研究目的

 本研究の目的は、19〜20世紀ヨーロッパで国境の設定・再編にともなって創出された境界地域(ボーダーランド)であるイタリア・オーストリア・スロヴェニア等が国境を接するアルペン-アドリア地域における地域住民の経験と、アイデンティティをめぐる論理、記憶の継承を明らかにすることである。その際、近代国民国家によるネイション(国民)化運動の対象とされるボーダーランド住民の「ネイション帰属への無関心さ」に着目する。近代論が自明の前提としがちな「集合的実体としてのネイション」を「偶発的で流動的な共同性」ととらえ、近代化と国民国家設立以降生じた地域住民の戦略的選択である「ネイション帰属への無関心さ」を検証することによって、文化やナショナル・アイデンティティを本質化した衝突が絶えない現代社会を適切に理解するための基盤となる知見を歴史研究から提供することを目指す。