総統辞任要求が高まる台湾の現場を見てきました。(2006年10月)

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陳水扁辞任要求運動のゆくえ(1)
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 台湾で激しさを増していた陳水扁総統辞任要求運動(以下,倒扁運動)は,ピークが過ぎたようだ。10月10日の国慶節に100万人を集めて総統府を包囲するという「天下圍攻」は成功しなかった。集まったのは10万人程度で総統府を包囲することはできず,倒扁運動本部は市内デモに切り替えざるをえなかった。しかし,失敗というわけでもない。10万人のパレードは壮観であり,倒扁運動の意義を広く伝達する効果があったと思われる。6月〜7月に国民党・親民党が総統罷免手続きの発動を試みた運動が第一幕,8月以降施明徳が開始した「百萬人民倒扁運動」が第二幕である。今後第三幕が始まる可能性も残っている。
 9月9日から始まった施明徳の陳水扁辞任要求座り込みは,非暴力で平和的な運動という方針と相まって大きな反響を呼んだ。陳水扁の家族・側近の相次ぐ金銭スキャンダルの発覚は,民進党支持者にも大きな失望を招き,陳水扁の支持率は20%台にまで低下した。施明徳は,腐敗した政治指導者,信任を失った政治指導者の去就を人民が判断すべきであるとして陳水扁のリコール運動を新たな公民運動と位置付けた。台湾のテレビ局の記者の話では,9月16日の総統辞任要求行動は30万人ほどが参加した大運動であり,従来の国民党・親民党の支持者とはまた違った中間層が数多く参加していたという。「百萬人民倒扁運動」はバンドワゴン効果で急激に勢いを増した。倒扁運動は,10月10日の中華民国国慶節(建国記念日)を次の目標に定め,陳水扁への圧力を強めた。
 しかし,倒扁運動の拡大は陳水扁の威信を一層低下させたものの,民進党内の危機感を高め,陳水扁は逆に立場を固めることになった。すなわち,民進党内には陳水扁周辺のスキャンダルおよび陳水扁の政治手法への批判が広がっていたが,倒扁運動には同調できず結果的に党内の陳水扁擁護派が強まるという皮肉な状況になったのである。ただし,民進党はこのまま陳水扁を擁護し続ければ2008年の次期総統選挙での敗北が必然となるため,ある段階で陳水扁との線引きをせざるを得なくなるであろう。民進党がどのように陣営を立て直すのか道筋は見えておらず,党内の主導権争いは波乱含みとなるであろう。
 倒扁運動は施明徳自身が認める通り「烏合の衆」であり,倒扁運動本部には様々な考えの人間が集まっている。そのため,運動の方針,情勢の判断に長時間の討論が必要となり,その間の足並みの乱れが国民の圧倒的支持を獲得するうえで障害となったようである。例えば,運動方針として陳水扁辞任を要求するストライキの是非も議論されたが,これは企業家にとっては死活問題であり,中間層の支持を獲得するという点でマイナスになった。また。施明徳が倒扁運動の理念を台湾全体に広げると称して台湾一周遊説を行なったが,中南部各地で陳水扁支持者との小競り合い・暴力事件が頻発したことも倒扁運動に対する警戒感を高めることになった。そして1ヶ月に及ぶ座り込みと大集会で支持者に疲労が見られ,交通渋滞などを気にする市民の嫌気がじわりと高まってきたことが倒扁運動第二幕の収束につながったのであろう。
 倒扁運動の第二幕で傷ついたのは陳水扁だけではない。2008年の総統選挙で当選が有力視されている国民党主席馬英九(台北市長兼任)も威信が大きく傷ついた。馬英九は高い支持率を背景に2008年選挙戦略を定めていた。その基本的なスタンスは自分に有利な現状を継続し,波乱の芽を摘むことである。もし,陳水扁が辞任という事態,あるいは陳水扁が辞任しないので代わりに行政院長の不信任決議を通過させるという事態になれば,2008年選挙の変数が増えて馬英九の当選がかえって不確実になるというのが馬英九陣営の発想である。そのため馬英九は倒扁運動にあいまいな態度を取り続け,施明徳や国民党・親民党支持者から厳しい批判を受け,馬英九は優柔不断な指導者という印象が広がったのである。馬英九にとって今後事態を掌握し,2008年戦略を確たるものにできるか,決断力・指導力が問われる正念場となるであろう。(2006.10.17記) 【その2に続く】 フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ http://www21.big.or.jp/~yuriko/

10月10日の倒扁運動のようすをご覧ください。


書店街として有名な重慶南路です。この日台北市中心部は歩行者天国でした。


同じく重慶南路です。総統府へ通じる道はこのように警察と鉄柵で二重封鎖されました。


行き場を失った赤シャツ軍団(倒扁運動のシンボルカラーが紅色)が溢れ出し
「阿扁下台」と叫んで周辺を歩き始めました。ここは三越デパート横の漢口街です。


倒扁本部の呼びかけで参加者は台北駅前に集結。三越デパート角の
交差点から見た忠孝西路です。向こう側は空港行バスターミナルです。


同じ場所から台北駅および忠孝東路方面を撮影しました。9月の倒扁運動より
少ないというものの10万人が台北市の幹線道路を埋め尽くす光景は壮観でした。


10月10日夜11時頃の三越デパート前です。1万人ほどの参加者が忠孝西路に座り
込んでいます。この後運動指導者の施明徳が道路からは移動すると宣言しました。

【Photos by OGASAWARA】

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