韓国ビリヤード事情

 韓国はビリヤード王国 

ビリヤード場の看板 よく目にする米印の看板

【韓国のビリヤード場の看板】

 韓国の繁華街を歩いていると、どこへ行っても必ず目にする看板がある。左の写真にあるような「※」や「」といった看板だ。これらはビリヤード場の看板なのだが、何を隠そう、韓国はビリヤード王国である。日本の大学生の娯楽と言えばマージャンと相場が決まっているが(最近はそうでもないけれど)、韓国の大学生の娯楽といえば、何といってもビリヤードである。試しに韓国の学生街を歩いてみよう。上の看板をあちこちに見ることができる。それは密集状態にあるともいうべきで、いくつかの看板が視界に入ることさえ珍しくない。
 それほどポピュラーなビリヤードだが、その様相はというと、日本とかなり違う。今の日本でビリヤードといえば、たいがいの店ではポケットが主流であるが、韓国ではポケットはごくごく少数派で、ふつう「ビリヤード」といえばキャロムの一種の「四つ球」である(日本もちょっと前までは、ビリヤードといえば四つ球だったが…)。しかし、近頃の若い人は四つ球といってもピンと来ない人が多いだろう。四つ球とは文字通り4個の球を使って遊ぶビリヤードで、台に穴は1つもない。つまり、球を穴に落とすゲームではなく、ただひたすら球を当てるゲームである。


 日本の四つ球と韓国の四つ球 

日本の四つ球の初球配置図
【日本の四つ球の初球配置図】

 もう少し詳しく説明しよう。四つ球は赤球2つ・白球2つ(あるいは白球と黄球1つずつ)の計4つの球を使う。ふつう2人でゲームをし、一人が白球を、もう一人が他方の白球(あるいは黄球)を手球(キューで撞く球)とする。
 日本で最も一般的に行なわれている四つ球ゲームは、最初に4つの球を左図のように配置し、交互に自分の手球を撞き、手球を他の3つの球のうち2つ(あるいは3つすべて)に当てる形式でゲームを進めていく。手球が他の球2つあるいは3つに当たる1点を獲得し、続けて撞くことができる。手球が他の球に当たらなかったり、1つの球にしか当たらなかったら、撞き手を交代する。プレイヤーはそれぞれ自分の持ち点を持っており、当てた点数が自分の持ち点に早く達した(撞き上がった)者が勝ちとなる。実に単純なゲームである。なお、昔は手球が赤球と白球に当たったら2点、赤球2つに当たったら3点、3つの球すべてに当たったら5点というルールだった。ルールは単純だが、これがなかなか難しい。慣れないうちは、手球を思ったとおりに走らせることができず、なかなか点を取ることができない。
 これが現在、日本で行なわれているごくごく一般的な四つ球のゲームであるが、韓国で行なわれている四つ球は日本とはルールがいささか異なり、日本では俗に「赤・赤」などと呼ばれるルールでゲームを行なう。赤・赤ルールとは、手球が2つの赤に当たったときのみ1点が加算されるルールで、相手の手球(白球あるいは黄球)に当たると点数にならないルールである。赤球2つにのみ当たらなければ点数にならないので、必然的に難易度が上がる。

