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2021年度 第2回FINDAS研究会 「南アジアの感染症を考える―バングラデシュとスリランカの事例から」

掲載日 | 2021年10月04日

2021年度 第2回FINDAS研究会

「南アジアの感染症を考える―バングラデシュとスリランカの事例から」

【日時】  2021年6月26日(土)13:00-16:30
【場所】 ZOOM会議

【報告】

◇東城文柄(東京外国語大学)

「バングラデシュのカラ・アザール流行に関する医療地理学的研究及び地域住民の予防行動の混合研究法的調査」

 

 本報告では、バングラデシュをフィールドに、感染症カラ・アザール(サシチョウバエを媒介にし、発症後放置すれば死に至る)の流行状況に影響を与えている諸条件の分析・考察、及び流行地における地域住民の予防行動に関する調査からの知見が提示された。

 まず、流行に起因する要素について、「洪水の影響を受けない(屋敷地、自然堤防、微高地など)」かつ「氾濫原(雨季の冠水域)から離れすぎていない」立地に集中して症例が発生していることが地理情報や患者データより示された。今後、今回の調査結果を踏まえて、より詳細なデータや社会経済指標など他の変数を考慮して分析を行うことで、結果の更なる精緻化が期待される。

 次に、地域住民の予防行動に関する調査では、ほとんどの地域住民はカラ・アザールの存在を認識しているものの、半分以上の住民はカラ・アザールに関する知識(感染症であること、感染媒介、予防の可不可)を持ち合わせていないことが判明した。これを踏まえ、質問票回答の指標化(探索的因子分析)の推進、及び環境条件と予防行動を指標化した統計的分析の推進が今後の課題として提示された。

 

◇佐藤惠子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

「スリランカにおけるマラリア-流行から撲滅まで」

 

 本報告では、スリランカにおけるマラリアの流行と撲滅の歴史を詳細に分析することで流行の背景とマラリア対策成功の鍵について考察が行われた。

 まず、1934年〜1935年の流行について、その原因は長期にわたる干ばつと人口移動にあるということが提示された。臨時診療所が開設され、同時にボウフラ対策の強化がなされた。日常的な媒介蚊の生態に対するサーベイランスの強化が重要であり、特に天候や人口移動も含めた環境変化に対して早期の対策が重要であることがここから示唆される。その後、感染は減少し撲滅まで近づいたものの、マラリアに対する警戒心の低下から1967年~1970年にかけて再度流行してしまう。1930年代の流行と共通の原因(気候・人口移動等)もあったが、原虫・流行地域・死者数・殺虫剤散布等、異なる点もあった。過去2回の流行の比較により、殺虫剤・薬剤に対して耐性が出てくるため常に状況を把握し、原因となる環境変化や人口移動に注視を続けることが重要だとの見解が示された。

 その後、マラリア撲滅に向け、政府主導のAnti-Malaria Campaignを中心に多機関多分野連携をしながら、サーベイランス強化や早期発見・治療の徹底、体験的学習等の実施がなされ、感染ゼロを達成することに成功した。データを基に多角的な視点からの分析と政策への適用をしたことが撲滅の鍵となったと言える。