« 2020年12月 | メイン | 2021年2月 »

2021年1月 アーカイブ

2021年1月28日

ことば3題

1. 私の学部のときの指導教官E教授は、「ヴ」を書かない人でした。

理由はというと、日本語の中で、現在はもちろんまだだし、
近い将来にも、音素/v/が確立することは無いだろうという
予測に依ります。

音素/b/には、代表的な異音に[b], [β]があり、後者と、
新参者の/v/ [v]の棲み分けがなかなか難しそうだというのは
想像に難くありません。

私はというと、できるだけ「ヴ」を書かないようにしているのですが、
最近はちょっと柔軟化して、「必要があるときには」「ヴ」を書くように
しています。

ところで、最近、ミニマルペアの候補を見つけてしまいました。

ブログ(blog)と、ヴログ(vlog)。

これらは発音し分けられるのでしょうか。

外国語がおできになる方達の中には、発音し分けていらっしゃる方も
いるでしょう。

でも、それを他の日本語母語話者が、どの位のパーセンテージで
聞き分けることができるのかは、それこそ、多くの人を掻き集めて
実験してデータを集めることができる課題です。

その際、「[b], [v]が聞き分けられるか」を調査していることを
できるだけ悟られないようにして、でも、そこがピンポイントに
分かる実験をするのがいいでしょう。

発音し分けられるかどうかのテストは、どうしたらいいものか。

ともあれ、「聞き分け」のテストの方も、
多くの日本語母語話者が、聞き分けることをし損じるのではないかと
想像しています。

--

発音し分け、聞き分けができないとなると、ヴログの方は、
「ヴィデオのヴログ(ビデオのブログ)」とか
「動画のブログ」とかあるいは「ウに点々のヴログ」
とでも補わないと音声言語では通じなくなるでしょう。
あるいは、「ヴ」にプロミネンスを置いて[v]を強調して、
「ブログじゃなくてヴログ」とでも言うか。

他方、書き言葉としては、書き分けがそのまま使えるかも
しれません。

--

閑話休題。男性のおっぱいのことを「雄っぱい」と
書きはじめた人たちがいました。

当初は、そう書いても「おっぱい」と読ませようと
したのだと思います。

でも、今では、「おすっぱい」という発音が
定着してきています。

「雄っぱいがおっぱいになってきちゃった」と
書いている人がいました。
より大きめに、より柔らかめに変化してきた
ということかな?と想像しました。

--

他方、「男の娘」(おとこのこ)は、書き言葉としては
定着しまくっていますが、

こちらは音声言語で「言い分ける」方法が生まれ出てきて
いないように思えます。(例えばアクセントとかで)

おすっぱいとは違って、これは書き言葉では分かられるけど、
口頭で言っただけでは使えないという片肺飛行の状況が
続きそうです。


2. スマートホンを縮約するとき、多くの人はスマホと
言いますが、「スマホー」というのも見かけます。
Google検索しても、Twitterで検索しても出てきます。

以下は、憶測でしかありません。

どうして「スマホー」になったのか。

これは、「スマートホーン」から、2モーラずつ切り取って
つづめた「スマホー」だとは思えません。

なぜなら「スマートホーン」あるいは「スマートフォーン」と
多くの人が言っていた時期があるようには記憶していないからです。

(他方、iPhoneは、「アイホン」、「アイフォン」、「アイフォーン」
 などのバリエーションがあるでしょう。)

となると、なぜ「ホー」と長いのか。

一般には、「スマホ」とつづめられていますが、
これは、2モーラ+1モーラの刈り込みになっています。

それを、2モーラ+2モーラにした方が
安定感が増すと感じる話者がいて、後半を「ホー」と伸ばして
「スマホー」にしたのかな?というのが私のワイルドな憶測です。

--

3. 「今日ボロカスに俺のこと言われてワロタ」という
ツイートがありました。

「言われていない」項を補うと、

「今日俺は(不定者)にボロカスに俺のこと言われてワロタ」と
なるでしょうか。

多少不自然なのは、そもそも「言われていない」項は、
文脈、状況から分かられるもので、それを無理やり補おうと
すると、いびつになるということでしょう。

ともあれ、これは、大括りでは、ボイス的には
項が増える間接受動(被害の受身)でしょう。

その中でも再分類する人は「所有受身」と呼ぶものに
属するかもしれません。
(所有と言っても「俺の頭」とか「俺の腹」ではなく
 「俺のこと」なので、「俺」そのものなのですが。
 また、やっぱり通常の所有とは違うので、「頭」、
 「腹」で間接受動は作れますが、「俺の」を言わず
 「こと」だけで間接受動は作れません。)

これが直接受動でないのは、「俺のこと」の
「のこと」という延長部分が、「俺」が主語でないことを
標示しているので分かります。

他方、

「今日(俺は)ボロカスに俺のこと言われてワロタ」

という間接受動文は、

「今日俺はボロカスに言われてワロタ」

という直接受動文と、意味的にはほとんど同じように
思われます。

となると、「のこと」で、直接受動文を
間接受動文に変換することが、機械的にできる場合が
他にもあるかもしれません。

「俺はあいつに好かれて超迷惑」

「(俺は)あいつに俺のこと好かれて超迷惑」

この場合括弧内を消さずに言うとして、

「俺はあいつに自分のこと好かれて超迷惑」

の「自分」は、「俺」とも「あいつ」とも同定できる
ので両義的になってしまうので、「再帰化」はここでは
使わない方がいいでしょう。

受害ではなく、受益も同様な変換ができるでしょう。

「俺はあの人に覚えてもらって超嬉しい」

「(俺は)あの人に俺のこと覚えてもらって超嬉しい」

--

「今日(俺は)ボロカスに俺のこと言われてワロタ」

「(俺は)あいつに俺のこと好かれて超迷惑」

(受身じゃないが)