韓国の四つ球の初球配置図
【韓国の四つ球の初球配置図】

 韓国の四つ球は、最初の球の配置からして違う。左図のように、白球を一方の赤球のすぐ横に置く。そして、最初のサーブは反対側の赤をめがけて白球を撞き、クッションに入れて手許の赤に当てる。いわゆる「裏回し」という取り方だ。白球のすぐ隣にある赤球から当ててはいけないので、このようなややこしい取り方をしているのである。あとは日本のルールと同じように交互に撞いていき、あらかじめ決められた自分の持ち点に早く達した者が勝ちとなる。
 このルールでは、自分の手球が相手の手球に当たっても得点にならない。いや、得点にならないという甘優しいものではなく、相手の手球に当たると、自分の持ち点が1点増えるペナルティがある。つまり、相手の手球に当てるごとに、撞かねばならない数が増えていき、勝ちが遠のいてしまうのである。
 日本のルールでは、自分の持ち点をすべて撞き上がったら勝ちとなるが、韓国のルールは、持ち点を撞き上がっても勝ちにならない。撞き上がった後に、スリークッションを1回決めてはじめて勝ちになるのである。スリークッションとは、手球が2つ目の赤球に当たるまでに、3回以上クッション(ビリヤード台のふちの壁)に当てなければならないというものである。最初のサーブもスリークッションの取り方だ。赤当てルールでタダでさえ難しいのに、さらに最後にスリークッションをしないといけないので、韓国式の四つ球のルールはかなりハードであるといえる。


 持ち点 

 どのようなゲームでもベテランがいれば初心者もいる。ビリヤードもそうだ。だが、ベテランと初心者がまったく同じ条件でゲームをしたのでは、初心者は永久に勝てない。そこで、プレーヤーのレベルに応じて、ハンディキャップをつけた持ち点(다마수)がそれぞれのプレーヤーに与えられる。韓国の四つ球ビリヤード初心者の持ち点は「30点」である。「初心者なのに30回も赤球に当てなきゃいけないの?」とびっくりするかもしれないが、韓国では持ち点を数えるとき、1点を10点と称して勘定する(なぜなのかはよく分からない)。したがって、持ち点30点というのは3点のことで、2個の赤球に3回当てれば撞き上がりということになる。同様に、持ち点が80点と言えば8回、持ち点が250点と言えば25回当てるわけである。
 初心者にとってみれば、3回撞くというのはそうそう簡単なことではない。だから持ち点が30点でも、はじめは相当てこずる。相手の手球にもしょっちゅう当ててしまうので、持ち点30の人には相手の手球に当てたときのペナルティがない。また、初心者はスリークッションのような高度な技術を持っていないので、持ち点30の人だけは最後のスリークッションがなく、持ち点を消化した時点で上がりとなる。しかしながら、初心者というのはビギナーズラックで、あっという間に上がってしまうこともあり、30点のことを「恐怖の30点」などと揶揄することもある。
 持ち点のハンディは、下から順に30点、50点、80点、100点、120点、150点、200点、250点、300点、350点、400点、500点…となっている。概して100点未満は初心者と見なされ、ふつうに撞く人は100点~300点くらいである。300点を超えるとそれなりに上手いという感じがし、500点を超えるとかなりできるという感じがする。中には10000点なんていう人もいるらしいが、ここまでいくと神の領域だ。

