『人民の使者』 若い領主 領主様、あなたの力士はさすがに光り輝いて見えますな。 老領主 そうとも、ここでは負け知らずの力士だよ。 老領主妻 ご覧になって。土俵入りが素敵でしょう。 若い領主の妻 そうですね。素敵ですわ。 アリブジフ 領主の力士は盛りの過ぎた力士だよ。 バダルチ そうだとも。いつもインチキで勝っているずるい奴さ。 ドゥルゼン 領主様の力士はすごい力士だよ。俺の親しい知り合いさ。 アリョナー あなた、誰とでも知り合いなのね。 ド なんだと。 老領主 そこだ。やった。、、、そうだ。 それ、それ。介添え人、何見ているんだ。 勝負はまだだ。 取り直せと審判たちに言え。 家来 領主様が取り直せと。 審判1 取り直しだ。取り直し。 審判2 取り直せ。 貧しいラマ へつらいもこれに極まりじゃ。 民 一度投げたんだ、また投げられるさ。 貧しいラマ くじけず取るんだ。 民 勝負を決めろ。勝負を決めろ。 老領主 まだじゃ。そこ、そこじゃ。 ち、運の尽きた奴。 アリョナー 領主様、どうしてあんなにお怒りなのかしら。 ド 今みたいな勝負だからさ。もう行こう。 うちの兄のラマのところに行って涼もう。 ア いいえ、暑くなんかないわ。 ド ほう、暑くないだと。遠慮するんだな。 ダリバザル こんにちわ。 ド ああ。 ダ さあ行こうか。 ア 行きましょう。行きましょう。 ダ じゃ行こう。 ダ あの人はどういう人だ? ア ほら、例の。 ダ 何だったけ? ア ドゥルゼンというのはあの人よ。 ダ ああ、そうか。 ド 駅馬をやっているダリバザルとは あいつだな。 仕事も良く出来、気立ても良い、 土地でひどく評判の男だと。 見てろ。お前なんて。 后 ふん、こんなの要らないわ。 でも、これはいいわ。 ド そうですとも。 后 素晴らしい真珠だわね。 お前これをどこから手に入れて? ド お后様のお気に入るだろうと思いまして お持ちいたしました。 お后様、お頼みいたしましたこと、どうなされました? 后 そうだわ、私領主様に言うの忘れてたわ。 今晩きっと言っておくから。 名前は何と言ったかしら。 ド ダリバザルです。 后 そうそう、ダリバザルね。 大丈夫。心配しないでいいわ。 ド そうですか、そうですか。 それは有り難いことで。 役人 お前遅れるぞ、ダリバザル。 早くしろ。早く。 ダ さあ、出発しろと言っている。もう行くよ。 ドゥルゼンの奴に、2人ともしてやられた。 苦しいことがあっても我慢するんだぞ。 アリョナー、元気でな。 俺も元気で早く戻ってくるから。 ア 元気で行って来てね。 ダ じゃあ、元気でいるんだよ。 ジャムスラン なんて悲しい歌なんだ。 この歌どんな人が作ったんだろう。 チョローン 軍隊にいる人が作ったということだよ。 俺たちだっていつ帰れるか分かったものじゃない。 うちのものたちは元気でやっているんだろうな。 ジュルメド ダリバザル、うちから手紙は来たかい? ダ いいや。 知り合いがフレーのホジルボランの軍隊にいるんだ。 その人から手紙が来たよ。 ジュルメド さあ、それでフレーの様子は? ダ いろいろなことが起こっているようだ。 大臣や領主たちの仲がますます悪くなり、 かわりに中国の役人たちの権力が強くなっているらしい。 ロブサンダブガ いったい、あいつら何が欲しくて 犬のようにけんかしているんだ? ダ ロシアのツァーリの帝政が滅亡して、 圧迫を受けていた人民が政権を握ったということだ。 このようなことから争いが生じるだろうと書いてある。 ジュ ホジルボランにいる誰がよこしたんだ? ダ スフバータルだ。 ロ どのスフバータルだ?うどん英雄か? ダ そのとおり。勇気のある男さ。 