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2016年4月 アーカイブ

2016年4月 4日

オイコスと山

 昨年冬に原稿依頼を頂戴したご縁で、O田出版のWさんがリニューアルした雑誌「at+」を送ってくださった。学年末の忙しさで読めないまま置いてあったがようやく手に取ってみたら、「特集 現場を生きる」がとてもいい。とりわけ巻頭論考の岡啓輔さん「自分でビルを建てる:200年もつコンクリート」が滅法おもしろいのである。著者の岡さんは建築士の資格を持つ人ではあるのだが、東京都港区三田にたった一人、自力で家を建てている(セルフ・ビルドというらしい)というのは、驚きを通り越して勇気をもらえるハナシである。「人間の経済」を考えるためにもヒント満載である。

などと思っていたところ先日、イタリア在住の演出家・批評家のTさんが一時帰国し、セミ・クローズドの講演会に誘ってくださった。Tさんが大幅にコミットして邦訳は原著よりも充実させたという『石造りのように柔軟な:北イタリア山村地帯の建築技術と生活の戦略』(鹿島出版会、2015年4月)の著者の一人、アンドレア・ボッコさんの講演会である。
石造りが柔軟?というややびっくりなタイトルをもつこの本、ちょうど昨年今頃だったかTさんから邦訳刊行の知らせをいただき、さっそく手に入れて読んで感激したものだ。しかし著者から直接に話しを聞くと、その意味が何倍にもなって伝わってくる。ボッコさんは大学で教鞭をとる建築研究者であるが、街づくりの実践にも関わっている。この本はそんなボッコさんが北イタリアの山村地帯を歩いて廃墟となった家から、持続性のある暮らしの知恵を学び取った軌跡である。
「家」は寝るために帰るだけの場所ではなく、そこで生きる営み(広義の「生産」)がなされるオイコス(家政)の場である。はたらくこと、食べること、暖を取ること、それらの手仕事を通じて、ひとと動物と植物がその場でともに生きる。ボッコさんが発する言葉は、産業のない時代に戻れというメッセージではなく、未来に向けた贈り物である。

はからずもふたつとも「家」(オイコス)に関わる手仕事の話しであり、ふと、そうえいば昨年秋に招聘したグループの名前の「クルギ」も、ウォロフ語で「家」という意味だったなと思い出す。メンバーのチャットがインタヴューで、「あらゆることは家から生まれるんだ」と話していたっけ。「家」をめぐる手仕事は、実は長いスパンで未来を見据えている。岡さんの建築は、もう10年も作り続けていていつ終わるかもわからない。だから「三田のガウディ」などと呼ばれたりして、ご本人は忸怩たる思いもあるそうなのだが、スケールが大きくてすてきである。ボッコさんも山の中腹の家々が「一度作ったら未来永劫もつように作られている」こと、20年や30年ではもったいないとして、つまりは自分の子孫のために作られていることを読み取っている。時間に対する豊かな感覚がそこにある。それが多くの人びとのなかに根づくのは容易ではないかもしれないが、しかし不可能ではないはずだ。ゆっくり考えていきたいテーマである。
そうそう、Tさんから「学生さんを連れてどうぞ北イタリアへ見にきてください。そこで実際に石でも積みながら考えるといいんですよ」と言っていただいたのである。うわお、贅沢すぎるっ!!!若者諸氏はこうしたハナシにのるのかっ?!

2016年4月13日

もし文字数が量り売りなら

拙稿を寄せさせていただいた論考集が、先日無事に刊行の運びとなった。『認知資本主義:21世紀のポリティカル・エコノミー』(ナカニシヤ出版、2016年)である。

「認知資本主義」というタームはあまりポピュラーではないが、金融市場主導のグローバル資本主義の問題をとらえたもので、当方もそんな視点から拙稿を書かせていただいた。もし文字数が量り売りならこれはかなり高くなるというぐらい、ぎっしり詰まった諸論考(?)が並んでおりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
編集してくださったMさんによれば、昨今話題の「パナマ文書」を考える手がかりにもなると。そうですとも!

