お知らせ
【開催報告】アントレプレナーシップ講座実践編「出雲・雲南フィールドプログラム」
社会の課題について知ることと、その社会の中で自分自身がどう関わるのかを考え始めることは、同じではない
TReNDでは、アントレプレナーシップを、起業のための知識や技術だけではなく、社会の中にある問いを他者との関わりの中で考え、行動していくこととして捉えて、その考え方を、アントレプレナーシップ講座を通して展開しています。
誰かから答えを教わるのではなく、実際の社会に入り、さまざまな人の生き方や実践に触れる。その中で、それまで自分の外側にあった社会の出来事が、「自分はどう考えるのか」「自分はどう関わるのか」という問いに変わっていく。そこに、社会の中で自ら考え、行動する主体が立ち現れる契機があります。
2026年9月8日から9日に実施された「出雲・雲南フィールドプログラム」は、アントレプレナーシップ講座に登壇いただいた株式会社CNCの協力による実践編です。教室で実践者の話を聞くだけではなく、地域で暮らす人々や、そこに関わり続ける人々と実際に出会い、同じ時間を過ごします。
そうした出会いの中で、学生の中に問いが生まれ、「自分もまた、この社会に関わる一人の主体であり得る」と気づいていく。その可能性をひらくことも、この実践の大切な目的です。今回、プログラムに参加した学生が、地域での出会いを通して感じ、考えたことを寄稿してくれました。
地域での出会いから、自分のこれからを考える
2026年9月8日から9日にかけて、島根県雲南市で行われた株式会社CNC主催のスタディツアーに参加しました。今回のツアーでは、1日目の雲南市立病院での茶話会や地域のお宅訪問、2日目のコミュニティナースラボラトリー、People Cloudへの訪問などを通して、地域の中で、人々がどのように関わりながら暮らしているのか、さまざまな取り組みを通して学びました。
雲南市立病院の茶話会 ― 人と人が出会う場所
1日目の雲南市立病院では、病院内のコミュニティスペースで、患者さんや付き添いの方とお話をする茶話会に参加しました。この場には、病院での待ち時間を少しでも楽しい時間にすることに加え、会話を通して、普段は身近な人にも話せないような悩みを話し、少しでも気持ちが軽くなるようにという思いがあります。
しかし、実際に参加してみると、茶話会は地域の人同士が出会う場にもなっていることに気づきました。「ここで会えると思わなかったー! 久しぶりー!」といった声を聞き、「なんていい場所なんだろう」と感じました。
また、茶話会に来てくださった一人のお母さんがいました。そのお母さんは付き添いで病院に来ていて、それまでは折り紙を持参したり、売店で本を買ったりして待ち時間を過ごしていたそうです。しかし今回は、病院に来てから茶話会が行われていることを知り、足を運んでくださったようでした。そのお母さんと一緒に折り紙をしたのですが、幼い頃に祖母と折り紙をしていたことを思い出し、とても懐かしい気持ちになりました。私はおばあちゃん子だったので、祖母にはよく遊んでもらい、今でも楽しい思い出がたくさん残っています。
だからこそ、今の子どもたちにも、おじいちゃん・おばあちゃん世代の方々と話したり遊んだりする機会がたくさんあってほしいです。そして、このコミュニティスペースが、そのような場になったらいいなと思いました。
自分と違う世代の人と交流することは、同世代とは違う学びも得る機会にもなります。今回私は、お母さんとの会話を通じて、自分自身がこれからどのように生きていきたいのかについて考えました。
お母さんは仕事を退職した後もさまざまな趣味を楽しみ、地域の活動にも積極的に参加しているようでした。日々の暮らしを楽しんでいる様子や、あふれるエネルギーが伝わってきて、とても輝いて見えました。年齢を重ねても日々を楽しみながら生きていくその姿がとても素敵でした。
会話を重ねるうちに、悩みを打ち明けてくださる場面もありました。少しでも心が軽くなっていたら嬉しいと思う一方で、相手の話をどのように聞けばよいのか、余計なことを言ってしまっていないかと、内心不安に思いながらお話をしていました。そのため、帰り際にお母さんから「楽しかったわ」と言っていただいたときは、とても安心しました。この日出会ったお母さんには、たくさんの気づきをいただきました。またいつかお会いできることを楽しみにしています。
「支援する人/される人」ではない関係
お昼から地域のお宅を訪問した際には、イベントのチラシとコーヒーを届けながら、地域の方々と交流しました。訪問した先では、皆さんがとても元気で、CNCの方と会えたことを嬉しそうにしている姿が印象的でした。
CNCの方と地域の方との会話は、何か特別な支援をする人とされる人というよりも、近所の人同士が顔を合わせたときのような自然なものでした。