俺たち何年もいっしょにいて 気心の分かり合う 親しい友人になった。 ロ 勇敢なだけでなく、賢く、 親切な、まったく男の中の男さ。 俺もよく知っている。 ダ 俺はスフバータルとこんな風に知り合ったんだ。 俺がまだ新兵だったころ、 食糧倉庫の歩哨に出て眠りこけてしまった。 夜が明けるころだったろうか、 ふと気がつくとスフバータルがいて起こされた。 「『眠りよりも馬、骨髄よりもナイフ』というじゃないか。 元気がない、しっかりしろ。もう眠るんじゃないぞ。」と言って むこうに行ったんだ。 恐れ入るやら恥ずかしいやら。 ドゥルゼン アリョナー、中に入れ。子供が 泣いているようだ。 アリョナー 泣かないで。 なんてひどい風なんでしょう。 ほら。 ド いや、恐ろしく吹いている。 ア まったく。 どこか行って来たの? ド 遠くへは行ってないさ。 元気にやってるか。 強情者はすごいもんだ。 こんな風に運命を背負って。 お前に言っただろう。 ダリバザルは帰れるあてのない兵役に行ったんだ。 お前さんひとり、こんな小さい子供を抱えて いつまでこんな風にしているんだ。 決心してうちに来い。 息子は自分の子のように大事にするから。 ア 私もあなたに言ったでしょ。 何があっても夫を待つわ。 あなたうちにはもう来ないで。 人が何て言うかしら。 ドゥ せっかくの好意が無駄になったようだな。 いいさ、「越えられそうもない峠を 3度越える」という言葉もあるからな。 下士官 こんなの、武器とも言えない代物だ。 将校 モンゴル人は鞭を握って馬に乗っても 戦闘能力はある。早く没収しろ。 貴族1 外国軍隊にこうして武装解除されるのは 気分の悪いことだ。 貴族2 「降った雨は止み、やって来た客は帰る」 という言葉があるでしょう。 中国軍将校 撃て! 中国軍兵士 ここの領主はわれわれをどう迎えるでしょうかね? 将校1 ここの領主がどう迎えるか、 それによってわれわれの態度も変わるさ。 若い領主 道中お疲れにならず元気でお越しになられましたか? あなた方のご到着を前もって知らず、 お迎えにも上がれずに失礼いたしました。 将校1 お気遣いなく。お気遣いなく。 われわれの方こそ、突然伺いました ご迷惑をお許し下さい。 アリブジフ 昔から「領主は背き、犬はしっぽを振る」というが、 領主もこびへつらうものだ。 バダルチ そうとも。こいつら自分たちさえよければ、 ほかのみんなはどうなってもいいんだ。 若い領主 中にどうぞお入りを。 ゆっくりお話しましょう。 ドゥ アリョナー、こんな所にいては いかん。 こんな物騒な所にいたら、 何がお前にふりかかるか分からない。 決心してうちに来るんだ。 学のあるラマたちは俺たち2人の運命を ちゃんとご存知だ。 相性もぴったりだとおっしゃってる。 ア ダリバザルと私の相性だってそう言ったわ。 あなた、まったくしつこくつきまとう 疥癬のような人ね。 もう2度と顔を見せないで。 ドゥ 何年も前からお前を追いかけてきたんだ。 そうか、口で言って聞かないなら、 領主様に申し上げて 力ずくでお前を手に入れてやるさ。 中国軍将校 もしもし。もしもし。 もしもし。 もしもし。退却します。 もしもし。もしもし。 バロン(白軍)の軍隊に攻撃されています。 われわれは退却します。 もしもし。もしもし。 将校1 閣下、この部屋はお気に召したでしょうか? 将軍 気に入った。誉めてやろう。 将校2 閣下! ここには2人だけ ロシア人がおります。 ここでどんな悪さをしていたか お分かりでしょう。 将軍 ああ、ははー、赤軍の 感染はここまで、 この遠いモンゴルまで来ていたか。 この本を焼いてしまえ。 2人は即刻吊るせ。 見てろ。この流行り病を すぐに根元から断ってやるからな。 