2016年4月15日

心だけでもそこへ

わが第三の故郷の熊本をひどい地震が襲った。昨晩、友人M氏から連絡をもらっていたのを夜中になってから気づき、慌ててテレビをつけたが、夜半にはまだ被害の様子がよくわからなかった。今朝になってみると、たいへんな被害で、あちこちひどいことになっている。
何人かの友達に電話したりメールをして、とにかく無事を確認はしたが、みな余震がひどくて眠れなかったという。余震の回数が多く、間隔も狭まっているようなので、とにかくこれ以降にさらにひどい揺れがきたりしないことを切に願っている。
卒業生たち、かつての仕事仲間たちは大丈夫だろうか。懐かしいお国言葉がテレビから流れてくるのを、ついいつまでも見てしまうが、ライフラインの復旧も余震に阻まれているようで、だれもがこれからに不安を感じている。何か当方にできることはないだろうかと思いあぐねるが、心を寄せることぐらいしかできない。
ていうか、これで某川内原発方面に余震がおよんで原発事故など起きたら、熊本はおろか、この国はほんとにもう立ち直れないであろう。なぜ「今のところ被害はない」とか言ってそのまま運転してるんだ?!いったい、どぎゃん神経しとっとや?!はよ止めなっせ!

2016年4月18日

やはり水俣は先駆的である

どこで見つけたのか忘れてしまったが、「水俣病公式確認60年記念」の特別映画会があってゲストが原一男さんといとうせいこうさんだと知り、これはなんとしても見たかったので、前売り券を買い、先の週末に出かけてきた(4月16日)。開場時間間もなく到着したが、大きなホールにびっしりと人びとが集まり始めている。わりと地味なテーマだと思ったが...と驚いているうちに会場は満席となり、通路を立ち見(というか座り見)の人々がうめ尽くした。まずは水俣フォーラムの実川さんが進行役となって概要を説明し、それから戦前の財閥日窒の力を誇示した映像「鴨緑江大推力発電工事」(1940年)を鑑賞、次いで原一男さんが現在制作中の「MINAMATA NOW」についてかるく解説した後これも鑑賞。つづいて休憩もとらずに、実川・原・いとうせいこう三氏によるトークがおよそ50分。なんとも豪華な企画であった。
「鴨緑江...」のフィルムは、チッソが戦前から日本の国策の一角を大きく占めていたこと(そして戦中、戦後もそれが継続したこと)をしめすばかりでなく、そもそも戦前の日本が満州で何をしていたかの一局面を端的に示しており、たいへん興味深かった。関東軍の梅津軍司令官や日窒の野口社長、某現首相の祖父・岸某などがしれっと顔を見せているというオマケ(?)つき。
次に、原監督が水俣を撮ったらどんな風になるんだろうというのは、当方を含めおそらく多くの観客の主たる関心のひとつであったが、期待にたがわず(いとうさんもそう言っていたっけ)さすが原監督、通常はきっと触れにくいであろう部分にずばっと切り込んでいた。水俣湾の中を撮るために、資格までとって自ら撮影したという水中映像も貴重であり、息をのむ(そりゃあまーリーフェンシュタールが撮った水中映像なんかと比べると不器用ということにはなるのだが、ええ、意味が違いますから。)ともあれ完成(3年後とか?)が楽しみである。
その後のトークも秀逸。当方としては、2011.3.11以降に水俣に関心を持ち始めたといういとうさんが水銀と放射能の問題をからませながら、「ただちに影響はない」という言説がこれからの問題のあり方(「微量問題」)を典型的に示しており、つまりは「微量・複合・長期」の問題であると整理したのは、とても参考になった。誠実かつユーモアをたたえた三氏の語り方も心地よく、あっという間の三時間であった。すばらしい企画を立ててくれた水俣フォーラムさんに感謝!いとうさんがいみじくもつぶやいていたとおり、やはり水俣は先駆的である。

