完了させ、ひとつの統語的まとまり(syntactic gestalt: Auer 1996, Szczepek 2000)を作り出す現象である。Co-constructionにはcompletion typeとexpansion typeの2タイプがあると言われている(Ono and Thompson 1995, 1996)。以下が例である。
(1) Carsales3
1G:.. when you say it happens for a reason,
2 .. it’s like,
→3 ... () it happened to get you off ?
→4 D: .. off my ass.
(Ono and Thompson 1995: 228)

(2) Africa 2
1A:.. actually,
→2 they just went out to<% Chisera= %>,
3 .. to go [out to the river].
→4 B:[which is a hundred miles],
5 in the [2 bush 2].
6A:[2 it's 2] about a hundred miles away,
7 .. and they w- were just going to go up to the river.
(ibid.: 228)
 (1)はcompletion typeの例である。4行目で話者Dが3行目の話者Gの中途半端な発話を完了させている。(2)はexpansion typeである。話者Bは話者Aのそれだけで意味も統語も完全な発話に要素を付け足して発話を拡張している。
 これまでは主に、なぜco-constructionが可能となるのかに焦点があてられてきたが(Ono and Thompson 1995, 1996など)、実際の会話で何が起こっているのかはあまり分析されてこなかった。そこで、本発表では参与者の会話のトピックに関する知識量・情報量の観点から、話者Aと話者Bの知識量の差や、その差がどのように埋め合わされ、co-constructionが生じているのかを観察し、記述した。例えば、話者Aの知識量が多い場合、話者Bは確認をするように上昇調イントネーションで不足要素を補完する。一方で、話者Bに知識量が多い場合は、下降調イントネーションで補完する。この場合、ひとつのsyntactic gestaltの中でふたつの行為(Q and A)が生じることが多い。このようなsupportiveな機能がco-constructionの典型である。また、典型から逸脱したcompetitiveな機能もある。話者Bはあえて推測しうる話者Aの後続発話と異なる内容を発し、ユーモアや意見の対立を示す。典型であるsupportiveな態度を装って補完することにより、このような機能が生じる。この現象を観察することで参与者のどちらがトピックに関する知識や情報量を多く持っているのか、どちら側の情報について述べられているのかを分析することができる。
 また、expansion typeには話者Bの視点から大きくclarification機能をもつものとspecification機能をもつものがあった。前者は話者Aの発話に情報を付け足して、より詳細なものにする役割を果たす。その大多数が下降調イントネーションで付け足されていた。後者のタイプは話者Aの発話に情報を付け足して自分(話者B)自身の理解を促すものであった。こちらは上昇調イントネーションで付け足されていた。Completuin typeに比べて、expansion typeは話者Aによりそった発話(supportive)というより話者B自身の視点から付け足される傾向が強かった。
 なぜco-constructionが生じるのかという疑問には様々な要因が考えられる。まず、相手の発話をしっかりと聞いているからこそco-constructionが可能であるという点で、相手とのengagementを高めることができる。さらにはprojectabilityの観点から、相手の統語構造を引きついで活用することで参与者が新たな統語構造を算出・処理するための認知的負担を軽減することができ、他の処理(意味論・語用論的解釈など)へとその余力を配分することができるためであると考えられる。