本日よりこの旗から馬と兵を挑発する 作戦を実行せよ。よいか? 将校2 了解いたしました、閣下! ご命令どおり実行します。 「4つの山の間から  清き流れが流れ出る  こころ静かにあの人に  従い生きるこの運命  岩の合間にはさまれた  カワウソの子のいたわしさ」 土地の人 あんたも知ってるだろうが、 この辺りは物騒なところだよ。 ダリバザル うちものは元気でいるだろうな。 土地 あんたとこは元気さ。 禿山の南にいるよ。 ダ まったく、苦労の末にやっと 故郷を見ることが出来たよ。 「トーラ川の清き水を  ともに飲んで親しみ  幾多の喜び悲しみを  語って妻となれり」 将軍 領主殿、こんなおもてなししか できませんが。 しかし、勝利が近づいておりますから、 すぐにちゃんとしたおもてなしが。 老領主 構いませんとも、将軍。 私ももうすぐ拙宅に招待して 祝いの食事を差し上げられると 思っております。 将軍 どうもありがとうございます。領主殿。 あなたのご健康と 将来のご成功のために乾杯しましょう。 老領主 こりゃ強い。 将軍 ああ、連れてきたか。 許してくれ。君のことは領主様から 今し方お聞きしたところだ。 うちの兵隊が君を知らずに捕まえてきたんだ。 長く軍隊にいたんだから分かるだろう。 老領主 お前、モンゴル国のため働きたいか? ダ はい、モンゴル国のために働く決心です。 将軍 ああ、それはいい。 わが軍はモンゴル自主政府を復活するために来たのだ。 この任務はもう始められておる。 将来この国にいる別の敵たちを 掃討するのに、 勇敢な軍人である君のような人間が必要なのだ。 今われわれには人民党のスフバータルの一味を 撲滅する任務がある。 スフバータルの一味こそは、先の中国軍より 危険な敵である。 この任務に君は協力するだろう?あー。 老領主 わしはお前をわが旗のモンゴル軍の 指揮者にして、この任務にあたらせるつもりじゃ。 しかしお前自身の考えも聞こう。 ダ はい、領主様。 考える時間を下さい。 家にもどって妻や子供と会ってから、 すぐにご返事申し上げたいのですが。 領主 構わぬ。 バダルチ あれはダリバザルだな。 アルブジフ ああ、あいつ軍隊から帰ってきたんだ。 バ そうだな。 階級が上がって、白軍の側に ついてしまったんじゃないだろうな。 ア かもしれん。何しろこの時勢 何も信じられない 世の中だからな。 バ 2人で会って見よう。 何を話すか聞いてみるんだ。 兵1 止まれ。止まれ。 兵2 止まれ。止まれと言ってるんだ。 兵1 勝手なやつめ。 ダ バター、お前どうした。 お前何が起こったんだ? どうしてこんなことに? アリブジフ バター、どうしてこんなことになったんだ。 バター 俺、白軍に入りたくないと言ったら。 ダ バター。 バター。 ア バターよ。 ダ バター。 バダルチ 死んだよ。 ア そうだな。 バ これからこいつをどうする? ダ この男をか? この男を領主様のところに運んで 申し上げよう。 みんな、何の罪もないモンゴル人の血を 流している外国の敵を 絶対に許してはならないぞ。 ア 白軍が来てからというもの、 たくさん人が殺され、 人の命は犬の命と変わりないくらいだ。 領主様はどうお思いなんだろう。 お聞きしよう。 ダ ご領主様、これはいったいどうしたことです? 罪のない民がこのような目に会っています。 中国軍は人を殺し略奪し 今度は白軍が人をたくさん殺してます。 こうしてわれらは番のいない羊のように 狼に食われてしまうのですか? 領主 この度のことは遺憾に思っておる。 調査を命じよう。 平静を保つことが肝要である。 ア やっぱりだ。こんな答えしか出来ないさ。 バ どうしよう。 