2016年4月21日

熊本関連情報

危惧していたとおりに、大きな地震の後に翌日「本震」が来てしまい、その後も揺れが止むことなく続いている。友人たちとときどき連絡を取ってみると、気丈に過ごしてはいるが、疲れも出てくる頃だろう。
そんな折、その一人から「県外からできる支援」の知らせがきた。当方、ツイッターをやらないので直接拡散はできないが、せめてここに書いておきたい。
https://twitter.com/bewithkumamoto

水俣の相思社からは、現地に届く物流の情報が流れてきた。19日時点のものなので、状況が変わったところもあるかもしれないがとりいそぎー。
***
"今後も物資の支援を求めています。鹿児島県出水市の民泊プランニングさんが、相思社への物資の中継地点になってくださっています。以下にお送りいただくと、スタッフの皆さんが相思社に届けてくださいます。

〒899-0202
鹿児島県出水市昭和町16-5出水観光ビル2階
一般社団法人出水民泊プランニングさん 相思社気付
電話0996-79-3320

また、佐川急便であれば、遅延するけれど水俣までお送りいただけるそうです。
佐川急便の場合は相思社まで
〒867-0034 水俣市袋34 水俣病センター相思社
電話 0966-63-5800

現在、道路が寸断されていたり、通行止めなどの影響から熊本県内への荷物の発送が遅れる状況です。多くの宅配・運送会社が受付を中止していますので、
断られた方も多いかもしれませんが、再度のチャレンジ、どうぞよろしくお願い致します。水俣周辺の方は、相思社の集会棟仏間まで届けていただけるとありがたいです。交通手段がない方は、ご連絡をいただければ取りにうかがいます。どうぞよろしくお願い致します。

【必要としている物資】
・飲料水
・インスタントご飯
・カップ麺
・パン
・缶詰類
・粉ミルク
・インスタント離乳食
・おしり拭き
・子ども用紙オムツ
・介護紙オムツ(大人用)
・毛布
・洋服(下着類を含む)
・割り箸
・カセットコンロ
・ガスボンベ
・トイレットペーパー
・ウェットティッシュ
・生理用品

以上、ご自宅などにありましたら、お送りいただけると幸いです。

長期的支援が必要になるかと思いますが、どうぞ今後共よろしくお願い致します。
************

ということで、よろしくお願いいたしますー。

追加情報

そのお一人(つまりK先生であるが)から、その情報が熊本日日新聞にも載ったという追加のお知らせがあった。これも拡散してほしいとのことなので、ここに載せておきますー。クリックすると大きくなりますー。

相思社からも追加情報

次いで、相思社からも追加情報がきました。下記です。足りない物資リストも更新されてます。

****
<物資送付先>
21日から、ヤマトなどの運送会社が営業を再開しましたので、
今後物資をお送りいただける場合は、相思社へお願い致します。

〒867-0034 
水俣市袋34 水俣病センター相思社
電話 0966-63-5800

<必要な物資>
相思社ホームページに、いま被災地で求められているものを
更新しながら記載しています。
http://www.soshisha.org/jp/?p=5087

<内容の記載>
送付の際は簡単に、伝票に内容物の種類をお書きください。
相思社での管理もしやすくなりますし、仕分け作業が簡単に済みます。
すでに発送済みの方も可能でしたら記録のために同内容をお知らせください。

発送の際、運送会社から「熊本県内に送る場合は、すぐ連絡がとれるように
宛先の電話番号は携帯電話にしてほしい」と求められる場合があります。
聞かれた際は相思社に電話をいただくか、メールアドレスに連絡をください。
相思社の携帯番号をお伝え致します。

<物資の〆切>
第一弾の物資送付〆切は24日(日)発送分までとさせていただきます。
その後のお願いに関しては、来週あたまに、再度メールを送らせていただきます。
ご協力、どうぞよろしくお願い致します。

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