 韓国のビリヤード場 


【韓国のビリヤード場の風景】


【韓国のビリヤード場のソロバン】

 ビリヤードを朝鮮語では「タング 당구 (撞球)」と呼ぶ。日本語の感覚からすると実に古めかしい単語だが、韓国ではこの名称で通っている。そして、ビリヤード場は「タングジャン 당구장 (撞球場)」という。
 ビリヤード場に入ったら、まず何のゲームをするかを告げる。つまり、サーグ(사구;四つ球)をするか、サムグ(삼구;三つ球=スリークッション)をするかということである。ポケットの台は、たいていのビリヤード場には置いていないか、あるいはあってもせいぜい1台だけである。ポケットは「ポケッポル(포켓볼 = pocket ball)」というが、これは女性を交えて「お遊び」でするものという観念があり、韓国人男性はふつうポケットで遊ばない。また、「ユック(육구;六つ球)」というゲームをする場合もある。これは白球2つ、赤球・青球・黄球・黒球各1つを使う穴なしビリヤードだが、主に賭けビリヤードのときにするゲームである。なお、韓国のビリヤード場にはスリークッション用の大台はめったに置いていない。従って、スリークッションをするときは、四つ球用の小さい台にスリークッション用の小さい球で遊ぶ(左上の写真の奥にいる人たちは、まさにそれをしている)。
 日本のビリヤード場の料金システムは、1人1時間いくらというようになっているが、韓国ではビリヤード台1台あたり1時間いくらというようになっている。従って、2人で撞こうが3人で撞こうが4人で撞こうが、台を1台しか使わないのなら値段は同じである。これは嬉しい。2004年現在で、1時間7000ウォン~9000ウォンというのが相場のようである。
 四つ球の台のわきには、日本でも韓国でも、ふつう得点計算用のソロバンが置いてあるが、韓国のソロバンには時間メーターがついていて、ゲームを始めるときにそのボタンを押す。すると「ビッボッバー」というブザー音が鳴り、それと同時に料金計算が始まる。メーターにはボタンを押してから何時間何分が経過したか表示される。そしてゲームが終わったときに再度「ビッボッバー」のボタンを押して、ゲーム時間が確定され、料金が精算されるしくみになっている。
 韓国のビリヤード場のいいところは、ゲームを始める前と後の練習撞きは金を取らないことだ。例えば、2人で店に入って、ゲームを始める前に何度か試し撞きをしたり、あるいはゲームが終わって簡単な練習するときは料金を取られない。ボタンを押すのは純粋にゲームをしているときなので、そのような練習撞きはタダなのである。
 ゲーム中のマナーも日本とはかなり違う。例えば、日本では「ナイスショット」というところを、韓国では「ナイスキュー 나이스큐 = nice cue」という。あるいは、ナイスショットをしたときに、日本では自分のひざを叩いたり、チョークでキューを叩いて拍手がわりにするが、韓国では台の端(レール)を平手で叩いて拍手がわりにする。また、これはひじょうによくないことだが、くわえタバコで撞いたり、吸いさしのタバコを台の端に置いて撞くのもよく目にする光景だ。このあたりはアバウトな韓国のお国柄(?)がよく現れているともとれるが、ラシャのことを考えればタバコにはもう少し気を使ってもいいだろう。

 韓国のスリークッション 

 スリークッションという競技は、四つ球の台(中台)よりひと回り大きい大台を用いて行なうが(詳しくは「スリークッション」のページを参照)、上でも少し触れたように、韓国では大台の普及率が低く、多くの場合は四つ球の台を用いてスリークッションを行なう。
 ゲームのやりかたも日本とは少し異なる。日本のように25キューでドローにするルールはなく、撞き上がるまでゲームを行なう。持ち点は四つ球の持ち点の半分で行なう場合が多いようである。すなわち、四つ球の持ち点が10点(韓国でいう100点)の人は、スリークッションの持ち点が5点(韓国でいう50点)という具合である。初球は日本のように定まった位置に球を置いて撞くのではなく、いわゆる「撒き」(3つの球を手でテーブルに放り、ランダムな配置で始めること)で始める。
 韓国ルールの辛いのは、四つ球と同じように、スリークッションも持ち点を撞き上がってもまだ勝ちではないことだ。四つ球の場合は最後にスリークッションをしたが、スリークッションの場合は最後に空クッションで締めなくてはいけないのである。もう1つ、韓国ルールの面白いところは、空クッションは通常の倍の2点になり、手球が的球に1つも当たらないと、四つ球と同じく持ち点が1点増える。韓国人とスリークッションをしたことのある人は、韓国人が空クッションをよく狙い、またこれをよく当てると感じている人が多いかもしれないが、実は韓国人はこのような韓国ルールで空クッションを日々鍛えていたのである(笑)。

 ビリヤード用語 

 驚くなかれ、朝鮮語のビリヤード用語はほとんどすべて日本語の単語を用いている。「だい(台)」、「たま(球)」といった基本用語から始まって専門的な用語まで、ほとんどが日本語である。植民地時代に日本を通じて入ってきたので、当時用いられた日本語の用語がそのまま定着してしまったのである。ビリヤード団体では朝鮮語の用語に置き換えるよう指導しているようだが、一度しみついたものはなかなか抜けないようで、一般には相変わらず日本語起源の用語が大手を振ってまかり通っている。詳細は、ここをクリック


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