役所には領主の他にも誰かいるだろう。 ダ 誰に言っても無駄さ。 こいつらみんな一緒さ。 遅かれ早かれいつか モンゴル人がモンゴル人の国の主人になる そんな時が来るさ。 女 おやまあ。ダリバザルが帰ってきたよ。 元気でお帰りかい? ダ 元気でした。あなたもお元気で? ア あなたがたお元気で。 女 元気だとも。元気だとも。 アリョ あなた、こんな風に帰ってくるなんて。 これを見て。寝台も食器もなくなってしまったのよ。 ダ どうってことないさ。 泣くんじゃない。泣くんじゃない。 気を静めるんだ、アリョナー。 泣くんじゃない。 戦争とはこんなものだ。 どこだって同じさ。 生きて会えたんだから、 後は何とかなるさ。 アリブジフ ダリバザル! アリョナー さあ、お父さんにキスしてもらいなさい。 ダ ああ、 坊主、こんなに大きくなって。 アリョナー お父さんなのよ。 女 おーい、みんな。おしまいだよ。 あいつらがまた物を奪いにやって来たよ。 ああ、何てこった。 こんな辛い時代がよくもあったもんだ。 ダ ああ、そうだな。 みんな、隠れるんだ。 アリブジフ どうするつもりだ。 ダ こんな風に手をこまねいていて 殺されてしまえだと? アリブジフ どれ、あんたら2人はこっちに来い。 伏せろ、伏せるんだ。 アリョナー ダリバザル!どうしたの? ダ 伏せるんだ。 アリブジフ どうした? 大丈夫か? ダ 大丈夫、大したことない。 アリブジフ どれ? 今日はやっつけることが出来たが、、、、 ダ あいつら強盗たちときっちり決着をつけてやる。 アリブジフ ダリバザル! 今日のように敵の数が少ないということは 滅多にないぞ。 こんな風に闘っていてはだめだ。 お前は血の気が多すぎる。 その銃の弾数をよく考えろ。 ダ みんな同じことを言う。 スフバータルもそんなことを言っていた。 アリブジフ おや、うどん英雄を知っているのか? ダ もちろんだとも。 アリブジフ こっちに来る時会ったか? ダ いいや、もう長いこと会っていない。 どこにいるか、はっきり分からなかったんだ。 フレーはスフバータルの噂で持ちきりさ。 アリブジフ そうか、ダリバザル、お前とは2人で 話したいことが山ほどあるぞ。 今はこんなことになってしまったから、 ここにいてはいけない。すぐにここを離れろ。 ダ 分かった。 アリブジフ だが、どこに行くか、よく考えるんだ。 これからはいつも連絡を取り合っていよう。 ダ そうしよう。 ダ だいじょうぶ。 命さえあれば、 2人の住めるところは見つかるさ。 アリョナー そうだわね。 あなたをモンゴル軍の指揮官にしようなんて どういうことなの? ダ あいつら、他人の手で ヘビをつかまえようと思っているのだろうさ。 スフバータルと戦うだと。 彼に剣を振り上げ、 銃を向けるなんて俺がするもんか。 スフバータルは賢い人間だ。 きっと正しい選択をしているに違いない。 スフバータルはうちのことやお前たちのことを いつもたずねてくれていた。 今こんな風にしているのを見たら いったい何て言うかな? アリョナー あなた、スフバータルのことばかり話すのね。 きっといい人なんだわ。 これで平和になったら なんて素晴らしいんでしょうね。 ダリバザル。 ダ そのとおりさ。 俺たち結婚してからずっと 静かに暮らすことは出来なかったな。 老領主 この中の何人かは中国軍、中国軍と言って 言い争いをして、結局どうなった? 物事を簡単に決めつけてはいけない。 まず第一に われらラマ、領主はみんな 人民政府を少しも信用しておらず、 われらの政府ではないと 不満に思っておる。 このような思いに 人民党が配慮しないならば、 剣を取り武力で戦う用意がある。 