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2010年台湾立法委員補欠選挙
(まとめ)


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フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ 2010年1月9日および2月27日,台湾の7つの選挙区において立法委員補欠選挙が行なわれた。2008年の立法委員選挙では,この7議席のうち,国民党が6議席,民進党が1議席得ていた。補欠選挙では,それが,民進党6議席,国民党1議席とまったく逆になり,民進党の圧勝となった。 それぞれの選挙区ではローカルな要素が作用したが,共通の要因として,馬英九政権の不人気,そして国民党の集票機能の低下を指摘できる。一連の補欠選挙において,都市部でも農村でも,台湾の選挙民は馬英九と国民党に対し強い不満を表明した。  (2010年7月17日) フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪
    東京外国語大学 小笠原 欣幸
 

2010年台湾立法委員補欠選挙 (その1)  (その2) もご覧ください。


  フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪   補選第二ラウンドの結果

 2010年2月27日(土),今年2回目の立法委員補欠選挙が行なわれた。4選挙区の結果は,国民党が1勝,民進党が3勝であった。これは,投票10日前に筆者が当ホームページで示した情勢分析通りであった。政権への信任を問うという大きな構図の中で,各選挙区ではそれぞれのローカルな要因も影響を及ぼした。4選挙区の概況を整理しておく。
 桃園県第三選挙区では,国民党の固い地盤を破って民進党候補が当選した。国民党系の候補が3名出馬したことが直接の原因であるが,中壢市のような都市部の選挙民が政権への不満を抱いていることが示された投票結果であった。
 細かい点では,国民党を除名された2名の無党籍候補の得票数が予想より少なかった。これは,選挙戦の終盤で「棄保」が発生したことによる。つまり,無党籍の呉餘東候補と林香美候補を棄てて国民党公認の陳學聖候補に票を集中させるという動きが発生したのである。筆者は,補欠選挙では「棄保」は発生しても大規模な票の移動にはつながらないのではないかと考えていた。この2名の候補はローカル政治の中で培った人脈を擁していて,当選の可能性に関係なく一定の数を誇示することで今後の影響力を維持することに支持者が協力する動機があると考えていた。
 しかし,国民党の金溥聰秘書長が,危機感を煽りたて,同時に民進党の黄仁杼候補の過去の灰色の行為を執拗に攻撃するネガティブキャンペーンを展開し,ローカルなゲームをナショナルな政権防衛戦へとヒートアップさせた。金溥聰秘書長の選挙戦術は,相手候補を激しく攻撃し「棄保」を誘発させて藍系の票を集中させるというものであった。この戦術は,当選には至らなかったが,桃園県第三選挙区ではある程度功を奏したと言える。金秘書長は,惜敗した陳學聖を次期立法委員選挙に再度出馬させようと手を打っている。国民党の固い地盤での民進党の勝利の意義は十分大きいが,次期立法委員選挙では国民党が議席を奪還する可能性が高い。
 新竹県は,筆者が示した地方派閥の対立モデル通りの投票行動が現れた。国民党は鉄票区で議席を失った。今後民進党が新竹県で急速に支持を拡大するとは思えないが,国民党系の複数の地方派閥の対立は簡単には解消せず,次回の立法委員選挙にも影響を及ぼすであろう。今回当選した民進党の彭紹瑾が地元サービスをこまめに続ければ,次期立法委員で再選を果たす可能性は十分ある。2008年総統選挙で競い合って馬英九への票をかき集めた新竹県の地方派閥が厳しい対立状況に陥ったことで,2012年総統選挙での馬英九の新竹県の得票率は,2008年より減少するであろう。
 嘉義県は,ほとんどの人が予想していた通り,民進党の陳明文の圧勝であった。この構図は,雲林県立委補選および雲林県長選挙とまったく同じである。ローカルな支持基盤を持つ民進党の大物政治家に対抗し,基盤のない学者を担ぐ馬英九の意図は,国民党の改革の熱意をアピールするためと言われているが,最初から勝敗が見えてしまい,効果は現れていない。それどころか,馬英九の不人気と結びついて,緑の地域が一層緑化する逆効果を招いている。現職の大学教員が立候補する場合,日本では立候補届出の前に辞職しなければならないのでまさに背水の陣となるが,台湾では辞職の必要がないので,落選したらそのまま大学教員を続けることができる。選挙に学者を担ぎ出す場合,清新さをアピールできるメリットはあるが,候補者の必死さというものがどうしても伝わりにくくなる難点もある。
 花蓮県は,民進党の蕭美琴が落下傘候補でありながらブームを作り出し,国民党候補を激しく追い上げた。国民党は,やはり大学教員を担いだことが勢いを造れなかった一因であるが,花蓮県は嘉義県と違い国民党の支持基盤の厚みがあり,最後は逃げ切りを可能にした。民進党の支持基盤が極端に弱い台東県でも民進党候補が当選したので,花蓮県でも,という期待が民進党内にあった。台東県では個性は強いが泥にまみれた灰色の地方派閥候補を公認したことが国民党の敗北の大きな要因である。花蓮県では個性は弱く色彩も薄い候補を立てたことで,相手に追い上げられたが,地方派閥間の矛盾がそれほど表面化せず最後に議席を守ることにつながったと言うこともできる。候補の選び方は本当に難しい。蔡英文主席は,腹心の蕭美琴のために全力をあげて支援したが及ばなかった。民進党はこの先も,花蓮県で議席を獲得するのは難しいように見える。

  フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪   補選のデータ

 補欠選挙が行なわれた7議席は,元々国民党6議席,民進党1議席であった。それが,民進党6議席,国民党1議席とまったく逆になり,民進党の圧勝となった。各選挙区での政党別得票率を《表1》で整理した。7選挙区の両党の得票率の平均値は,《表2》のように,民進党が53.50%,国民党が42.72%であった。国民党の得票率は,2008年の立法委員選挙の時の58.41%から15.7ポイントも減少した。ローカルな要因が作用したことは無視すべきではないが,共通の要因として,馬英九政権の不人気,そして国民党の集票機能の低下を指摘できる。一連の補欠選挙において,都市部でも農村でも,選挙民は馬英九と国民党に対し強烈な不満を表明したと解釈すべきであろう。

《表1》 2010年1月9日&2月27日立法委員補欠選挙の政党別得票率および投票率
投票日選 挙 区 民進党  国民党 無党籍その他 投票率 
1月9日桃園県第二選挙区58.06%40.04%1.91%38.42%
台中県第三選挙区55.02%44.98%0.00%45.09%
台東県選挙区49.46%45.25%5.29%39.44%
2月27日桃園県第三選挙区47.25%44.37%8.38%41.37%
新竹県選挙区55.97%44.03%0.00%36.00%
嘉義県第二選挙区67.92%32.08%0.00%38.36%
花蓮県選挙区40.80%48.32%10.88%41.59%
出典:中央選挙委員会資料を参照し筆者作成。

《表2》 7選挙区における2008年立法委員選挙と2010年補欠選挙の政党別得票率平均値
-民進党国民党無党籍その他投票率
2010年補欠選挙平均値53.50%42.72%3.78%40.04%
2008年立法委員選挙比較不能58.41%比較不能54.54%
※民進党は2008年選挙において新竹県と台東県で公認候補を立てなかったので平均値の比較ができない。
出典:中央選挙委員会資料を参照し筆者作成。

 2008年以降,11名の立法委員が失職あるいは辞職したことにより補欠選挙が実施された《表3》。うち10名が国民党籍である。選挙民の信託を受けながら任期を全うできない議員が続出したことは,国民党が苦戦した隠れた要因でもある。国民党は10議席が3議席に減少した。補選がこのように頻繁に実施されるようになったのは小選挙区制採用の副産物であり,台湾政治の新たな変数になっている。選挙の回数が増えることに対する選挙民の純朴な反発もあるので,日本のように補選の投票日を年2回にまとめる工夫も必要かもしれない。なお,残り任期が1年を切って欠員が出た場合は,補選は実施されない。

《表3》 2008年以降の立法委員補欠選挙結果
投 票 日選 挙 区2008年当選補選当選補 選 の 理 由
2009年3月14日苗栗県第一国民党無党籍国民党の李乙廷が選挙違反で当選無効判決
2009年3月28日台北市第六国民党国民党国民党の李慶安が二重国籍問題で辞職
2009年9月26日雲林県第二国民党民進党国民党の張碩文が選挙違反で当選無効判決
2009年12月5日南投県第一国民党国民党国民党の呉敦義が行政院長就任のため辞職
2010年1月9日桃園県第二国民党民進党国民党の廖正井が選挙違反で当選無効判決
台中県第三国民党民進党国民党の江連福が選挙違反で当選無効判決
台東県国民党民進党国民党の黄健庭が県長選挙出馬のため辞職
2010年2月27日桃園県第三国民党民進党国民党の呉志揚が県長当選により辞職
新竹県国民党民進党国民党の邱鏡淳が県長当選により辞職
嘉義県第二民進党民進党民進党の張花冠が県長選挙出馬のため辞職
花蓮県国民党国民党傅崐萁(国民党除名)の県長当選による辞職
出典:中央選挙委員会資料を参照し筆者作成。

  フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪   変化した流れ

 国民党は2009年9月の雲林県立法委員補選で大敗して以来,補欠選挙で負け続けた。国民党はドミノ倒しが続いていくのか?悪材料が出尽くして下げ止まるのか?台湾の中でも見解は分かれた。政治評論家の南方朔は陳水扁に対する強烈な批判で知られていたが,馬英九に対しても痛烈な批判をするようになった。補選後,南方朔は次のようにコメントした。「台湾の選挙民は陳水扁を恨んだのと同様に,馬政府を蔑視している。この政府は『我々の』政府ではなく,彼らはただの『彼ら』だということを人々はすでに認識している。選挙民による懲罰はまだ終わっていない。ドミノ倒しは最後まで倒れていく」(南方朔「正當性危機 馬政府面臨的最後警告」『中國時報』2010年3月2日)。別の著名評論家である周玉蔻は,馬英九政権に失望感を示しながらも,「国民党の地方派閥は一群の妖怪。改革を続行し地方派閥の悪弊を除去していくことが馬英九の唯一の道である」と主張した(3月1日に自身のブログに発表した文章が大手台湾紙に転載された)。『聨合報』も『中國時報』も,馬英九に対する批判と悲観論とであふれていた。
 しかし,馬英九政権が窮地に陥った局面は意外な形で転換していった。補選第二ラウンドが終わり民進党が高揚感に包まれている中,民進党の有力者である蘇貞昌(元行政院長,元台北県長)が台北市長選挙出馬を表明した。党内では,蘇貞昌が新北市(旧台北県)の市長選挙に出馬することを期待する声が多かったし,民意調査でも,蘇貞昌が出馬すれば当選確実という数字が出ていた。蔡英文主席もそれを目指していた。しかし,蘇貞昌は新北市長に当選すれば2012年総統選挙に出馬できなくなることを恐れ,台北市長選挙に挑戦することにしたのである(この経緯については当ホームページで改めて論じる)。政局の焦点は,馬英九総統の窮地から,民進党の水面下の主導権争いへと移っていった。
 民進党は五都選挙の公認候補を決める段階で,台南市,高雄市,そして新北市の3つで勝利が確実という状況,すなわち,3対2の数的優勢を作り出し,馬英九政権にさらに圧力をかけることも可能であった。台湾では多数の人が五都選挙で民進党優勢と認識すれば,現実の政治もその方向に動いていくからである。しかし,蘇貞昌の台北市長選挙出馬によって,五都選挙でどちらが優勢なのか,人それぞれ見方が分かれるようになった。このため,馬英九政権は一息つく余裕ができて,動きを取り戻し,ECFAの議題を使って民進党に反撃するようになった。
 サッカーの試合に例えると,チームがばらばらで雑なプレーが続き勝てる見込みがまるでなかった民進党が,相手のオウンゴール(八八水害と地方派閥のもつれ)によって息を吹き返し,昨年9月の雲林県立委補選でついに新人の蔡英文選手が点を入れた。民進党は急に動きがよくなり,前線からボールを奪い次々とシュートを放つ攻撃的サッカーで相手を押さえ込み,年末県市長選挙,今年の立委補選と連続して得点をあげた。しかし,試合が有利になり,2トップ(蔡と蘇)がチームの勝利だけでなくエースの座も意識するようになったためか,両者の連携プレーが悪くなってしまった。自陣でひたすら防戦に追われていた国民党が徐々にボールを奪えるようになり,カウンターをしかけるようになったという展開ではないか。

  フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪   次期立法委員選挙の展望

 立法委員の任期が4年になったので,次期立法委員の選挙は2012年2月までに実施される。投票日は2011年12月の可能性もあるし,2012年1月の可能性もある。選挙の投開票日は,中央選挙委員会が決定する。総統選挙は2012年3月に実施されると考えられている。2008年は,立法委員選挙で国民党が圧勝し,馬英九に決定的に有利な流れができた。2012年は,立法委員選挙で国民党が議席を減らすのは確実なので,異なる状況になるであろう。
 今回補選が行なわれた7選挙区で次期立法委員選挙がどうなるのか,筆者は現時点で,国民党が桃園県第三と台東県の2議席を奪回し3議席,民進党が4議席(桃園県第二,台中県第三,新竹県,嘉義県)と考えている。2008年から比べると国民党は3議席少なくなる計算である。2009年に補選が行なわれた4選挙区の中では,民進党が国民党から議席を奪った雲林県第二において民進党が次の選挙でも議席を維持する可能性が高い。苗栗県第二は,無党籍の現職が再選される可能性がある。そうなると4選挙区のうち,国民党は2008年に獲得した4議席が,2012年は2議席になる可能性がある。  これらを合計すると,これまで補欠選挙が行なわれた11選挙区において,国民党は2008年の10議席から,2012年は5議席へと5議席減らす可能性があることになる。馬英九の再選戦略にとって立法院での安定多数の確保は欠かせないが,この不利な局面をどう回避するのか,これから金秘書長がどのような公認候補擁立の方針を立てるのか興味深い。一方,民進党は党勢が上向くと内部での競争が過熱し自滅する傾向がある。各選挙区でしこりを残さない形で公認候補を決定できるのか蔡英文主席の指導力に注目したい。(2010年7月17日記)


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