陳水扁辞任要求運動のゆくえ(2)

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倒扁運動の位置づけ
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 2006年の台湾政治を特徴づける倒扁運動は,2004年の総統選挙後に見られた反陳水扁感情の再度の噴出なのか,政治指導者の去就を自分たちに決めさせよという新たな公民運動なのか,その性格をめぐり台湾内部でも見方が分かれているようだ。運動指導者の施明徳は,台湾独立運動・反政府運動に関与したとして逮捕投獄され通算26年間獄中で過ごした人物である。施明徳は1994年〜96年にかけて民進党主席を務めた。2000年総統選挙では陳水扁の応援演説も行なったが,その後陳水扁の政権運営に不満を抱き民進党を離党した。持病を抱え,また,政治的影響力を失っていると見られたこの施明徳が,8月に「百萬人民倒扁活動」の声明を発表し,8月13日から1人100元(約360円)の寄付を呼びかけたところ大変な反響を呼び,瞬く間に1億1120万元(約4億円)が集まり,9月9日から座り込みを開始したのである(詳細は http://www.newtaiwan.org.tw/ を参照)。施明徳自身は,この運動を民主化後の台湾において公民社会の価値を確立するものと位置づけている。
 台湾滞在中,台湾の某テレビ局記者2名にこの点を聞いてみたところ,正反対の答えが返ってきた。A記者は,倒扁運動を「2000年以来の憤りがたまっている人達の発散の場」と位置づけ,参加者の背後に族群意識(外省人)があると指摘する。これは,若い人であってもその家族や周り影響で政治観が形成されるので引き継がれているというのである。一方B記者は,これまで政治運動に関わったことがなかった中産階級が多数参加していると指摘する。陳水扁政権が構造的に家族や支持者にあまりに簡単な利益を配分するそのやり方に多くの人が頭に来たことが動機であると見る。A記者も,倒扁運動開始期の9月には確かに中間選民が来ていたことを認めるが,「しかし運動が進展するにつれ,中産階級は保守的なので様子見に転じている」と言う。B記者は,倒扁運動が長期間にわたり継続していることで従来の一時的な怒り発散型の運 動とは質的に違うという感想を持っている。
 滞在中,倒扁運動の幹部の1人(副総指揮)に話を聞くことができた。この人物は労働運動・社会運動を経て民進党の立法委員を務め,陳水扁の総統当選後に民進党を離党した経歴を持っている。この幹部は,倒扁運動について「徹底的な非暴力平和的活動であり,混乱を起こすことが目的ではない」と語る。これは「信任を失った総統の去就を決める権利を人民に還すという理念を広げる運動」であり,この点で多くの人の賛同の集め,女性,学生が多く参加し運動が盛り上がったと分析する。国民党・親民党の支持者が多くいる運動を緑色の背景を持つ幹部が率いることに矛盾は感じないのかという筆者の問いには,台湾政治が藍緑,統独,族群で引き裂かれていることに強い憂慮を示し,様々な場を通じて族群の和解を進めていくことが必要であり,倒扁運動も族群を超えた新たな社会意識を生み出す一つの場を考えているようである。
 しかし,この倒扁運動には親民党の宋楚瑜主席や藍色系の立法委員,市議会議員らも参加していることも事実であり,運動の性格規定およびその影響については慎重な判断が必要であろう。宋楚瑜らの狙いには陳水扁辞任要求だけではなく,この運動を通じて自分たちの存在をアピールし,さらには国民党の馬英九主席の威信を下げるという計算もあるものと思われる。 (2006.10.19記)
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