中には、CNCの拠点でもある「みんなのお家」で予想以上にぐんぐん成長した植物のお世話の方法を住民の方に尋ねる場面もありました。こうした何気ないやり取りからも、CNCの方が地域に溶け込み、住民にとって身近な存在になっていることを実感しました。こうした日常的な関係があるからこそ、何かあったときに気軽に頼ることができるのではないかと思いますし、それは地域で暮らす本人だけでなく、離れて暮らす家族にとっても安心につながるのではないかと感じました。
お宅を訪問する中で「黄色い旗運動」についても知りました。これは、地域の住民が家の前に毎朝旗を出し、夕方になったらしまうというものです。主な目的は高齢者の見守りですが、それと同時に、この運動は子どもたち自身が地域の人々の様子に自然と目を向けるきっかけにもなっているそうです。
こうした日常の小さな関わりが、地域への関心を育み、住民同士の関係性を保つだけでなく、次の世代にも地域とのつながりを受け継いでいくことにつながるのだと思います。そして、こうした積み重ねが、CNCが目指す「一億総コミュニティナース」(一億総相互扶助社会)の実現を大きく後押しするのではないかと感じました。
「どんな仕事をするか」から「どんな大人になりたいか」へ
2日目のコミュニティナースラボラトリーでは、石倉ももこさんからお話を伺いました。その中でとても心に響いたエピソードがあります。石倉さんは小学校高学年になる頃から地域の人々の近さを窮屈に感じていて、東京の大学へ進学することを選んだそうです。しかし、憧れていた東京では、反対に人間関係の浅さに寂しさとモヤモヤを感じ始めたといいます。
「電車で大人がみんな疲れている顔をしているのを見て、自分はそんな大人になりたいのだろうか」と考えるようになったという言葉にはハッとしました。石倉さんと同じように感じた経験はありました。でも、それから深く考えることはなく、気づかないうちに、自分もそのような大人になっていくのではないかと思うと、少し怖くなりました。
現在、私は就職活動をしています。これまで「どのような仕事がしたいか」は考えてきましたが、「どのような大人になりたいか」という視点から自分の将来を考えることは、あまりありませんでした。お話を聞いて、自分を応援してくれる人や、刺激を与えてくれる人、お互いに高め合える人が周囲にいる環境で働くことが、これからの社会人生活をより充実したものにするのではないか。どのような仕事をするかだけでなく、むしろ、どのような人たちと働き、どのような大人になりたいのかを考えることが大切なのかもしれないと思いました。
顔の見える関係から生まれるもの
株式会社People CloudではAlinaさんから、東欧のITエンジニアと日本企業をつなぐ取り組みについてお話を伺いました。日本で働きたいエンジニアに日本語を教え、来日後には日本文化を体験する機会をつくり、日本企業とのマッチング後も日本での生活をサポートするなど、東欧と日本をつなぐ架け橋となる活動をされています。
特に印象に残ったのは、SNSや広告を使って不特定多数に情報を届けるのではなく、知り合いをたどりながら、日本で働きたいエンジニアや東欧のエンジニアを求める企業を探しているということでした。私はこれまで、何かを発信するときにはSNSを使って広く情報を届けることを自然に選択していました。しかし、さまざまな情報が行き交う今だからこそ、顔の見える関係を少しずつ築いていくことにも価値があるように思いました。
また、日本企業への就職が決まったエンジニアの方の中には、東京にオフィスがありながら出雲でのリモートワークを選択した人もいたそうです。慣れない東京に1人で行くよりも、既に東欧の方々のコミュニティのある出雲で仕事をしたいということが理由のひとつだったとお伺いしました。自分の悩みを共有でき、支え合うことのできるコミュニティの役割の大きさに気づくと同時に、日本で暮らす外国人が安心して生活できる環境を、社会全体で整えていくことの必要性も感じました。
今回の2日間を通して、地域で行われているさまざまな活動について知るだけでなく、そこで出会った方々の言葉や姿から、自分自身のこれからや人と人との関係が持つ力について考えました。
最後になりましたが、このような貴重な機会をつくってくださった株式会社CNCの皆さま、そしてツアーの中でたくさんのお話を聞かせてくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。今回の2日間を通して、地域で行われているさまざまな活動について知るだけでなく、そこで出会った方々の言葉や姿から、自分自身のこれからや人と人との関係が持つ力について考えました。今回出会った方々からいただいた刺激を大切にしながら、これから自分が何をして、どのような大人になっていきたいのかを考え続けていきたいと思います。貴重な2日間をありがとうございました。
東京外国語大学大学院
総合国際学研究科 世界言語社会専攻
修士1年 加藤稚菜