人民党は勢力を増しているだけでなく、 こちらにやってくるという情報もある。 われわれも兵や馬をさらに徴発し 白軍の兵力を強めよう。 いつか危険が迫った、その時には 人民党スフバータルの一味を 撲滅できるよう準備をする必要がある。 このことについては、 ロシアの将軍閣下と 話し合い合意したところだ。 これは最も正しい選択だ。 そもそもわが辺境には 人民党に従うものが少なからず 潜んでおる。 「バターの中の蛆は危険だ」 という言葉もある。 このような大事な時に われらは団結を心がける必要がある。 このようなことで争って 時を失してしまった例がいく度もある。 このことをよく考えなければならない。 大きな点でわれらの考えはひとつだから あとは道が開けるだろう。 それぞれがよく考えることが大切だ。 ラマ1 領主様、あなたのお言葉、われらよく理解しました。 六道の衆生のため、 僧たるわれら、領主様のお考えに従いましょう。 若い領主 領主様のお考えはもっともです。 このことに私も力の限りお手伝いいたしましょう。 老領主 領主様方、仏陀のお弟子様方! そのように決議いたしますぞ。 ラマたち ははー。 アリブジフ われらを水火の苦難から救い、 真の自由を与えるため 人民党が創設され、 自分たちの目標と政策を 大衆に向かい、このように 宣言している。 これをわが地方の人民も 喜んで受け入れ 意気盛んなのに対し、 領主のある者たちは 自分たちの特権と個人的な幸福を思い 白軍の権力者と相通じ、 人民政府を武力で倒す陰謀を 起こそうと準備をしている。 このような危機的状況を わが人民政府の大将軍スフバータルに 知らせる、この書状を送ろう。 どうだろう?みんな。 それでは誰がこの書状を届ける? バダルチ じゃあ、俺が届けよう。 ア それじゃ、お前が行け。 お前をみんな信頼しているぞ。 この仕事にはどうしても 用心深い落ち着いた人間が必要だからな。 そうだろう? それじゃあ、バダルチ! バダルチ、これを持ってけ。 必要になる時が来るかも知れん。 途中ダリバザルが待っている。 このことはよく承知している。 彼のところで馬を替えるんだ。 どこにいるか知ってるな。 バ 知ってるとも。 ア みんなの希望が託されているんだ。 この書状を決してなくしてはいけないぞ。 不穏な時だから、 いろいろな危険が待っているだろう。 気をつけていくんだぞ。 じゃあ、元気で行って早く帰って来い。 バ ああ。 老領主 そんな書状がもう送られてしまったということか? ドゥ その通りでございます。 その書状をあなた様の臣下のバタルチが持って出発するのを この目で見て来たのでございます。 老領主 ち、そうだったか。 飼い犬に手をかまれるとはこのことだわい。 お前に私が届けますという 知恵はなかったのか? お前、すぐに行ってロシアの閣下に申し上げろ。 その書状を人民党の手に渡してはならん。 もしもスフバータルの手に渡ったりでもしたら お前の首が飛ぶと思え。 ドゥ ははー。 ダ 塩はまだ入れてないだろう? 男 入れてない。 ダ おや、撃ち合いらしいぞ。 男 そうだな。 馬に乗った人間が来たぞ。 ダ なんて慌てているんだ? おや様子がおかしいぞ。 男 バダルチさんだよ。 バ ダリバザル、急げ。 懐に手紙がある。 それを持って早く行け。 ダ 「大将軍スフバータル殿」 国家を建てる事業に われわれみんなが身を粉にして働かねばならない。 バダルチさん、どうした? 馬に乗った人たちがやって来た。 バ 俺を追ってきたやつらだ。 ダ あなたのことはどうしましょう。 バ 俺のことは心配するな。 これは大事な手紙だ。 早く届けろ。 行け、行け。すぐに出発するんだ。 