連載ノンフィクションエッセイ 第7回

あのときほど一時間がこんなに長いと思ったことはなかった。青春18きっぷで東京へ帰ってくるとき、静岡で電車がなくなって朝の五時までの約5時間、静岡駅で過ごさなければならなかったあの晩よりも、長く感じた。静岡では、駅近くの和民で朝三時まで過ごし、一時間半ほどコンビニで立ち読みをして過ごし、駅のホームで三十分ほど過ごしたが、今となってはいい思い出だ。さて、その一時間、何か他のことでもしながら気を紛らわせることができたのならよかったのだが、あいにく私にはそんなことをする余裕はなかった。空腹にめまいを覚えながら、私はひたすら待った。

そして運命の一時間が過ぎた。茜色に染まっていた西の空はすっかり暗くなり、頭上を見上げれば、夜空に星が見えた。わたしたちが店頭でマスターから聞かされたのは、いまだかつて聞いたことのない、驚愕の事実だった。

「いやあー、PTAの会合かなんかあったらしくてさー、10人くらい一気にお客さんが来て、それでみんな3個ずつくらい、(おそらく家に持って帰って家族の晩ご飯にするためだと思うが)全部違う種類のを頼むんだよね。それで、もう、たいへんだったよ」

おそらく店頭で30分以上待った客もいただろうに…。私は、そんなとばっちりをうけてしまった他の客のことを考えると、気の毒でしょうがなかった。

「大量注文するときは、作る側のことも考えなきゃなあ」

私は、三吉の前にあるガードの階段を降りながら、そう思った。

(第8回に続く)


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