総合科目
地球規模での人の移動 (移民・移住・ディアスポラ)
講 義 計 画
本年度と来年度の2回にわたって、地球規模での人の移動を多面的、多角的に検討します。
本年度(2000年度)は中軸を南北アメリカ大陸に置きます。
1学期4月12日 総論 高橋 正明 専任 4月19日 北米への移民(アイルランドから) 松本 悠子 非常勤 4月26日 〃 〃 〃5月10日 〃 〃 〃5月17日 北米への移民(スウェーデンから) 土田 映子 〃5月31日 〃 〃 〃6月 7日
中南米への移民 安村 直巳 専任 6月14日 〃 〃 〃6月21日 〃 〃 〃6月28日 ブラック・ディアスポラ(北米) 佐々木孝弘 〃7月 5日 〃 〃 〃7月12日 〃 〃 〃7月19日 ブラック・ディアスポラ(中南米) 鈴木 茂 〃7月26日 〃 〃 〃 2学期10月 4日 中国人移民(華僑・苦力)1 佐藤 公彦 専任 10月11日 佐藤 勘治 非常勤 10月18日 中南米への日本人移民 鈴木 茂 専任 10月25日 〃 〃 〃11月 1日 〃 〃 〃11月 8日 デカセギ・外国人労働者 アンジェロ・イシ 非常勤 11月15日 〃 〃 〃11月29日 カリブ世界(クレオール文化の形成) 工藤 多香子 〃12月 6日 カリブ世界(カリブのインド人) 内藤 雅雄 AA研 12月13日 カリブ世界(グアヤナの金山の町) 石橋 純 非常勤 1月17日 南北アメリカ内部の移動(ヒスパニック) 佐藤 勘治 〃1月24日 南北アメリカ内部の移動(アカディアン) 太田 和子 1月31日 〃 〃 〃2月 7日 南北アメリカ内部の移動(ヒスパニック) 佐藤勘治
以下の諸点について説明しました。なお、『履修案内』では、講義計画を印刷して配布するとしていましたが、実際には配布せず、大学の掲示板に掲示しました。また、学年末試験によって成績を評価すると記してありますが、これはレポートに変更しました。詳細はこのサイトの掲示板を見て下さい。
(1) 総合科目とは
(2) なぜこのテーマを設定したのか
(3) 1年間の講義の流れ(授業計画)
(4) 成績評価の方法
当日の講義内容はこちらに文章化してあります。
■北米への移民1(アイルランドから) 松本悠子(4月19、26日、5月10日)
目的:
「総合科目の趣旨」において提起された問題を、アイルランドからアメリカ合衆国に19世紀から20世紀前半に移民した人々を例にとって考え、人の移動が、移動した人々の生活や意識に影響を与えるだけではなく、もとの国あるいは地域、および移動先の国あるいは地域にどのような影響を与え、歴史を動かしたのかを論じたい。特にアイルランド人の場合、本国においてイギリスとの関係の中で自らの位置付けを模索し、さらに、アメリカ合衆国において、19世紀後半にはアメリカ人として認められるか「他者」とされるかの境界線上に位置付けられていた。したがって、「同化」か「排斥」かという議論ではなく、この境界線を辿っていくことによって、エスニシティ、人種、国民の帰属意識の意味を再考したい。
(1) 「なぜ、移動するのか、どのような人々が移動するのか」
ヨーロッパからアメリカ合衆国への移民(19世紀から20世紀前半)――統計的な紹介にとどめたいと思います。
アイルランドからの移民 アイルランド大飢饉とアイルランドの歴史
アイルランドからイギリスおよびヨーロッパ諸国へ
アイルランドから他の地域へ(アメリカ合衆国およびヨーロッパ以外)
女性と移民
(2) 「移動先の土地における生活」 ─ 19世紀後半から20世紀前半
19世紀から20世紀前半のアメリカ合衆国における移民流入と受け入れ体制 ─ これも統計および法律的な概要にとどめたいと思います。
アイルランド人コミュニティの成立 ─ ニューヨークおよびシカゴを中心に
カトリック教会
アイルランド愛国運動とアメリカ人としてのアイデンティティ
聖パトリック祭
コミュニティ内の階級、エスニシティ、ジェンダー
(3) 「移動した人々と先住者との関係」 ─ 19世紀から20世紀前半
ネイティヴィズムの系譜 ─ 概説は簡単にして、アイルランド人移民にかかわりのある事例を中心に論じたいと思います。
「白人性」の構築
アイルランド人のイメージ