ダ 分かりました。 トルガ 母さん。 ア はい。 ト 父さんが帰ってきた。 父さん。 ダ アリョナー。 ア え。 ダ さあ、早く出て来い。 ア どうしたの。 何が起こったの? ダ さあ、お前がこの書状を持って行くしか術がなくなった。 敵は俺の手に渡ったのを知って、 すぐにやって来る。 俺は彼らのおとりになろう。 これを彼らに絶対渡してはならない。 お前スフバータルのことは知ってるな。 ア ええ。 ダ それじゃ、お前この書状を 大将軍スフバータルに必ず届けるんだ。 アリョナー、これは人民のために 俺たちのどちらかが命を失うかもしれない 危険な任務だ。 分かるか? ア ああ神様。ダリバザルあんた何言っているの。 ダ 国家を建てる事業に われわれみんなが身を粉にして働かねばならない。 こうしている間にも俺たちに危険が迫っている。 馬はあるだろう。 ア ええ。 ダ さあ早く出発するんだ。 ああ、来た。万事休すだ。 来たぞ。さあ、これを。 ア 分かったわ。 ダリバザル、すぐに行って。 私息子を連れて行くの?どうする? ダ もちろん連れて行くさ。 ア 元気でいてね。 ダ ああ。 ドゥ ああ、この犬め。 お前、手紙を受け取ったな。 何と。 降参しないだと。 下士官 調べろ。 ドゥ ダリバザルというのはこいつだ。 こいつは今すぐ殺してしまうべきだ。 下士官 スフバータルに送った手紙はどこだ。 ダ 軍人が敵に文書を渡してしまうことがあるものか。 あれは始末した。 下士官 ははあ、そうか? 将軍 もしもし、もしもし。あー。 もしもし、もしもし。 どうしたんだ? もしもし。 7.8歳くらいの男の子を連れた 25歳くらいの女に例の手紙が 渡ったという情報が入った。 下士官 何、7・8百人の軍隊に取り巻かれた? あんたたちを? 将軍 違う、違う。 7.8歳くらいの男の子を連れた 下士官 全然聞こえない。 どんな女性だって? リーナ?ロシア人の女だな。 モンゴル人だって? 手紙をどんな女が? きれいな女? きれいな女をみんな 捕まえろということか? そりゃまた結構な命令だ。 何。何だって? はいはい、ご命令どおりにいたします。 兵士 どこからです? 下士官 知ったことか。司令部かららしい。 誰が話しているのか聞き取れないんだ。 行こう。 下士官 命令どおりにしなければ。 女1 なんて嫌な目付きなんでしょう。 女2 黙ってなさい、黙って。 何も見ないふりするの。 下士官 こいつら怪しそうな娘だ。 調べろ。 兵 ご命令どおり。 下士官 知ったことか。 何が秘密の文書なんだ。 この2人を連れて行け。 兵2 了解しました。 ト 母さん、まだ遠いの? ア まだよ。 ト 母さん、おなか空いたよ。 父さん、僕たちがこんなに困っているのに なんで来てくれないの? ア 父さんかい? 父さんは来ないでしょう。 ほら、聞き分けよくしないといけないわよ。 ト 父さんも敵に追われているんだろうか? ア そうかもしれないわ。 将軍 女、受け取った手紙はどうした?えー。 お前に聞いているんだ。 女1 何の手紙、どういう手紙なの。 私知らないわ。 閣下、お許しを。 お許しを。閣下。 将軍 そうか、そうか。 連れて行け。 兵1 さあ、ここに来て、立つんだ。 将軍 若い女、お前はここに何んで 来たと思っている? 女2 私が来たんじゃないわ。 あなたたちが連れてきたのよ。 何んで連れてきたかは あなたたちがよく分かっているでしょう。 将軍 はあ、これはまた、鼻っ柱の強い 娘だ。 すぐに連れて行って よく取り調べるんだ。 女2 罪のない人間を何だって。 トゥモノフ 行くんだ。 女2 やめて、やめてよ。 将軍 全員連れて行け。 女 ああ、神様、どうするの? 