「(俺は)あの人に俺のこと覚えてもらって超嬉しい」

どれも、「俺は」と、「俺のこと」の両方を言うのは
余剰的に感じられて、どちらか片方しか表出しないのでしょう。

その際に、「俺は」ではなく、「俺のこと」を選ぶのは、
被動者性の方が重要だからなのか。

--

「のこと」で、直接受動文を間接受動文に
書き換えることができると、勇足で断じましたが、
できない場合もあるでしょう。

「俺は強盗に殺された」

「*強盗に俺のこと殺された」

「殺す」のような他動性の高い述語の場合は不可能のようです。

でも、irrealisみを加えると言えるかもしれません。

「俺は強盗に殺されそうになった」

「強盗に俺のこと殺されそうになった」

まとめると

・「のこと受動文」は直接受動文と間接受動文の橋渡しになることがある。
・「は(が)」ではなく「のこと」の方を表出するのは、被動者性の方が重要だからである。
・他動性が高い述語の場合、「のこと」による橋渡しはし難い。
・でも、irrealisみを加えると、「のこと」による橋渡しができる場合があるかもしれない。

赤いサイレン考

https://twitter.com/shine_sann

の2021/1/27 15:03 JSTのツイート

国旗売りの少女 「国旗、国旗はいりませんか」 ところが国旗は売れません。 「寒い...。そうだわ、この国旗を燃やせば...」 少女が国旗を燃やすと、火の向こうに赤いサイレンをつけたパトカーが透けて見えました。少女はパトカーに乗り、暖かい屋内で一晩を過ごしましたとさ。めでたしめでたし。

ストンと入ってくる小話ですが、私は、

https://twitter.com/nobusik

2021/1/27 16:12 JSTのツイート

「赤いサイレン」ってのが面白い。赤いのは回るランプ。通常の日本語では名前が無い。ろう者だったらパトライトって言うだろうけど。サイレンは音ですね。でも大体両方とも一緒に発生するから、一つのものとして認識されている。

と書きました。

ブッポウソウとコノハズク、冬虫夏草のように、
別々なものが、「1つのカテゴリー」で
認識されているという例ですね。

赤いのは、ぐるぐる回るランプで、
一般人の日本語では、命名が欠けている。

「パトカーの赤いランプ」

と説明的に言われたり、

「サイレン」

と言われたりするでしょう。

ろう者だったら、家庭に、
呼び鈴が押されたときに光る
同様のランプを設置している場合があるので、
それは「パトライト」と呼びます。

他方、「サイレン」と言うのは、
音の方ですね。

音とぐるぐる回る赤い光は
別なものなんだけど、
同時に見聞きすることが多いので
ひとまとめに認識されている。

LGBTを鼓舞する歌

LG(BT)を鼓舞する歌

Twitterで、「虹色歌謡曲」と称して、
「虹」とか、「レインボー」とかが歌詞に入っている歌を探して、
それを、LGBTの応援歌だ!的に語っている人たちがいますが、

でも、「虹」はそもそもLGBTだけのシンボルではないし、
それらが歌詞に入った歌も、ほとんどは、
SOGI的なことを念頭に置かずに書かれた歌でしょう。

英語圏などでは、openly lesbian、openly gay、openly queerその他
LGBTQ+の当事者であることをカムして
音楽活動をしているミュージシャンがいます。

最近の英語圏だと、

Arlo Parks - Green Eyes
https://www.youtube.com/watch?v=ddjr5KDqYGA

Pale Waves - She's My Religion
https://www.youtube.com/watch?v=NzQ0dkcXLxI

など、女性が割と直球ですね。

Troye Sivan
https://www.youtube.com/channel/UCWcrr8Q9INGNp-PTCLTzc8Q
は、℃メジャーなゲイ・アーティストだし。

(もうちょっと年上で若い時にカムしたRufus W.さんは、
 「カムしなければもっと売れたかも」なんて言っちゃったりして
 ちょっと残念だったりするけど、時代的背景からすれば
 彼だけを責めるわけには行きませんね。)

韓国のHolland (홀랜드)も恐れていないです。
Holland - I'm Not Afraid
https://www.youtube.com/watch?v=XE5KFB9LbxY

日本だと、まだ当事者には難しいものがあるのかな?

でも、当事者であるかは別として、

空音 / どうせ、愛だ feat. クリープハイプ
https://www.youtube.com/watch?v=Brf2AspBfmw

歌詞からはLGBTQ+に特化したものは
読み取れないけれど、
でも「どうせ、愛だ」って、「同性愛だ」と
紙一重w

「同性愛」って連呼されている感さえあるw

それから、少数者という意味じゃ、LGBTQ+
ではなくて、身体障害者が筆頭なんだろうけど、

まちがいさがし - 菅田将暉
https://www.youtube.com/watch?v=92p6aBsO9Gw

米津玄師が菅田将暉に書いた「まちがいさがし」は
割とどんな「少数者」にもストンと当てはまる。
LGBTQ+にもね。

About 2021年1月

2021年1月にブログ「タナナことば研究室」に投稿されたすべてのエントリーです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のアーカイブは2020年12月です。

次のアーカイブは2021年2月です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。