外大拠点の概要

テーマ

現代インドにおける文学・社会運動・ジェンダー

東京外国語大学拠点形成の目的と意義(第一期 2010-2014年度)

近代以降、今日にいたるまで流布してきたインド・イメージが歴史的に形成されてきたものであることが指摘されて久しくなっております。IT産業への注目などによって「悠久のインド」もしくは「貧困の国インド」といったイメージは大きく変容しつつあります。しかし、それに取って代わって登場している新興大国というイメージもあまりに一面的で貧相なものと言えましょう。今日必要とされているのは、インド史の断続性と継続性、規範・表象と生きられた経験、ミクロ・レベルとマクロ・レベルにおける構造とその変容を、複眼的、動態的かつ総体的に把握することであると思われます。

東京外国語大学は、ウルドゥー語・ヒンディー語を中心とする南アジア諸言語の教育、南アジア地域研究に関して100年の歴史を誇り、アジア・アフリカ言語文化研究所とともに、世界的な活動にたずさわる職業人と日本の南アジア研究を牽引する研究者を出してきた実績を誇ります。また、現地語文献の所蔵においては国内有数であり、海外の研究者との交流にも長い伝統があります。

本センターはこれらの特徴をフルに活用しながら、さらに国内外の研究者のネットワークのハブとして共同研究と若手研究者の育成を重点的に行い、既存のインド地域研究を一挙にレベル・アップすることをめざします。

二つの研究グループ

東京外国語大学「現代インド研究センター」は、以上の二つの研究グループを設け、それぞれが連携しながら研究を進めます。

研究グループ1「社会運動の歴史性と重層性」は、今日的な文化・社会的なイシューを歴史的なパースペクティブにおき、個人および個々人のつながり、さらには情念といった深層にまで降りて重層的分析を加えることが特色になります。ここでは、社会運動を広義にとらえ、具体的には、ジェンダーの平等をめざす運動、表現の自由をめざす運動、識字運動、出版活動、スラムの住民たちやトライブと総称される人々の生存権闘争、インドで盛んな公益訴訟、ダリト(不可触民)や下位カースト集団たちの運動、ヒンドゥー・ナショナリズム勢力による「ヒンドゥー国家」の表象、これまでの民族主義的な国民史とは背馳する、新たな歴史叙述の試み、家族イデオロギーをめぐる論争などが対象として挙げられます。これらの中には、女性やダリト・下位カースト集団(近年、「サバルタン」と総称されるグループ)による運動などのように、イギリス支配期、もしくは、それ以前の時代に起源をたどることのできる運動もあります。現代における運動とその前史との歴史的な比較検討を通じて、今日の運動の特性、ならびにその限界と可能性を同定し、また、これらの諸運動の総体が現代インドをどのように突き動かしているか見取り図を提供することができると考えます。

研究グループ2「文学と言語から見る現代インドの動態的分析」では、現地諸語の高度な運用能力の蓄積という東京外国語大学の特性を生かし、インド諸語(英語も含む)による文学作品から、時代の変容と現代を照射することをめざします。扱う文学作品はけっして現代に創作された作品に限ることなく、古代、中世、近世の作品におよびます。現代インドにおいて、古層ともいうべき文学的水脈が、新たな意味と独自の形を持って頻繁に表出するからです。一般に「動乱文学」と総称される、インド・パキスタンの分離独立を背景とする文学は、今日まで続く両国間の確執を理解するためには欠くことのできない分析対象になりますし、「ポストコロニアル文学」、「ディアスポラ文学」の担い手としてのインド系作家の作品とその受容の分析は、グローバル化状況のもとでの、とくにミドル・クラスの心性を読み解くには不可欠です。識字率の向上によって誕生しつつある新識字層を対象にしたメディア・出版物の解読も、インドの多元的な世論の理解にとっては重要となります。さらに、言語はある集団のアイデンティティ形成の重要な核を形成しますから、インド国内に留まらず、グローバルな展開を見せる言語運動は今日のインドの動態を把握するためには欠かせないイシューとなります。

外大拠点では、現代インドにおけるジェンダー問題を歴史的に解明し、実態と動向を分析するなかで今後の解決の方向性を見据えるとともに、分析概念としてのジェンダーが、インド現代社会を理解するうえで持つ可能性を追求することを課題として掲げます。ジェンダーは、社会運動、もしくは文学といった領域いずれかに包摂される性格のものではありません。社会運動における政治言説や歴史叙述はジェンダー言説によって構築され、ジェンダーを抜きにして創作される文学は想像することさえ困難です。ジェンダーを2つの研究グループを横断する形で設定する理由はここにあります。

 

関連ページ

外大拠点第二期(2015-2019年度)の概要