アメリカ人であること
他のエスニックおよび人種集団とのかかわり
労働運動
都市政治 (2)(3)に関しては、できるだけケーススタディを中心に具体的に論じたいと思います。
「内在する『他者』と『国民性』─ 20世紀前半のロスアンジェルスにおける日本人移民の『米化』」中央大学文学部紀要 史学科第45号(通巻第182号) 2000年2月
■北米への移民2(スウェーデンから)土田映子 (5月17日、31日)
ヨーロッパから北米への移民は、しばしば「容易に同化していった北西ヨーロッパからの旧移民」と「同化が困難だった東・南ヨーロッパからの新移民」という二項対立で語られます。特に前者のうち、プロテスタントの集団については問題が提起されることは少なく、いわば「見えないエスニック・グループ」であったと言えるでしょう。しかし、彼らはまっすぐにアメリカ社会に溶け込んでしまったのでしょうか。その過程で何が起こっていたのでしょうか。
この講義では、北欧系移民のうち最大の集団であったスウェーデン系を取り上げ、移住後の彼らの文化や自己像がどのように変質していったのかを、実例を紹介しながらお話しします。
5月17日 農業地帯のスウェーデン系移民――「移植」された共同体
スウェーデンからの移民の概要と、中西部農業地帯での生活について紹介します。
1) イントロダクション―スウェーデン系アメリカ人の現在
2) 移住の背景
3) 農業地帯の共同体の営みと文化変容
5月31日 都市のスウェーデン系移民――祝祭と教育
スウェーデン系移民の集中した都市の一つであるシカゴを例に取り、アメリカ人や他の移民グループとの関係の中でのスウェーデン系コミュニティの変遷をたどります。
1)「スウェーデン人街」の形成と拡散
2)祝祭とエスニック・アイデンティティ――リンネ音楽祭を例に
3)言語と公教育
4) 第一次世界大戦とエスニシティ表現の変質
講師の研究分野:
歴史学・文化人類学 ラテンアメリカ、とくにメキシコを中心として、先住民インディオとスペイン系の 人々の間にどのような関係が形成され、変遷し、現在にいたっているかを研究して いる。
講義計画
1. 導入 現在のラテンアメリカにおける政治・経済・社会・文化的状況と、民族構成の間の連関について 述べ、このような現実をうんだ歴史的過程についての関心を呼び覚ます。
2. スペイン・ポルトガルによる征服と植民
3. 地域社会の形成
4. 独立後のラテンアメリカ諸国と新たな移民の波
講義のねらい
今回の総合科目では、ラテンアメリカ関係の講義はこれが最初のコマであるので、ラテンアメ リカとアングロアメリカの植民にみられる共通性と差異や、ラテンアメリカへの移民の波が世システムの歴史的展開に規定されていた側面など、マクロな議論を主とし(1,2,4)、その後 のラテンアメリカ関連の講義が受講生にとって理解しやすいものとなるように努める。ただし、 それだけでは教科書的にすぎるので、3.ではローカルな空間に焦点をあて、植民地期メキシ コにおいてスペイン人とインディオのあいだの関係がいかなるものであったかを、具体的に説 明していくものとする。講義の実際の順序としては、3.を最後にもってくることもありえる。
コーディネーターから
講義計画に関して、安村さんとの間に次のようなやりとりがありました。このやりとりに関して、講義を聞いた学生諸君はどのように考えるか、コメントを寄せて下さい。
■ブラック・ディアスポラ(北米) 佐々木孝弘 (6月28、7月5、12日)
アフリカ大陸からアメリカ合衆国へ移住していった人たち(アフリカ系アメリカ人)の移動がなぜ起こったのか,移動した土地でどのような生活をし,どのような文化を作り上げていったのかの概略を講義します。彼らの移動の道筋を大まかに整理すると,アフリカ大陸西海岸→北アメリカ大陸南部植民地(英国からの独立後はアメリカ合衆国南部)→アメリカ合衆国北部大都市と移動している訳ですが,この移動はそれぞれ歴史的に規定された社会経済的要因によって引き起こされたものです。彼らはなぜ移動したのでしょうか。移住によって彼らの生活はどう変わったのでしょうか。
主として以下の内容を取り上げます。
6月28日 西アフリカから北アメリカ大陸南部への移動 (17世紀~1860)
