2010年台湾立法委員補欠選挙   
東京外国語大学
小笠原 欣幸
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 2010年2月27日,今年2回目の立法委員補欠選挙が行なわれる。1月9日の1回目は,投票率が低下する中,民進党が3議席すべてを獲得した。今回争われる4議席は,いずれも支持基盤が明確な選挙区なので,順当であれば民進党1議席,国民党3議席の現有のままとなる。しかし,政権与党への不満という台湾政治の大きなうねりは変わっていないので,今回も波乱が起きる可能性がある。 (2010.2.17記)

2010年台湾立法委員補欠選挙(その2) をご覧ください。

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2010年台湾立法委員補欠選挙(その1)   
フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪  2010年1月9日に行なわれる3選挙区の補欠選挙は,今年の台湾政治を占う非常に重要な選挙となる。民進党が2つ取れば,馬政権にとって大きなダメージとなるし,国民党が2議席を守れば,民進党の反転攻勢の流れは押さえ込まれることになる。(2010.1.3記)
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フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ 2009年は馬英九政権にとって最悪の形で幕を閉じた。馬政権は昨年8月の台風災害での失策の衝撃を内閣改造で乗り切ろうとしたが,10月のアメリカ産牛肉輸入解禁問題でまたしても失敗を繰り返した。12月の県市長選挙は筆者が分析したように「2009年台湾県市長選挙分析」を参照),各県市のローカルな要因が強く出た選挙であったが,「この選挙は馬英九の中間評価」というナラティブが形成され,馬英九が敗北したという政治的解釈が定着することとなった。
 2010年も不吉な出来事で幕を開けた。総統・副総統が参加した総統府前の新年国旗掲揚イベントで,無料配布予定のマフラーが業者の不手際で半分しか納入されず,集まった群衆が殺到し主催者の中國青年創業協會に罵声を浴びせるという事態が生じた。それに対し,総統府公共事務室は,総統府は関係ないという声明を『聨合報』に掲載した(「回響/總統府回應國旗圍巾領取事件」『聨合報』2010年1月3日)。1月1日に総統・副総統が参加する晴れのイベントであるというのに,総統府が準備・運営に何も関与していないというのがまず信じがたいガバナンス意識の欠如であるし,現場で険悪な事態が発生したというのに,主催団体の問題であって総統府は関係ないという声明を出して済ましてしまうのは危機管理意識の欠如である。この小さなエピソードは,台風災害で強烈な批判を浴びたというのに総統府の態勢は何も改まっていないことを示唆している。今年も同じ問題が繰り返される可能性がある。
フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ 新年早々の2010年1月9日(土)の立法委員補欠選挙は,国民党が保持していた3議席で争われる。現時点では民進党が2議席を取る可能性があり,場合によっては3議席当選という画期的な結果もありえる。うち桃園県第二は県内唯一緑優勢の選挙区なので,民進党の勝利は堅い。国民党は泡沫候補を担ぎ出すしかなかった(関係者の話)。民進党は分裂選挙になりかけたが,蔡英文主席の調整が成功したようだ。ただし,これは確かに国民党から議席を奪うことではあるが,この勝利だけでは民進党の党勢の後退に歯止めがかかったことを示すにすぎない。
 台中県第三は国民党優勢の地盤だが,国民党現職が選挙違反で当選無効となった経緯からすると民進党に勝機は十分ある。このように都市部に比較的近くて国民党優位の選挙区で民進党が勝てば,台湾全体で同じような構造の選挙区が10くらいありそれらが次回オセロのようにひっくりかえる可能性を意味するので,民進党に弾みがつき,国民党の立法委員は浮き足立つであろう。逆に,馬政権の不振と相手陣営の選挙違反という好条件を民進党が活かしきれなかった場合には,次期立法委員選挙でも国民党優位の構造は変わらないということになる。ここでの勝敗は,年末の新台中市長選挙にも影響を及ぼす。
 意外な展開を見せているのは台東県で,民意調査では民進党候補リードと出ている。民進党は台東県の県長選挙・立法委員選挙で勝ったことがない。昨年の県市長選挙の前に,民進党の陳瑩立法委員に台東県の話を聞いた。陳瑩委員は台東県ではようやく選挙民の覚醒が始まっていると言っていた。筆者は,これは期待を込めた分析であると受け止めたが,民進党候補が追い上げた県長選挙の結果は陳瑩委員の分析が正しかったことを示した。今回の補選の焦点は,在任中頻繁に海外視察を敢行し批判を浴びた鄺麗貞前県長が立法委員にくら替えすることを台東県民がどう評価するかである。この立法委員補選では原住民は有権者ではないので陳瑩委員の話の前提とは異なるが,地方政治家族への反感が国民党離れにつながるのかどうか興味深い。そもそもこのような状況になったのは,呉俊立・鄺麗貞夫婦による県長ポストのたらい回しとそれを認めた国民党に責任がある。12月に花蓮県長に当選した傅崐萁が偽装離婚して妻を副県長に任命しようとした事件は,台東県の呉俊立・鄺麗貞夫婦を手本にしたものである。また,馬英九が鄺麗貞候補の応援に立つのかどうかも注目点である(1月3日時点で馬英九はまだ補選応援で台東県に入っていない)。
フリー素材柚莉湖♪風と樹と空と♪ これら3つの選挙区で民進党が2つ取れば,民進党の反転攻勢が本物であることを示すことになり,馬政権にとって大きなダメージとなるであろう。逆に,国民党が2議席を守れば,民進党の勢いは押さえ込まれることになる。仮に民進党が3つとも勝てば国民党はパニックに陥るのではないか。一方,2月27日の4選挙区の補選は,まだ候補が決まっていないが,藍緑の地盤がはっきりしている地区なので,それぞれが現有議席を守る可能性が高い(表を参照)。したがって,1月9日の3選挙区の重要性がはるかに高いと言える。その結果によって2月27日の4選挙区で波乱が生じる可能性も当然出てくる。立法委員の補欠選挙というのは,中選挙区時代にはほんど行なわれたことがなく,小選挙区制の副産物である。昨年9月雲林県第二選挙区の補選で劉建國が当選したことが県長選挙での蘇治芬の圧勝につながったように,補選の影響はあなどれない。2005年の制度改革の時には予期されない形で,大変な政治的インパクトを発揮することになった。1月9日の3補欠選挙は,今年の台湾政治を占う非常に重要な選挙となる。(2010年1月3日記)