兵 行け。さあ。 将軍 誰が手紙を持っていると思っているんだ? お前に聞いておるんだ。 下士官 誰が手紙を持っているか知りません。閣下。 疑いのある女をみんな捕まえろと おっしゃったので。 将軍 このボケナスが。 手紙を持った女だけが必要なんだ。 行け。 トゥモノフ 閣下!違うようです。 あの女からは何も出てきません。 将軍 あの手紙をすぐに見つけてこなかったら、 お前を軍法会議にかけて 厳しい刑罰に処すぞ。 分かったか。 トゥ 分かりました。 将軍 命令だ。 お前も行け。 ア さあ困ったわ。 この人たちどんな人たちか 分かったもんじゃないわ。 お前、何か聞かれても 何もしゃべるんじゃないよ。 行きましょう。 ア 立ちなさいよ。立つのよ。 あの白軍の兵隊、私を捕まえようとしているの。 助けてちょうだい。 あんたを叩くから、 おばさん!私眠っちゃった、って 泣くふりをして。 娘 何? ア 私を助けて、お願いだから。 娘 痛い。やめて、おばさん。 痛い。やめて。 ア 羊の番していて、こんな様でいいの。 えー。 狼が来たらどうするの。 なんてだらしないの。 お前はくずよ。 ほら、羊を追い戻してきなさい。 早く行きなさいよ。 お前も行って羊を追い戻してあげなさい。 トゥ こんにちわ。 ア こんにちわ、皆さん。 トゥ うちはどこですか? ア すぐ近くですよ。 トゥ お宅のご主人の名前は? ア ガルサン・メーレンと言います。 皆さん、何かお探しですか? トゥ ガルサン・メーレンか。 ご主人は家におられますか? ア おりますとも。 兵 この女違うようですね。 トゥ 違う。行こう。 将軍 ああ、この愚か者めが。 その女だ。 ガルサン・メーレンの后は 全く別人だ。 ほとんど老婆と言っていいくらいなんだぞ。 ドゥ その通りです。 将軍 こいつの武器を取り上げて 牢屋にぶち込め。 連れて行け。 誰かあの女を捕まえて来たものには たっぷり褒美をやろう。 チェルノフ よろしいでしょうか? 閣下、私がその女を捕らえてまいりましょう。 ドゥ 閣下、私はあの女をよく知っております。 私も一緒に行きましょう。 将軍 なるほど、よく知っておるな。 お前たち2人で行け。 しかし必ずその女を連れてくるんだぞ。 命令だ。 ドゥ ははー。 老漢人 おや、こりゃどういう人間だ。 ア ごきげんよう。 老漢人 ごきげんよう。 こんな雨降りの中 小さな子供を連れて どこへ行くんだい。 ア フレーに活仏様に お参りに行くところです。 息子がおなかを空かして疲れております。 老漢人 おお、何もこの雨の中を歩くこともないだろうに。 若い漢人 白軍の兵隊がさっき 子供を連れた女を探していたのは この女に間違いないでしょう。 老漢人 たぶんな。この人たちに食事をあげよう。 若い漢人 お座りなさい。こっちに来て。 ここにお座りなさい。 老漢人 座って。座って。 若い漢人 お茶を飲みなさい。 ア 熱いお茶をお飲み。 老漢人 遠くから来たなら、 おなかも空いているだろう。 これを食べなさい。 ア さあ、食べなさい。 老漢人 おなかが空いているんだろう。お前さん。 食べなさい。たくさんお食べなさい。 ドゥ おい、この戸を開けるんだ。 (こいつら、くたばっているのか?) おい、この戸を開けろ。 ア どうしましょう。 どうか助けて下さい。 あれは私を追っている人たちなんです。 老漢人 お前さん、どうした。 ここに隠れてなさい。動くんじゃないよ。 ドゥ おい、この戸を開けるんだ。 老漢人 ほら、これを持って! 若い漢人 どなたです? ドゥ 誰でもいいだろう。 この戸を早く開けろ。 若い漢人 はい、はい。 ドゥ お前たち何をしてた、 どうして戸を開けないんだ。 