ベンヤミンの『ボードレールにおける第二帝政期のパリ』における「二義性」
クラウス論を通じての「ボードレール論」解釈の試み
[ハンドアウト]

 日本独文学会 1996年度春季研究発表会 512日(日) 一般研究発表 (3)


テクスト

Walter Benjamin, Gesammelte Schriften. Hrsg.: Rolf Tiedemann und Hermann Schweppenhauser. Frankfurt/M. (Suhrkamp) 1991.

(それぞれの巻数をローマ数字で、ページ数をアラビア数字で表記。「ボードレール論」の成立に関わる書簡は、Band I・3のAnmerkungenに収録された90通(I,1067-1135)が、Walter Benjamin, Briefe 1・2. Hrsg.: G.Scholem u. Th.W.Adorno. Frankfurt/M. (Suhrkamp) 1978.の中にない重要なものを含んでいるので、すべてBand I・3を用い、そこでの手紙の番号を例えば、B17と表記した。)

Walter Benjamin, Das Paris des Second Empire bei Baudelaire.. Hrsg.: Rosemarie Heise. Berlin/Weimar (Aufbau-Verlag) 1971.


@B17 (Brief an Horkheimer, 16.4.1938) (I,1072-1075)からの要約

(vgl: Plan der gesamten Baudelaire-Arbeit (I,1150-1152))

T <Idee und Bild>

テーマ:『悪の華』におけるアレゴリーの標準的意義を提示

・ボードレールにおけるアレゴリー的な見方の構造−Naturをめぐる芸術理論上の根本的矛盾(naturliche Korrespondenz vs Absage an die Natur)−−が明らかに示される

・「救済Rettung」 と「弁護Apologie」の対決という形で、この論文と「弁証法的唯物論」の関係を扱う序文をもつ

・「ボードレール像がモノグラフィー的に孤立して現れる」

U <Antike und Moderne>

テーマ:「古代Antike」と「近代Moderne」の "Uberblendung"

("Der zweite Teil entwickelt als Formelement der allegorischen Anschauung die Uberblendung, kraft deren die Antike in der Moderne, die Moderne in der Antike zum Vorschein kommt."(I,1074))

・この「パリの変転Transposition」に「大衆Masse」が決定的に作用

・Masseのもつ三つの働き:

 @遊歩者の前にかけられたヴェール;孤独な者の最新の麻薬

 A個々人のあらゆる痕跡の消去;被追放者の最新の避難所

 B都市という迷宮の中での最新の迷宮;「地下的・冥界的chtonisch」特徴−こういったパリの視点を開くことがボードレールの課題。古代のヒーローの課題に最も近いのは、近代に形態を与えること

・ポー、メリヨン、ユゴーとの仮想的・現実的出会い

V <Das Neue und Immergleiche>

テーマ: ボードレールにおけるアレゴリー的な見方の成就としての「商品」

・das Neueとdas Immergleiche−「<常に同じもの>の経験の圏内に「憂鬱」が詩人を追い込んだのであるが、この<常に同じもの>の経験を破砕する<新しいもの>は、商品の後光Auroleに他ならない。」)

・2つの補論:

 @ボードレールの「新しいもの」の構想のうちに、先取りして現れたJugendstil

 Aアレゴリー的な見方を最も完全に充足する商品としての「娼婦Dirne

・ボードレールの意義:「自己自身を疎外する人間の生産力を二重の意味において確定したこと。つまり、この生産力を認知したこと、及び、物象化によってこの生産力を増加させたこと。」

・『悪の花』が、<新しいもの・常に同じもの>という固定観念を通じて、ブランキの『星々による永遠』とニーチェの『権力への意志』(永劫回帰)とともに入り込んでいく歴史的配置

AB31 (an Horkheimer, 3.8.1938)(I,1082〓1084)からの要約

(vgl: B34 (an Pollock, 28.8.1938) (I,1085〓1087), B35 (an Theodor und Gretel Adorno, 28.8.1938) (I,1087〓1088))

(B34, B35はB31が配送中に散逸してしまったと思ったベンヤミンが、B31の内容を伝えようとして書いたもの)

第2部の二つの対象:

 @古代との関係における、ボードレールの近代のコンセプト

 A文学において大都市の大衆が初めて浮上してきたこと−ポー、ボードレールとユーゴーという二つのモデル

「このそれ自身完結した第2部は、19世紀文学史におけるいくつかの重要な個別要素を唯物論的に解明しようとする−とりわけ、フュイトンの成立と犯罪小説の成立」(I,1084)

・第3部の位置づけ:

 「問題圏の全体が見渡せるようになるのは、もちろん第3部において可能になる。第3部が関わるのは、ボードレールの後史における決定的契機、つまりJugendstilと永劫回帰の思想である。」(I,1084)

・第1部の位置づけ:

 「ボードレールの前史に対する展望を与えるのは、第1部においてであり、そこでは、17世紀及び19世紀のアレゴリーが所有していた諸機能が比較される。」(I,1084)

BB40 (an Horkheimer, 28.9.1938)(I,1089〓1092)からの要約

「ボードレール論」全体(『シャルル・ボードレール−高度資本主義の時代における抒情詩人』)の構成:

第1部 テーゼ:<アレゴリカーとしてのボードレール> −問題設定

芸術理論的問題設定

第2部 アンチテーゼ:<ボードレールにおける第二帝政期のパリ>−必要なデータ

詩人ボードレールの社会批判的解釈;ボードレール批判(彼の業績の限界)

第3部 ジンテーゼ:<詩的対象としての商品>−解決

マルクス主義的解釈

・この「ボードレール論」全体の哲学的基盤は、第3部において示され、初めの2部からは見て取ることができない。

・第2章は、マルクス主義的解釈の前提をなすが、それ自体でマルクス主義的解釈の概念を充足していない。それは、第3章において可能となる。

・『パサージュ論』の基本テーマである「新しいもの」と「常に同じもの」は、第3部において意味を持つ。これは、ボードレールの創作を根底まで決定づけている「新しさnouveaute」の概念のうちに現れる。


ハンドアウト2

発表原稿