ラロ貝塚群調査 95-97年 調査概要

IV.        文部省科学研究費補助金(国際学術研究19951997年度)

                        研究課題:「ラロ貝塚群の発掘ー東南アジア島嶼部先史時代の考古学的調査ー」

                        研究者氏名:小川英文、青柳洋治、小池裕子、ウイルフレド・ロンキリオ、
             ユセビオ・ディソン、樋泉岳二

研究経過とその成果3年間の研究期間に以下の学際的調査団編成による調査・研究を行い、以下の成果を得た。

1.関連科学分野の専門家を招いて生物・地質・花粉・先史人類学・形質人類学班を編成し、出土遺物の分析結果を総合的に解釈し、熱帯雨林形成史・古環境復元、生業活動の戦略変化、古食餌復元が可能となった。

2.未調査地域について遺跡分布調査を行い、新たに3カ所の伸展葬墓地遺跡、3カ所の沖積平野内貝塚、1カ所の洞穴遺跡を発見し、それぞれ発掘調査を実施した。また出土遺物による編年体系の精緻化、先史時代貝採集民の生業戦略解明のため、貝塚遺跡の発掘を継続した。

3.これら発掘調査の結果遺物による相対編年がより精緻なものとなり、赤色土器I類→赤色土器II類→黒色土器I類→黒色土器II類→14世紀以降中国陶磁器に分類できることを明らかにした。また埋葬人骨には黒色土器II類と中国陶磁器を副葬品とする2時期にわたることが明らかとなった。

4.河岸段丘上貝塚下層のシルト層中には赤色土器II類の文化層が確認された。同文化層中からは10km離れた丘陵地帯洞穴遺跡から出土する剥片石器が少量出土した。同時に洞穴遺跡からは剥片石器群の中から少量の赤色土器II類が出土した。このことから低地農耕民と山地狩猟採集民との交流をあとづけることが考古学的に可能となった。

5.貝採集民の民族考古学的調査を継続し、先史時代における貝採集・漁撈の生業戦略のモデル化、貝採集量の推定と産業的・商業的貝採集活動と食料としての貝の交易の存在を予測することが可能となった。

本研究の着想に至った経緯:本研究はすでに上記の研究を立案した当初から着想していた。しかしこの研究課題遂行のためには、考古学とその関連分野による調査と資料の蓄積が必要である。上に述べたように過去10年間にわたるフィリピン、カガヤン河下流域の調査・研究により、3,000年前から現在に至る時・空間軸を考古遺物による相対的編年体系を介して理解することが可能となった。また考古学関連分野の専門家を結集した調査体制も整い、各分野の分析結果を総合的に体系化することが可能となった。このように現在、学際的・総合的研究体制と考古学的編年体系、古環境復元と生業戦略モデルなどの基礎資料が整い、ようやく山地と低地それぞれを生業のベースとしていた狩猟採集民と農耕民との間の相互依存関係を、各時代ごとに解明できる段階に至った。本研究では今後さらに多くの遺跡調査によって各時代の遺跡資料を蓄積し、調査地域内狩猟採集民の民族考古学調査によって、狩猟採集民と農耕民の相互依存関係モデルの構築と考古資料による検証作業を継続していくものである。


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