《表》 2010年立法委員補選の選挙区・補選の理由・見通し
投票日選 挙 区補選の理由見 通 し



桃園県第二選挙区(大園郷,觀音郷,新屋郷,楊梅鎮)国民党廖正井の選挙違反,当選無効。民進党が国民党から議席を奪う可能性が高い。
台中県第三選挙区(太平市,大里市)国民党江連福の選挙違反,当選無効。国民党優勢区だが,民進党が議席を奪う可能性あり。
台東県選挙区国民党黄健庭が県長選挙出馬のため辞職,鄺前県長と地位交換の疑問あり。国民党候補への批判票がかなり出る。民進党が台東で初めて当選する可能性あり。


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桃園県第三選挙区(中壢市)国民党呉志揚の県長当選による辞職。国民党優勢で議席変化なし。
新竹県選挙区国民党邱鏡淳の県長当選による辞職。国民党優勢だが候補を見る必要あり。県長選で国民党が分裂した後遺症が出るかどうか注目。
嘉義県第二選挙区(山線)民進党張花冠が県長選挙出馬のため辞職。前県長の陳明文が出馬。民進党優勢で議席変化なし。
花蓮県選挙区傅崐萁(国民党除名)の県長当選による辞職。国民党優勢だが候補を見る必要あり。

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