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プロジェクト

浸透する世界と身体

水をめぐる学際共創研究拠点の構築に向けて

期間

2025年度~2027年度

関係機関

東日本国際大学グローバル人財育成研究所

関係者

中山俊秀(東京外国語大学/言語学)
長谷川健司(東日本国際大学/思想史・環境人文学)
大石高典(東京外国語大学/生態人類学・アフリカ地域研究)
中山智香子(東京外国語大学/思想史・現代経済思想)
福永真弓(東京大学/環境社会学)
結城正美(青山学院大学/英米文学・エコクリティシズム)
宮下直(東京大学/生態学)
安田仁奈(東京大学/海洋分子生態学)

キーワード

ハイドロヒューマニティーズ

環境人文学

記憶

身体

最終更新 2026.04.17

プロジェクトの概要

「水」を「物質―身体―文化―政治」を貫く現象として捉え直し、自然科学と人文社会科学の垣根を越えた、学際共創研究拠点の構築を目指す取り組みです。国内外の多様な現場でのフィールドワークと理論的探究を行き来してきた研究者たちが、それぞれの実践的な知を持ち寄ることで、欧米で展開されてきたハイドロヒューマニティーズ(水の人文学)の理論的枠組みを、批判的に問い直します。
水俣から福島へ、南太平洋核実験場からハンフォード核施設へと連なる、水をめぐる暴力と汚染の歴史や、サンゴ礁生態系が直面する緩慢な危機、先住民の水知識と水への権利をめぐる問いなど、環太平洋地域の各地には多くの経験が刻まれています。それらの経験を現場から持ち寄り照らし合わせることで、この地域に固有の理論的視座を構築できるのではないでしょうか。
研究者だけでなく、アーティストやNGO、行政や地域住民など、多様な主体が関われる「多声の場」をつくって、社会と学術が通い合う共創的知識空間を築いていきます。


背景と目指すもの

危機の根源にある「ものの見方」を問う

気候変動や生物多様性の急激な喪失と、深刻化する社会的不平等という複合的危機は、もはや個別の専門的見地からだけでは対処できません。これらの危機の根底には、人間を自然から切り離し、世界を管理・開発の対象として捉えてきた、近代的な認識論的枠組みそのものの問題があるからです。既存の知識体系の内部から「解決策」を提示するだけでは、危機を生み出した思考の前提を問い直すことにはなりません。こうした認識のうえで、世界の見方を支配してきた枠組みを批判的に検討し、人間と環境の関係を根底から問い直す学際的な研究実践として構想されたのが、このプロジェクトです。


「水」を手がかりに、人間と自然のつながりを捉え直す

私たちは、生命が依存する物質的基盤としての生物圏、つまり岩盤・土壌・水・大気・生命が相互に作用し合う、地球表層の領域に注目します。そのうえで、人間をその外側に立つ主体ではなく、この物質的な循環の内部において構成される存在として認識することを、自然科学と人文社会科学とが協働していくための出発点としたいと思います。 この問い直しのために、中心的な主題として据えるのが「水」です。水は、気候変動に伴う水害や水資源の枯渇、産業公害や原発事故による汚染、淡水アクセスをめぐる社会的不公正などの課題から、神話・宗教・文学における象徴性の変容まで、きわめて多層的な問いを内包しています。また、人間の身体は、水を介した物質の循環によって環境と不可分に結びついていますから、水はまさに人間と自然の相互構成を具体的に示す媒体ということもできます。しかし、それらを理解するためには、自然科学のデータだけでは十分ではなく、生活世界・文化実践・身体経験・歴史的記憶・政治的力学といった、人文学の知との統合が欠かせません。


傷ついた生態系とコミュニティの回復に向けて

さらに、近代社会がもたらした自然からの人間の切り離しと、植民地主義的な収奪という二重の歴史的断絶によって、この物質的基盤が深く傷つけられてきたという認識も、重要な前提となります。水俣から福島へ、南太平洋の核実験から環太平洋地域の核汚染の歴史へと連なる多くの問題は、環境破壊と社会的暴力が不可分であることを示しています。こうした環太平洋地域の歴史的文脈に向き合いながら、これまで欧米中心に発展してきた水の人文学の理論を批判的に相対化し、傷ついた生態系とコミュニティの関係性を回復するための、知の実践モデルを構築することを目指していきます。


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プロジェクトの進め方

1.研究方法 国内外の多様な現場でのフィールドワークと理論的探究との双方に取り組んできた研究者たちが、共通の問いのもとに集まる研究会を基盤とします。水俣・福島・マーシャル・ハンフォードをはじめとする環太平洋地域の固有の経験に根ざしながら、De Wolff & Faletti『Hydrohumanities Water Discourse and Environmental Futures』(2022年、University of California Press)など、欧米での先駆的研究を批判的に精読することで、理論の再検討と拡張を進めるのです。その議論を、研究者だけで閉じるのではなく、アーティスト、NGO、行政、地域住民など、多様な主体との対話・協働を研究プロセスに組み込むことで、社会と学術が行き交う共創的な知識生成を実践したいと考えます。また、研究会・レクチャー・フィールド調査・シンポジウム等の記録を、アーカイブとして精緻に整理・公開することにより、プロジェクトの軌跡を知的コモンズとして蓄積し、研究過程の透明性と社会への開放性も確保します。
2.プロジェクト全体の流れ 2026年度は、理論的基盤の構築と研究会・キックオフイベントの実施などにより、メンバー間の共有基盤を形成する準備期と位置づけます。レクチャーシリーズやフィールド調査、国際シンポジウムを通じた、実践的・対話的展開の時期として、理論と現場を行き来しながら知見を深化させていきます。最終年度(2027年度)は、それまでの理論的探究と実地調査の成果を統合した、学術書の刊行と最終シンポジウムの開催によって、成果を学術界・社会の双方に広く発信する時期と位置づけます。


今度の展望

傷ついた生態系とコミュニティの回復に向けて

「水」は、あらゆる生命が依存する物質的基盤であるとともに、文化・宗教・文学・政治・経済など、人間の営みのあらゆる層に深く浸透しています。このような普遍性のために、水をめぐる問いは、特定の地域や専門分野のなかには留まりません。気候変動による水資源の偏在、産業・核汚染が生態系と身体に及ぼす影響、淡水アクセスをめぐる南北間の構造的不公正、先住民の水知識と水への権利、さらには水の象徴的・精神的意味の変容といった、グローバルな規模で複数の問いを同時に放つことになります。 こうした水をめぐる多層的かつグローバルな問いに対して、地域固有の経験と理論的探究をつなぐことで応答しようとするのが、このプロジェクトです。そこで得られる知見は、特定の現場に固有でありながら、世界各地の環境問題・社会的不公正・コミュニティの再生という普遍的な課題に対して、広く応用可能な示唆を持ちうるのではないでしょうか。研究過程のアーカイブを公開し、公開レクチャーや協働ワークショップを通じて知の生成プロセスを社会に開くことによって、水をめぐる問いを、専門家だけでなく、市民・アーティスト・政策立案者など多様な主体が共有し、ともに考えていける場を広げていきます。

事務局:
長谷川健司(東京外国語大学学際研究共創センター特別研究員、東日本国際大学専任講師)
khasegawa@m.tonichi-kokusai-u.ac.jp