(1) 南部植民地における労働力不足
(2) 三角貿易に組み込まれた奴隷貿易
(3) 南部プランテーションと黒人奴隷制度
(4) 奴隷文化の成立
7月5日 南部プランテーションから北部大都市への移住 (1860~1950年代)
(1) 南北戦争と奴隷制度の廃止
(2) プランテーションに縛りつけられた解放黒人たち
(3) 選挙権の剥奪と人種隔離制度の定着
(4) 黒人の「大移動」
(5) 北部大都市におけるゲットーの成立
7月12日 公民権運動とその後の黒人たち (1950年代以降)
(1) 公民権運動の展開
(2) 運動の成果と限界
(3) 慢性的な失業と深刻な貧困の問題
■ブラック・ディアスポラ(中南米) 鈴木茂 (7月19、26日)
研究分野
ブラジル近現代史。大西洋を挟んだ世界の中で、ブラジルの19、20世紀史を考えています。とくに、南北アメリカ社会の形成の重要な要因である、「人種」や「エスニシティ」を視点に据えて、多人種・多民族社会における国民統合の歴史を考えています。
現在のテーマ
1930年代のブラジルの黒人運動と国民統合をめぐる諸問題を勉強しています。
講義計画
ラテンアメリカおよびカリブ海地域のアフリカ系人をめぐる歴史と現在を検討する。
1) まず、南北アメリカの「黒人問題」というと、すぐにアメリカ合衆国が頭に浮かび、そしてただちにそこで終ってしまう日本の状況の問題点を指摘し、南北アメリカにおけるアフリカ系人と彼等の文化的影響の空間的ひろがりを提示する。そして、そうした状況を生み出した歴史過程を、植民地支配、奴隷貿易、奴隷制度、「産業革命」と国際分業体制等々、高校世界史の知識と結び付けながら解説する。
2) ブラジルを中心として、現在のラテンアメリカ、カリブ海地方におけるアフリカ系人の社会や文化を紹介し、「人種」「エスニシティ」といった概念を考え直す。
私の担当は上記のようになっていますが、華僑史研究は主に東南アジア、日本などを中心に進められてきており、アメリカの中国系移民の実態については寡聞で、多くありません。加えて、小生は、この領域の研究者ではないということもあって、次のような話をして導入にしたいと考えております。
十九世紀後半に多くの中国人が外国人商人との『契約』によって、マカオ、アモイ、その他の開港場からアメリカ大陸に出国しましたが、
(1) 彼らの故郷である広東省、福建省などが多くの『華工』を出したのはなぜか、その社会経済的背景――特に耕地の狭隘さと人口過剰――について話をします。
(2) 「華工」は、誘拐、あるいは欺瞞的な『契約』によって、外国船の劣悪な船倉に押し込められて輸送されたのですが、その『募集』、『契約』や輸送実態について、明治期に横浜港で外国船から脱出し救出された「華工」をめぐる紛糾と外交の資料を中心に話をします。
(3) それだけでは不充分でしょうから、『華工出国資料』などを使って、中国人がどの程度アメリカ大陸に渡ったのか、概略を話す必要がありましょう。これはまだ、課題です。
(4) ペルーについては、中国人最初のアメリカ留学生であった容コウ『西学東漸記』が触れていますので、彼の調査などを使って、少し触れることができるでしょう。
(5) 最後に、アメリカの外国人移民排斥法を巡る清国との外交問題についても簡単に触れるつもりです。
中国人移民:中国人移民は、はじめクーリーとして導入され、その後、排斥運動にあいながらも南北アメリカ大陸に定着していった。この講義(一回)では、導入時および排斥運動後の社会経済的位置、その結果として大陸内部で移動、定着の過程を概説するとともに、メキシコ及びアメリカ合衆国を中心にして排斥運動の具体的事例を紹介する。できれば、現在の米国中国人コミュニティーとメキシコのそれとの比較を通して、ラテンアメリカ性といわれるものの特徴について考えてみたいとおもう。また、日本人移民との比較も重要だろう。しかし、この二点については時間や能力の点で無理があるかもしれない。
■中南米への日本人移民 鈴木茂 (10月18、25日、11月11日)
明治期以降の、日本から「新大陸」への移民の歴史を理解するとともに、現代日本社会における外国人をめぐる諸問題を考える糸口を探る。
