朝鮮語はどうやすれば身に付くのか?
合格おめでとう.あるいは進級おめでとう.ここでは大学の専攻科目や第二,第三外国語科目として朝鮮語を学ぶ場合に限って述べることにしよう.ここでは,「死ぬ気で勉強しろ」とか,「辞書をとにかく最初から覚えよ」というような精神主義を説くことはしない.どうすれば最小限の努力で,最大限の効果を上げることができるか,この点に絞って述べることにする.
授業に備えて
日本の大学では4月から新学期に入る.ほとんどの講座はこの4月から開講される.いかなる講義であれ,諸君は大学での第1日目の講義には決して遅刻したり欠席したりしてはいけない.第1日目には決まってその講義の重要なことがらが述べられるからである.先輩たちのいい加減な授業情報などに頼り切ってはいけない.
授業の年間のスケジュールは概ね予め決まっている.年間のシラバス(授業計画)もろくにない,杜撰な講義も最近は全国の大学でもずいぶん減ってきた.授業概要などを読み,教科書を年間にどれほど消化するかなどは事前に把握しておくのがよい.そして自分の勉強のペースは授業のペースとうまく調整する.授業は集団を対象にしたものなので,勉強が1ヶ月も進む頃には,勉強が進んでいる学生と遅れている学生の差が目に見えて開いてくる.これはどんな優秀な大学,どんな優秀なクラスでも同様である.差が大きくなると教師は授業の焦点を集団のどこかに合わせざるを得ず,集団の全員が満足するような授業は少なくとも原理的には成り立たなくなる.進んでいる学生は授業が退屈だという程度ですむが,遅れている学生は悲惨である.授業が全く面白くなくなってしまうだろう.週何時間かの貴重な授業が無駄どころか苦痛となってしまう.青春の貴重な時間が苦痛の時間になるのである.高い授業料を払っているにもかかわらず.このことは多くの学生が中学や高校ですでに経験しているとおりである.
楽しく学べ――開票速報の法則を知れ
授業も勉強も楽しくなければいけない.楽しく生き生きと学ぶ,このことがとても重要である.楽しくあるためにはどうすればいいか?実に簡単である.できればいい.勉強ができれば楽しいのである.ではできるようになるためにはどうすればいいか?これも答えははっきりしている.大学の語学の勉強においては,4月,5月を一所懸命に勉強することである.最初の出発の段階を丁寧に学ぶことである.経験的に言うと,4月,5月の成績は,2年後,3年後までずっと続く.つまり,4月に100点だった人は2年生の終わりにもやはり100点付近に位置しているし,4月に50点だった人はいつまでたっても50点ぐらいを徘徊している.4月に30点だったが1年経って90点台になった学生は皆無である.私はこうしたことを<開票速報の法則>と名付け,新学期にはいつも学習者に注意を喚起している.4月の開票で4年間の朝鮮語の力量が決まってしまうのである.何とおそろしいことだろう.決して受験勉強の感覚で大学の語学の勉強に臨んではいけない.既に受験という関門をくぐった同じような力量の学生が集まっており,そういう条件下で大学の授業は行われているのである.高校レベルの英語の学習であれば,半年も必死に勉強すれば偏差値の10や20は簡単に上がるが,大学の語学の勉強ではそうはいかない.東京外国語大学の朝鮮語専攻なら,朝鮮語の基本的な文法は夏休み前後に終えてしまう.大変な速度である.夏休みになってから遅れをとりもどすなど,そう簡単にできることではないのである.ちなみに夏に遅れを取り戻した学生などまだ見たことがない.同じ1時間を集中して学ぶのなら,夏休みになってから学ぶより,4月に学ぶ方が遙かに生産的なのである.4月の1時間の集中は,夏休みになってからの数日分にゆうに匹敵すると思えばいい.このことを肝に銘じてもらいたい.
まず文字が異なることに注意せよ
朝鮮語はまず文字が日本語や英語とは異なる.初めて接する文字なのである.これが第一の関門である.文字と発音の基礎を学ぶ段階でもうどんどん差が開いてしまう.うろ覚えでは役に立たないのである.なんとなく覚えていてもたくさん接すればそのうち覚えるだろうなどと,ゆめゆめ思わぬことだ.ひらがなが読めずに小学校の教科書が楽しいだろうか?文字と発音は速度ある学習が必要である.さいしょにきちんと学ぶこと.
最初の授業を迎える以前になすべきこと
だとすると,最初の授業に臨む心構えは自ずと明らかだろう.文字と発音の基礎ぐらいは自分で独習してから授業に臨むのである.教室に行ってから初めてハングル文字に接する学生と,既におおまかに理解してから接する学生とは天地の差があるのである.教科書のどこに何が書いてあるかぐらいは少なくとも把握してから授業に臨む.まず準備してから事に臨む.これはおよそ人間の営みである以上,成功するためには常にあてはまることである.孫子が説くように,まず戦ってみてから勝ち負けを争うのはおろかである.まず勝っておいてから戦わねばならない.教室で朝鮮語がよくできる学生のかなりの部分は,大学の授業で学ぶ前に自分自身で朝鮮語を勉強した経験のある者である.もちろん4月から始めて朝鮮語をものにする学生も多い.彼らの全ては4月に一所懸命学んだ者たちであり,このことに例外はない.
文字の学び方
文字は文字であるが故に書けなければいけない.それも子供が書いたような字で書くのではなく,きちんとした形で書けなければならない.1点1画が重要である.「わ」と「ね」,「さ」と「ち」,こんな区別ができないで日本語の読み書きができるようになるだろうか?「私はかんこくから来ました」と「私はかんごくから来ました」の差は,点が2つあるかないかの違いなのだ.ハングル文字には実感が伴わないので,学習者はともすれば自己の過ちに寛大になってしまう.文字は基本的に1文字でも書き間違っていたら許されないのである.何度も書いて自己テストを繰り返すべきである.
発音は肉体の訓練である
発音の訓練はとりわけ4月5月が重要である.その際,頭で理解するだけで済ませてはならない.大学生は皆それなりの知識人であるから,説明さえ明快なら,発音の説明を頭で理解することは,そう難しいことではないだろう.しかし怖いのはそれで納得してしまうことだ.重要なのは自らの身体を動かして発音の訓練をすることにある.鏡を見て,録音してみて,ありとあらゆる方法で自己の肉体を朝鮮語の音に慣らすことである.発音の訓練は,剣道やテニスの素振り,空手の突きなどと同様に,回数をこなさねばならない.5母音で惰眠をむさぼっていた自己の発音器官を朝鮮語の8母音体系に鍛え直すのである.ちなみに英語は多くの人が5母音で発音することに慣れてしまっているから,英語を学んだときの経験は,よほどきちんと学んだ人以外は役に立たない.逆に朝鮮語を学びながら,英語とはどう違うのか,日本語とはどう違うのかを確認してゆくようにしよう.
要約しよう.朝鮮語を学ぶには楽しく学ぶこと,そのためにはできるようになること,できるようになるためには4月5月に一所懸命学ぶこと.文字は書いてきちんと覚えること,発音の訓練は肉体の訓練だということ.全て授業には準備をして臨むこと.
おめでとう.これを読んだ君はもう半ば勝利したも同然である.いますぐ入門書を手にとって学び始めたまえ!