2021年度 第1回FINDAS共催研究会「創作と情動―ジェンダーの視点から」
2021年度 第1回FINDAS共催研究会
(共同利用・共同研究課題「南アジアの社会変動・運動における情動的契機」2021年度第1回研究会と共催)
「創作と情動―ジェンダーの視点から」の報告
【日時】 2021年5月23日(日)13:00-16:30
【場所】 ZOOM会議
参加人数:40人
【報告】
◆佐藤斉華(帝京大学)
「感じる「大地」:ネパール語小説に見る情動の女性的形態」
“The “Earth” That Moves: Contours of Women’s Emotion in Three Nepali Novels”
本報告では、ネパール丘陵部のバフン(Brahman)出身の女性を主人公に描いた三つのネパール語小説−Prabha Kaini著『暴露』(2010)、 Amar Neupane著『白い大地』(2012)、 Nilam Karki Niharika著『ヨグマヤ』(2018)における女性の情動に関する描写を、女性達の経験についての証言として捉え、分析する試みがなされた。
ネパール女性は、自らの思うところや感情を表現しそれに準じて振る舞うより、「耐える」こと、いわば「(すべてを呑む込み受容する)大地」となることを繰り返し諭され、強いられてきた。そのことは小説からでも繰り返し描写され、読み取ることができる。ここでは更に、それに対して「声を上げる」「立ち上がる」「感じる」などの様々なレベルで女性たちが抵抗する描写が提示されていることも観察された。そういった「耐えない」行動へと導くことになる女性の力強さ、開放を求める女性の心理は鮮明に描き出されていたものの、一方で、「感じる」ことから行動に移るに至るまでの心の動き、心理的変化の描写に欠けていることが指摘された。
◆小牧幸代 (高崎経済大学)
「英国におけるムスリム女性アーティストの作品と語りに関する「情動」的考察」
” Muslim Women Artists’ Works and Narratives in the UK: An Analysis Focusing on ‘Affectus’.”
本報告では、マンチェスター大学ウィットワース美術館で2019年に開催された「信仰を越えて:今日のムスリム女性アーティスト」展を、情動という観点から分析する試みがなされた。この企画展は、5人のムスリム移民女性アーティストの作品を、彼女たちの私物やお気に入りの他のアーティストの作品とそれについてのコメント、更に生い立ち等に関する語りなどとともに展示するもので、美術展でありながら博物館のような事物と解説にあふれた展示内容が特徴的であった。豊富な展示内容に見られるような「ストーリーの過剰」は、観客が作品を鑑賞して自由に想像する余地をなくし、主催者と参加者の意図に従順に共鳴することを余儀なくする。美術館という特殊な空間にアーティスト自らのアイデンティティを語るモノが展示され、それをアーティストやキュレーター、観客が見て感じることで、情動=アフェクトされアフェクトする関係が築かれたという考察がなされた。このことから、企画展のタイトルにあるように、キュレーターや一般の観客が、非ムスリムという信仰を越えてムスリム女性アーティストに歩み寄ることがこの企画の趣旨であったのではないかと指摘された。