要訣・朝鮮語
終声の初声化、사이시옷、リエーゾン


 この3つは入門期に習う発音変化のうち、もっとも混同しやすいものである。これらを混乱していると、後々までどれがどれなのか分らないという不幸な事態が続くことになる。

 1.終声の初声化 

   밭에
[받]    [바테]
 「終声の初声化」は、学者によっては「連音(化)」とも呼ばれるもので、原則として1単語[注]の内部で起こる現象である。

[注] ここでいう「単語」とは、分かち書きの単位となっているもの、すなわち「語幹(単語の本体)+語尾(付属部分)」という形から成るものを指す。日本語でいえば「やまが」や「はしれば」のようなものが単語である。日本の学校文法では「やまが」の「が」や「はしれば」の「ば」は助詞という名の単語と見るので、「やまが」は「やま+が」、「はしれば」は「はしれ+ば」のように2単語と見なすが、ここでは「助詞」という単語は認めずそれらを語尾と見なすので、「やまが」・「はしれば」全体で1単語と考える。

 さて、では例を見てもらいたい。左の単語は「밭 パッ」(畑)であるが、これに語尾「-에 エ」(…に)がついた形「밭에」は[바테 パテ]と発音される。終声が終声としてでなく、次の音節の頭の音(初声)として発音されるわけだ。だから、そのものずばり「終声の初声化」という単純な名称がついている。これは文字の上で見ると、より分りやすい。子音字母「ㅇ」は子音がないことを表す字である。つまり、その部分は空白なわけだ。「空いている」というのはどうも座りが悪いということで、その前にある終声がピョンとその空いている初声の場所に飛び移ると考えればよい。
 なお、この終声の初声化を「リエーゾン」と呼ぶ人がいるが、それは不正確な呼び方なので、ここではそう呼ばない(その理由を知りたければここをクリック)。

 2.사이시옷(北では사이시읏) 

 사이시옷(サイシオッ)は一般的に、2つの名詞が合わさって1つの単語(合成語)になるとき(ふつうは「~の~」という意味の合成語になる)、2つの名詞の間に終声音[ㄷ]が挿入される現われる現象である。「2つの単語間」というところがミソだ。사이시옷は「間のs」という意味だが、2単語間に挿入される終声音[ㄷ]を終声字母「ㅅ(시옷)」で表記するため、この名がある。
 ただし사이시옷は2単語が合わさって合成語を作る全ての場合に起きる現象ではなく、一定の条件の下でのみ現れる現象である。その条件とは以下のとおりである。

  1. 1つ目の単語が母音で終わること
  2. 2つ目の単語の頭の音が激音・濃音でないこと
이사  +  → 이삿짐
[이사]   [짐]   [이삳찜]
 左の例では、「이사 イサ」(引っ越し)という名詞と「짐 チ」(荷物)という名詞がくっついて「이삿짐 イサッチ」(引っ越し荷物)という合成語になっている。上の条件に照らし合わせてみると、i)1つ目の単語「이사」が母音で終わっている、ii)2つめの単語の頭の音が激音でも濃音でもない、というように、その条件を満たしている。そして「사」の下に書き加えられた終声「ㅅ」が사이이옷である。
 この例の場合もそうであるが、사이시옷の直後に平音が来れば、濃音化の現象が起きるのは言うまでもない。また、사이시옷の直後に鼻音ㄴ,ㅁが来れば、사이시옷は鼻音化して終声音[ㄴ]で発音される。

 사이시옷という現象は、ある意味で日本語の「連濁」に似ているともいえよう。「いなか+くらし→いなからし」という連濁も、2つの単語が合わさり合成語をなすときに現れる現象である。
 この사이시옷、上の条件を満たしていれば必ず起きるという現象ではない。単語によって必ず起きることもあれば、必ずしも起きないこともある。また、話し手によって起きる人と起きない人がいることもあったり、方言によって現れ方が違うこともあるので、辞書に사이시옷の入った形が登録されているかどうか確認する必要がある。

 なお、北では사이시옷を文字として表記しない。従って「이삿짐」は、北では「이사」と「짐」をそのままつなげて「이사짐」と表記する。ただし、사이시옷という発音現象それ自体は北にもあるので、「이사짐」と表記しても発音は南と同じく[이삳찜]である。


