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韓國瑜高雄市長の罷免成立
台湾の生き生きとした民主主義の新たな一頁 |
小笠原 欣幸 |
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2020年6月6日，韓國瑜高雄市長に対する罷免投票が行なわれ，即日開票の結果，罷免が成立した。罷免賛成93万9090票，反対2万5051票，投票率は42.14％であった。 なお，高雄市は台湾第3の大都市で，人口約277万人，有権者数230万人である。2018年の市長選挙では，国民党の韓國瑜候補が民進党の陳其邁候補を破って当選し，20年続いた民進党市政（合併前の旧高雄県ではさらに長く民進党県政が続いていた）を断ち切る大きなサプライズを引き起こしていた。 過去に台湾の県市長レベルで罷免が成立したことはない。直轄市のような大自治体では罷免投票自体が初めてである。罷免の成立要件は，以前は「有権者数の半数以上の投票」という高い敷居があったが，2016年の選挙罷免法の改正によって，「有権者数の4分の1以上の投票」で，かつ賛成票が反対票を上回ればよいことになり，敷居は下がっていた。 事前の民意調査では，罷免成立の可能性が高いことが示されていた。例えば，TVBSの調査では，34％（約78万人）が罷免に賛成票を投じる意向であると出ていた。しかし，罷免投票は，誰かを選ぶ投票と異なり投票に行く意欲は低下するというのが定説である。投票率は，成立要件の25％をかろうじて上回る30％程度ではないか，あるいはぎりぎりで成立しないかもしれないという推測も高雄市の地元で広がっていた。 それが，ふたを開ければ圧倒的な結果であった。韓國瑜が大旋風を巻き起こした2018年市長選挙での得票数が89万票である。制度上は57万票の賛成票で罷免が成立する。仮に，罷免がぎりぎりで通過していた場合には，罷免投票の危うさを指摘する評論が多く出たであろう。しかし，罷免賛成票が韓國瑜の市長当選の得票数を上回ったことで，この懸念は吹き飛んだ。これは文句のつけようがない。罷免投票の制度的危うさ自体は存在するが，それより台湾の活発な民主主義を肯定する方が適切であろう。 韓國瑜が罷免案を突き付けられた最大の理由は，市長に就任して半年で総統選挙に出馬し，それが市政をないがしろにしていると見なされたからだ。高雄市民はその無責任を許さず，民主主義の票で議論に決着をつけた。 本来，韓國瑜の当選は，長く続いた民進党市政のマンネリに対する「一喝」という意味があった。地方行政の政権交代を支持する中間派の選挙民もいた。韓國瑜が地道に地方行政に取り組み，次の選挙で民進党とローカル・ガバナンスの質で勝負する展開になっていれば，台湾の地方政治の発展にプラスになったであろう。しかし，韓國瑜自身と国民党がそうした地元有権者の期待を裏切ってしまったのが今回の罷免案の始まりだ。票数からみて，韓國瑜に期待をかけていた人も罷免賛成に回ったことがわかる。韓國瑜と国民党は実にもったいないことをした。 罷免成功の背景としては，昨年の総統選挙の選挙戦以来の蔡英文総統の人気復活と，蔡政権のコロナ対策が高い支持を得ていることがある。国民党は，これで，1月の総統・立法委員ダブル選挙敗北に続く敗北となった。昨年，韓國瑜を公認候補に決めた時に，一部の評論家が「3つの敗北」の可能性を指摘したが，それが現実のものとなった。 国民党の支持率は1月の選挙後も回復せず，コロナ対策期間中の中国に関する言動が党の支持を一段と低下させていた。今回の罷免成立は，それに加えての大きな打撃といえる。韓國瑜の動向はわからないが，今後は，新北市長の侯友宜が党内でしだいに求心力を持つようになるのではないか。「３連敗」の国民党がどのように党勢を立て直そうとするのか，見ていきたい。 「罷免が成立したからすばらしい民主主義」という見解は，私はとらない。罷免が成立したことをもって次々に罷免をしかけていけば，それは政争であり，台湾の民主主義の肯定とは異なるであろう。この先，おそらくは，罷免をしかける人や団体はいろいろ出るであろう。しかし，私の長年の観察からすると，しっかりした理由がない限り罷免は成立しないであろう。 台湾の有権者は成熟している。4年に1回の定期的な改選が機能しているので，問題があればそこで代えればよいという考えとバランスをとっていくことに評価のポイントがある。選挙で政治家や政党を罰しようという台湾の有権者意識の強さはすでに何回も指摘してきたが，今回新たな頁が書き加えられた。 その台湾式民主主義のよさは，政治家・政権がものすごい緊張感でコロナ対策に取り組んだことで証明されたし，いま台湾の人々はコロナ感染を押さえ込んだというその成果の中にいる。台湾の生き生きとした民主主義の更なる発展を見守りたい。 （2020年6月6日）  （出所）中央選挙委員会資料を参照し筆者作成 |
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