1) 日本人の海外への移民史を概説し、移民といえば、これまたハワイとアメリカ合衆国という固定的なイメージを振り払う。とくに、移民にはそれぞれ固有の動機があるとともに、社会現象としての移民の増減には社会経済的な状況と政府の政策が大きくあずかっていたことを見る。
2) ブラジル移民を中心に、移民をめぐる様々なイメージを検討し、なぜ、そのようなイメージ(あるいはイメージの不在)が起こるのか、またそのようなイメージは何を人々の移民をめぐるどのような思いをものがたっているのかを検討する。石川達三「そうぼう」など、文学作品を資料として使う。
3) ブラジルを例として、日系人社会の形成過程と特質を考える。とくに、ブラジルの移民政策や国民統合政策の中での日系人意識との葛藤を考える。極端な例として、戦後まもなくの「勝ち負け」抗争をとりあげて、「にっぽんじん」とは何かを考える。
■デカセギ・外国人労働者 アンジェロ・イシ (11月8、15日)
■カリブ海世界(クレオール文化の形成) 工藤多香子 (11月29日)
講義は私の専門地域であるキューバの話を中心として進めることになりますが、カリブ世界を扱う講義の第一回を担当することになっているので、できるだけカリブ海全域を万遍なくカバーできるようにしたいと思います。
とりわけ、西語圏カリブと英・仏語圏カリブとの民族構成の違い、その歴史的背景、そしてそこから生じる自文化意識の相違を焦点として構成する予定です。
1.カリブ海地域の歴史
・ヨーロッパ諸国による植民地化
・砂糖プランテーションの導入と奴隷制
・奴隷制廃止後の移民労働者
・カリブ海地域内での移動
2.カリブ海地域の現在
・カリブ海諸地域の政治的
・社会的現状と他地域(特に旧宗主国/本国、米国)への移民
3.異人種・異文化混淆のアイデンティティ――キューバの事例
・キューバの独立運動――ホセ・マルティの思想と人種混在の独立軍
・独立の挫折と米国の覇権
・「混血文化」というアイデンティティ――民俗学者F.オルティスの思想
・キューバ革命と国民文化の形成
・「黒人文化」見直しの動き――「混血文化」の問題点
4.概念としての「クレオール」
・仏語圏カリブから生まれたクレオール性の思想―クレオール性誕生の思想史的背景とその限界
キューバの混血文化概念と比較しながら説明する予定
5.まとめ
近年日本でクレオールをめぐる議論がさかんとなっているが、現代の日本でなぜクレオール性がこれほど注目されるのかを考えてみることで、「日本文化」と比較したとき浮き彫りとなるカリブ海産文化概念の特徴を検討してみる。
■カリブ海世界 (西インド・カリブ海地域における東インド人社会) 内藤雅雄 (12月6日)
[概略]
主として、トリニダード・トバゴとガイアナを取り上げ、インド系住民(一般に原住の「インディオ」と区別するため「東インド人」と称される)の移民・定住の歴史、およびそれぞれの国における彼らの社会的、経済的、政治的位置づけについて考察する。
はじめに
インド系移民の歴史の概観(とくに年季契約労働制による海外移民) カリブ海地域とインド人
I) トリニダード・トバゴおよびガイアナにおけるインド系移民社会の成立
経済
社会(宗教・カーストなど)
言語・教育
II) インド人の組織的活動
インド民族運動と政治意識の向上
労働・農民運動
政党と政治
III) インド人・アフリカ人(クレオール)関係
とくに両者の連帯と対立
おわりに
カリブ海地域におけるインド人のアイデンティティ
古賀正則、内藤雅雄、浜口恒夫 『移民から市民へ ─ 世界のインド系コミュニティ』 アジア・アフリカ言語文化叢書34 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 2000年
■カリブ海世界(ベネズエラ、グアヤナ地方の英仏語圏移民と文化表象)石橋純 (12月13日)
ベネスエラ東南部グアヤナ地方の町、カジャオ。この辺境の町に19世紀中頃起こった 金山発見とそれにともなうゴールドラッシュは、おりしも奴隷制廃止間もないカリブ 海の英・仏語圏の島々から一攫千金のアフロ系移民をもたらした。彼らが持ちこんだ カーニバルとカリプソの伝統は、19世紀トリニダード文化の姿を現在に伝えるといわ れる。1850年代から現代までのタイムスパンでベネズエラとカリブ海島嶼部との交流 を捉える。同時に、ベネズエラにおける特異なカリプソと金山の町のカーニバルの伝 統を、文化史的視点から論ずる。