 2-2.合成語での濃音化 

냉면  +  → 냉면집
[냉면]   [집]   [냉면찝]
 サイシオッの延長線上に合成語の濃音化がある。左の例は上の「이삿짐」と似ているが、1つめの単語が「이사」でなく「냉면 ネンミョン」(冷麺)になり、出来上がった合成語は「냉면집 ネンミョンチ」(冷麺屋)である。このように1つめの単語の最後に終声がある場合は、「이삿짐」のように사이시옷を文字として書かない(というよりは書きようがない。勝手に字を作るわけにもいかないし)。だが、2つめの単語の頭をみると、(2)のときと同様に平音の濃音化が起きている。このように、1つめの単語の最後に終声があって사이시옷が書かれなくても、あたかも사이시옷があるかのごとく、2つめの単語の頭は濃音化するのである(よりマニアックな説明はここをクリック)。

 3.リエーゾン 

 リエーゾンは、사이시옷と同様に、2つの単語が合わさるときに、2単語間に子音[n]が挿入される現象で、「n挿入」とも呼ばれる。なお、上述のとおり「終声の初声化」を「リエーゾン」と呼ぶ人がいるので注意。
 リエーゾンが起きる条件は以下のとおりである。

  1. 1つ目の単語が終声で終わること
  2. 2つ目の単語の頭の音が母音[i]もしくは半母音[j]であること
 +  → 논일
[논]   [일]   [논닐]
 第2の条件「2つ目の単語の頭の音が母音[i]もしくは半母音[j]であること」というのは、2つ目の単語が文字として「이、야、여、요、유、얘、예」で始まるということである。左の例は「논 ノン」(田んぼ)と「일 イ」(仕事)が合わさり「논일」(田んぼ仕事)という合成語になる礼である。「2単語間に子音[n]が挿入される」というのは、もう少し詳しく言えば「2つ目の単語の頭に[n]が加わる」ということである。従って、「일」が[닐]と発音されることになる。
 なお、사이시옷の場合と同じく、上の条件を満たしていれば必ずリエーゾンが起きるというわけではないので、注意を要する。必要に応じて辞書で確かめなければならない。
 1つ目の単語が口音終声(詰まる音)で終わる場合、[n]が挿入されると鼻音化が同時に起きるので、口音終声は鼻音終声(「ン」に類する音)に変化する。また、1つ目の単語が終声ㄹで終わる場合は、流音化により挿入された[n]がㄹに発音される。この2つも見落としてはならない。

 3-2.사이시옷+リエーゾン 

 사이시옷とリエーゾンが重なって起こることがある。それは以下のような条件の下のときである。
  1. 1つ目の単語が母音で終わること
  2. 2つ目の単語の頭の音が母音[i]もしくは半母音[j]であること
 +  → 댓잎
[대]   [입]   [댄닙]
例は「대 テ」(竹)と「잎 イ」(葉)が合わさって合成語をなす場合である。まず、사이시옷が入る条件である「1つめの単語が母音で終わる」を満たしているので、「대」の後ろに사이시옷が入り「댓」となる。すると、今度はリエーゾンが起こる条件である「1つめの単語が子音で終わり、2つめの単語の頭が[i]か[j]で始まる」を満たすことになり、「잎」の頭に[n]が入る。しかも同時に鼻音化が起こるため、出来上がる合成語「댓잎」は[댇닙→댄닙 テンニ]と発音される。

 おさらい 

 最後にもう一度これらの発音変化を整理してみよう。
  1) 終声の初声化は1単語内部の変化、サイシオットとリエーゾンは単語と単語の間の発音変化
  2) サイシオッとリエーゾンは、一定の条件が満たされた場合に限って起こる。その条件とは:
   サイシオッ…1つめの単語の最後が母音で終わり、2つめの単語が激音・濃音でない場合
   リエーゾン…1つめの単語の最後が子音で終わり、2つめの単語が[i]か[j]で始まる場合


「要訣」の目次へ
朝鮮語講座のメニューへ
ホームページのトップへ