参考文献
 Auer, P. 1996. On the prosody and syntax of turn-continuations. In E. Couper-Kuhlen and M. Selting (eds.), Prosody in Conversation. Cambridge: Cambridge University Press. 57-100.
 Ono, T. and Thompson, S. A. (1995). What Can Conversation Tell Us about Syntax? in P. W, Davis (ed.), Alternative Linguistics: Descriptive and Theoretical Modes. Amsterdam; Philadelphia: John Benjamins. 213-271.
 Ono, T. and Thompson, S. A. (1996). Interaction and Syntax in the Structure of Conversational Discourse: Collaboration, Overlap, and Syntactic Dissociation. in E. H. Hovy and D. R. Scott (eds.), Computational and Conversational Discourse: Burning Issues ? An Interdisciplinary Account. Berlin: Springer. 67-96.
 Szczepek, B. B. 2000b. Functional aspects of collaborative productions in English conversation. Interaction and Linguistic Structures 21: 1-36. (URL: http://www.inlist.uni-bayreuth.de/issues/21/inlist21.pdf)
2016年5月18日
「ラマホロット語におけるə̃ʔə̃「作る」による動詞連続とその文法化」
  発表者 長屋尚典(東京外国語大学大学院総合国際学研究院講師)
 ラマホロット語はオーストロネシア語族中央マレー・ポリネシア語派に属し、インドネシア共和国東部のフローレス島で話されている。この言語は、この島の他の言語がそうであるように、孤立的な言語で、動詞連続構文を頻繁に用いる言語である。本発表では、この言語における動詞ə̃ʔə̃「作る」に注目し、この動詞が語彙的動詞から動詞連続構文を介して、使役、道具、同伴者、さらには様態副詞標識、等位接続詞まで用法を拡大していることを、主語との一致や接語代名詞の振る舞いなどを証拠として論じた。
2016年5月11日
「東・東南アジア諸語における地域的翻訳借用」
  発表者 倉部慶太(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 / 日本学術振興会特別研究員PD)
 本発表では、東・東南アジア諸語の地域的翻訳借用の一例として「日食」と「月食」を取り上げ、当該地域の言語では「食」を表す際に「捕食者+日/月+摂食する」という構造が用いられることが多いことを報告した。同地域の約100の言語と方言を対象に調査した結果、次のことが分かった。(a) この構造は当該地域の80弱の言語に系統を越えて広く観察される。(b) 捕食者として様々な動物が用いられ、「犬」「虎」「蛙」「蛇」「魚」「ムササビ」「精霊」などが現れる。(c) 摂食動詞として「食べる」または「呑み込む」が用いられる。(d) 「日食」と「月食」で非対称性を示す言語が複数あり、例えばラフ語では「日食」では捕食者として「虎」を用いるが、「月食」では「蛙」を用いる。(e) SOVを基本語順とするチベット・ビルマ諸語は「食」表現では OSV 語順を用いる。
2016年4月27日
「ポポロカ語テマラカユカ方言における名詞の生産的複合と語彙的複合」
  発表者 中本舜(東京外国語大学外国語学部南・西アジア課程ウルドゥー語専攻)
 ポポロカ語テマラカユカ方言においては、形態音韻論・統語論・意味論的基準によって、基本的には語形成に使われる2種類の名詞複合、「生産的複合」と「語彙的複合」が区別される。
 形態音韻論的には、前部要素が独自の音韻論的ドメインをなすことを示すような形態音韻論的規則や音素配列論的な制約がある場合生産的複合とみなされる。統語論的には、動詞や句を取ることができる場合生産的複合とみなされる。意味論的には、動物や人間を表す前部要素が必ず生産的複合により複合される。
 この2種類の複合を区別することは、語形成研究およびポポロカ語学にそれぞれ意義を持つ。語形成研究においては、これに用いられる形態論的操作である生産的複合が他の言語において関係節によって表される表現の一部を表すことができるという点で語形成と統語論のインターフェイスに関する事例を提供する。また、ポポロカ語学においては、生産的複合に現れる前部要素が語彙的要因のみによって限定されるわけではないことから、Veerman-Leichsenring (2004)がポポロカ祖語に再建する「名詞類別詞」がポポロカ語テマラカユカ方言において一貫した文法カテゴリーとならず、本研究はVeerman-Leichsenringによる同カテゴリーの再建に疑義を投げかけるものであるといえる。
2016年4月20日
「Documentary Linguistics: Asian Perspectives (DLAP2016) 報告」
  発表者 山越康裕(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授)
 2016年4月6-9日に香港大学で開催されたDocumentary Linguistics: Asian Perspectives (DLAP2016)の概要を報告するとともに以下の発表について紹介した。
・Vijay A. D’Souza (University of Oxford)
 Gathering the right stuff. Some reflections on collecting the right language material during documentation
・Nala H. Lee (Stanford University)
 The Language Endangerment Index: A Southeast Asian Perspective
・Benjamin Brosig (The Hong Kong Polytechnic University)
 Documenting epistemicity in Qinghai Oirat
・Moira Saltzman (University of Michigan)
 Jejueo talking dictionary: A collaborative online database for language revitalization
・Ekaterina Gruzdeva, Juha Janhunen (University of Helsinki)
 Documentation and revitalization of the Nivkh language on Sakhalin
2015(平成27)年
2014(平成26)年
2013(平成25)年
2012(平成24)年
2011(平成23)年
2010(平成22)年
2009(平成21)年
2008(平成20)年
2007(平成19)年
2006(平成18)年
2005(平成17)年
2004(平成16)年
2003(平成15)年
2002(平成14)年
2001(平成13)年
2000(平成12)年
1999(平成11)年
1998(平成10)年

 
▲ ページ先頭へ戻る

© All rights reserved. Institute of Language Research, Tokyo University of Foreign Studies.