『人民の使者』1959年

監督 D.ジグジド
脚本 Ch.オイドブ
撮影 O.オルトナサン
美術 L.マハバル
音楽 L.ムルドルジ

配役
スフバートル Z.ガルサンダンザン
アリョーナー P.ツェベルスレン
ダリバザル J.ザナバザル
トルガ  Ts.ドルジスレン
ドゥルゼン B.ゴトブ
 

[あらすじ]
 娘アリョーナーと若者ダリバザルの2人は結ばれるが、金持ちのドゥルゼンはアリョーナーに横恋慕。領主の妻に頼んでダリバザルを兵役に行かせてしまう。夫の留守にドゥルゼンはしつこくアリョーナーに言い寄るが、気丈な彼女は歯牙にもかけない。
 一方、国境警備の軍隊にいたダリバザルは、新兵の時知り合ったスフバータルから手紙を受け取り、ロシアに革命が起こったことを知る。
 ロシア革命に乗じた中華民国はモンゴルの独立を解消、モンゴル軍を武装解除する。しかしそのモンゴルの支配者の座も、すぐに赤軍に敗れモンゴルに侵入したロシア白軍に取って代わられる。
 武装解除されて故郷に戻ってきたダリバザル。若者が目の前で白軍に殺されるが、領主は保身ばかりを考え民衆の味方とならない。
 やっとアリョーナーに再会できたその瞬間、白軍兵士たちが徴発にやってきて銃撃戦になる。彼らを撃ち殺したダリバザルは、また家族と逃げなければならない。
 そのころ、封建領主たちは白軍と結託し、新生モンゴル革命政府の転覆を図ろうとしていた。その動きを伝えるため、民衆の名で手紙がスフバータルに届けられることになる。しかしその場にいたドゥルゼンによって領主や白軍の知るところとなり、手紙を持った使者は白軍の追跡をうける。
 手紙はダリバザルへ、ダリバザルから妻のアリョーナーへと託され、ついにフレー(現ウランバートル)のスフバータルに手渡される。

[解説]
 「ツォグト・タイジ」で撮影を担当したジグジドの監督作品。ゆるみない構成、抜群のカメラ・ワークで評価が高い。特に、馬での追跡シーンは圧巻だ。
 脚本はCh.オイドブの『大将軍スフバータル殿』だが、制作の過程でさまざまな手が加えられた。題名も元の脚本のものから『使者』へ、さらに『人民の使者』へと変えられている。ジグジドの加えた一番大きな変更点は、脚本ではダリバザルとアリョーナー2人が手紙をスフバータルに渡すことになっていたのを、アリョーナーだけが手渡すようにしたこと。そしてダリバザルが白軍に殺されるシーンを挿入した点だ。そこにモンゴルの美しい大地の映像とムルドルジ(モンゴル国歌の作曲者のひとり)の音楽が流れる。革命への犠牲というカタルシスを、高々と謳いあげる最も印象的なシーンだ。
 スフバータルは若くして死んだモンゴル革命の英雄。現在でも紙幣に肖像が使われている。この映画は、民衆の革命への参加を疑似体験させるとともに、スフバータルのイメージを作り上げる意図があったのだろう。配役表でも、最後の1シーンにしか登場しないスフバータルの名が最初に来ている。
 土壇場でアリョーナーをドゥルゼンから救うロシア人は白軍に潜入した赤軍のスパイらしい。ロシア人のイメージを白軍だけで印象づけないようにし、ソ連との友好を強調する配慮といえる。アリョーナー母子を助ける宿屋の漢人たちもこの当時のモンゴルと中共政府との関係を反映している。

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