授業のねらい:
1)南から南へ------「人の移動」の傍流に注目する
科目全体の流れのなかで、この講義によって提起したい問題は、人の移動は、周縁地 域からメトロポリスへ(南から北へ)という方向でのみ起こるものではない、という ことです。カリブ海地域における奴隷解放にともなう労働人口流動化、そして近隣地 域ベネズエラに起こった金鉱開発------こうした条件が重なることによって、カリブ 海の島々から南米内陸の辺境の村へと、人の流れが起こりました。このような、見落 とされがちなミクロな事例をとりあげ、人の移動という現象の多様な姿に光をあてた いと考えています。
2)「同化」と「卓越化」
初期移民から150年が経って、現在のカジャオには英仏語圏生れの一世も数えるほど しか生存していません。こんにちカジャオに住む、英仏語圏出身者の子孫は、ベネズ エラのマジョリティである「クリオージョ」層のなかに溶けこんでいます。もはや 「移民」「マイノリティ」ではなくなったカジャオの人々は、しかし、英語で歌われ るカリプソやカーニバル儀礼など、カリブの島々の民衆文化を継承することを通じて、 「地域社会」としての文化的プライドを、ベネズエラ国民文化の枠組のなかで主張し ています。それは「マイノリティ」としての境界を誇示し、マジョリティ社会に対抗 するための「アイデンティティの政治」とは異なります。誇るべきベネズエラ民衆文 化の担い手として、自文化の価値を誇示する「卓越化」戦略(私の提唱する用語では 「イメージの政治」)なのです。
3)カリブ海のカーニバルとカリプソ
この授業では視聴覚資料を多用し、ベネズエラならびにトリニダードのカーニバル芸 能とカリプソ音楽をじゅうぶんに紹介します。科目全体の企画からすれば、マイナー な地域のお話しです。学生には歴史的事実や教師の理屈を頭に入れてもらうより、映 像と音楽で楽しみつつ、何をおいてもまずカリブ海域民衆文化の強烈な印象を感受し てほしいと考えています。
■南北アメリカ内部の移動(アカディアン・ディアスポラ) 太田和子 (1月24、31日)
1)アカディアンとは、17世紀に、主としてフランスの中西部から、当時アカディアと呼ばれていた地域(現在のカナダ、ノヴァスコシア)に移り住んだ人々とその子孫たちをさしているが、まずその集団の歴史を概観する。
2)1755年の「大追放」による、アメリカ大陸での離散とその後の各地での定着の経緯に特に留意する。
3)現存する二カ所における大きなアカディアン・コミュニティ、
1.カナダ大西洋沿海州のアカディアン
2.アメリカ合衆国、ルイジアナ州のケイジャンに着目して、それぞれのコミュニティの文化や人々の持つアイデンティティ、他集団との関係,国家との関係、さらには最近のグローバルな動きなど、比較の視点を入れつつ論じる。
*音楽や映像資料も活用したい。
■南北アメリカ内部の移動(ヒスパニック) 佐藤勘治 (1月17日、2月7日)
第1回
まず、問題の所在を明らかにするため、ヒスパニックについての基礎統計、諸集団の特徴を確認したうえで、現在の米国におけるヒスパニックをめぐる論争を紹介する。(カリフォルニア州提案187、英語公用語化問題およびスペイン語を唯一の公用語と定めたテキサスの町など)
つぎに、メキシコ系、キューバ系、プエルトリコ系その他の出身地域ごとの米国への移民の経緯を概説する。メキシコ系については、旧メキシコ領の編入過程に注意を向けさせる。また隣接している地域という特殊性をキューバ、プエルトリコ系については、米国のカリブ海における覇権の確立との関係を重視するつもりである。
第2回
この講義では、メキシコ系が中心となったいわゆるチカーノ運動とその背景、他のエスニックグループの運動との異同を明らかにする。その際、アストランという架空の領域設定が果たした役割と限界についておもに論じる。最後に、現代のヒスパニックがかかえている問題(1の冒頭で紹介した点)について、学生に意見交換させたい。