これは何だ? 老漢人 野菜です。 それは食べ残しです。 ドゥ ここに子供を連れた女は来なかったか? 老漢人 女ですって! 逃げられでもしたのですか? ドゥ ああ、ああ、知らないなら これ以上何も聞くまい。 若い漢人 奥へ、奥へ。 老漢人 急げ、急ぐんだ。 ドゥ これは何だ? 老漢人 豆腐です。 ドゥ 豆腐?豆腐とはどんな物だ? 老漢人 豆腐を知らないんですか? うまい料理が出来ますよ。 ドゥ ここはなかなか居心地のいい所だな。 少し休んで食事を食べて行くとするか。 じゃあ、じいさん、料理を作ってくれ。 老漢人 スープを作りましょうか。 ドゥ スープだと。煮た肉はないのか。 老漢人 煮た肉はございません。 ドゥ ないなら、あるようにさせるさ。 ア 出ましょうか? 若い漢人 静かに、静かに。 あんたここに長居は無用だ。 宿屋は人の出入りの多いところだからな。 急いで行きなさい。こっちだ。こっち。 若い漢人 し、しー。 ほら、これを途中で食べなさい。 私たちも同じように悩まされているんだ。 元気でな。 ア 感謝します。おじさん。 ト 母さん、なんてたくさん鉄砲を持った人たちがいるんだ。 ア そうよ。こういう人たちが私たちに悪さをするんだよ。 行きましょう。 ドゥ ああ、お前こんなところにいたのか。 手こずらせやがって、このあま。 手紙はどうした。 渡すんだ。 チェルノフ 大丈夫、大丈夫。 お立ちなさい。 ほら、これを持って スフバータルにお渡しなさい。 ほら。 大丈夫。恐がらなくてもいい。 恐がる必要はない。 どれ。 どれ、二人ともこっちに来なさい。 さあ、これを。よいっしょと。 ア あの中にも あなたのような人がいたのね。 あなた、とてもいい人だわ。 この恩はいつまでも忘れないわ。 きっといつも思いだすわ。 お元気で。 チェ ありがとう。 スフバータル 今日の会議は辺境地域の平定について話し合う。 これは一番大事な問題だ。 これについてはいくつも新しい情報が入ってきている。 ああ、そうだ。 それから、フレーに学校を作ること。 今日決定が出せれば有り難い。 ああ、あなたたちやっと来ましたか。 道中元気で。 ア はい、ご機嫌いかがです? ス ひざまづかないで。 お立ちなさい。 あなたたち2人に会えるのをいつかいつかと待っていたのです。 ア とても大切な手紙だということです。 夫があなたに必ず手渡すようにと。 「大将軍スフバータル殿」 ス 分かりました。 寝返った盗人たちがこんな風なのに わが人民は革命政府をこんなにも歓迎してくれています。 これは素晴らしいことです。 あなたがたが持ってきたこの文書は 人民政府にとって貴重な証言です。 さあ、息子さんは元気ですね。 ア 元気です。 ス 名前は何といいます? ア トルガです。 ス 素晴らしい男の子だ。まったく素晴らしい男の子だ。 あなた方2人は人民政府がちゃんと面倒見ましょう。 トルガ、君の未来は素晴らしい未来だ。 その未来を作るために、われわれは こうして闘っているんだ。 これから、人民政府は君たちの故郷を平定することになる。 君たちは新しい国家に偉大な貢献をした。 あなたがたの家やダリバザルに何があったか知っている。 彼とは親しい知り合いだった。 ダリバザルのような人間を 私たちはいつまでも忘れない。 人民政府を作る事業に わが誠実な市民すべてが力を出し合い、 自分たち自身のこの素晴らしい国家を建設した。 また一方で、あなたの命を救った あの人のように、ロシアの幾百万の人民が また偉大なる教師レーニンがわれわれに こうして協力してくれている。 ロシアとモンゴル両国の、人民のこの友好は モンゴル国の未来の発展の基礎そのものである。 完