TUFSグローバル・スタディーズ学会 2022年度(第3回)大会プログラム
The Third Convention of Association of Global Studies (AGS-TUFS)
このたび東京外国語大学グローバル・スタディーズ学会(AGS-TUFS)では、第3回大会を開催することになりました。
We are pleased to announce that the 3rd Convention of AGS-TUFS will be held online on February 11, 2023.
大会概要 Date & Program
開催日
2023年2月11日(土)
Date: February 11, 2023 (Sat.)
連絡先:Email: ags.tufs[at]gmail.com ([at]を@に変えてください)
Inquiry: AGS-TUFS Secretary (ags.tufs[at]gmail.com)
開催方式:オンライン(Zoom情報は開催日前々日までに会員および参加資格のある方々にお知らせします)
Venue: Online (Zoom url will be notified to all members and eligible participants by February 9, 2023)
プログラム Program
言語学パネル・セッション 司会:風間 伸次郎(本学教授) 使用言語:日本語
[当セッションには、本学の博士前期課程学生、学部学生も参加資格があります]
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報告1:宮岡 大(九州大学 大学院博士後期)(10:00-10:30)
「日本語諸方言の『ラ行五段化』形式におけるrの所在: 動詞語根の場合と接辞の場合」(要旨0-1) -
報告2:松岡 葵(九州大学 大学院博士後期)(10:35-11:05)
「日琉諸方言における心情述語文格標示の類型化:述語の品詞に着目して」(要旨0-2) -
報告3:徐 敏徹(京都大学 博士後期課程生)(11:10-11:40)
「ドラマコーパスを利用した述語反復構文『PことはP』の分析」(要旨0-3) -
報告4:パトリシオ・バレラ・アルミロン(東京外国語大学 博士後期課程生)(11:45-12:15)
「パピアメント語の名詞句について」(要旨0-4) -
報告5:岡本 進(東京外国語大学 博士後期課程生)(12:20-12:50)
「フィジー語バトゥレレ方言の名詞抱合」(要旨0-5) -
報告6:鈴木 唯(東京大学 博士後期課程生)(12:55-13:25)
「トルコ語の項体言化と文法関係」(要旨0-6) -
報告7:諸隈 夕子(東京大学 博士後期課程生)(13:30-14:00)
「ケチュア語アヤクーチョ方言における移動表現の類型論」(要旨0-7) -
報告8:鄭 雅云(京都大学 博士後期課程生)(14:05-14:35)
「認識的モダリティを表す漢語共通語の助動詞:非未来文脈での使用を中心に」(要旨0-8) -
報告9:川畑 祐貴(京都大学 博士後期課程生)(14:40-15:10)
「時間的遠近性/遠近感の表示と『強調』について:韓国語の時間語彙を中心に」(要旨0-9) -
報告10:ホリロ(東京外国語大学 博士後期課程生)(15:15-15:45)
「モンゴル語オラド方言に見られる漢語の影響」(要旨0-10) -
報告11:谷川 みずき、長屋 尚典(東京大学 博士後期課程生)(15:50-16:20)
「ノルウェー語で komme『来る』はいつ使われるのか:ビデオ実験による分析」(要旨0-11)
- 分科会1:言語学 司会:萬宮 健策(本学准教授)
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報告1:若狭 基道(語学研究所 特別研究員)(13:20-13:50) 使用言語:日本語
「アムハラ語教育に望ましい動詞語形変化の捉え方」(要旨1-1-J)
Suitable understanding of the verbal inflection for teaching Amharic (abstract 1-1-E) -
報告2:山藤 顕(総合国際学研究院 特別研究員)(14:00-14:30) 使用言語:日本語
「アフリカーンス語における英語の借用語」(要旨1-2-J)
English Loanwords in Afrikaans (abstract 1-2-E) -
報告3:甘利 実乃(博士後期課程生)(14:40-15:10) 使用言語:日本語
「AIによる自動要約文が日本語学習者の読み学習へ与える影響の可能性」(要旨1-3-J)
Possible Impact of AI-driven Automatic Summarization on Japanese Learners’ Reading (abstract 1-3-E) -
報告4:孫 彤(博士後期課程生)(15:20-15:50) 使用言語:日本語
「AI音声認識技術を用いた会話練習環境を開発するための基礎調査 —2000年以降に刊行された初級日本語教材の特徴分析—」(要旨1-4-J)
A Preliminary Investigation on Development of Japanese Conversation Practice Using AI Speech Recognition: Analysis of Elementary Japanese Textbooks Published since the 2000 (abstract 1-4-E) -
報告5:山下 航平(博士後期課程生)(16:00-16:30) 使用言語:日本語
「英語前置詞ofと類義的な前置詞の出現位置の比較: 前置詞を用いた動詞句の考察」(要旨1-5-J)
An Analysis of Comparing the English Preposition of and Synonymous Prepositions: A Corpus-based Study of Verb Phrases in British National Corpus (abstract 1-5-E)
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- 分科会2:現代社会 司会:木村 暁(本学講師)
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報告1:宮本 ももこ(博士後期課程生)(13:00-13:45) 使用言語:日本語
「子どもの貧困問題に対する『地域循環型一貫支援』の可能性 ――沖縄本島中南部の子ども食堂に着目して――」(要旨2-1-J)
Possibility of “Consistent Supports of Regional Circulation Type” Regarding Child Poverty Issues--Focusing on Children’s Cafeteria in South-Central Part of Okinawa-- (abstract 2-1-E)
討論者:大川 正彦(本学教授) -
報告2:イブロヒモワ・ズライホ(博士後期課程生)(13:55-14:40) 使用言語:日本語
「独立後のウズベキスタンにおける高等教育の変遷について ―国家高等教育改革を中心に―」(要旨2-2-J)
Changes in National Higher Education of Uzbekistan: Focus on the Higher Education Reforms since Independence (abstract 2-2-E)
討論者:鈴木 義一(本学教授) -
報告3:長谷川 健司(博士後期課程生)(14:50-15:35) 使用言語:英語
Warfare Biosphere: The Rise of Ecosystem Ecology under the Cold War Regime (abstract 2-3-E)
討論者:古川 高子(本学特任助教) -
報告4:郡 昌宏(博士後期課程生)(15:45-16:30) 使用言語:日本語
「北朝鮮文学作品から北朝鮮社会を読み解くための方法論の検討と試論的考察」(要旨2-4-J)
Exploratory Considerations for Analyzing North Korean Social Order through North Korean Literature (abstract 2-4-E)
討論者:藤井 豪(本学講師)
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- 分科会3:教育 司会:若松 邦弘(本学教授)
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報告1:何 育汶(博士後期課程生)(13:00-13:45) 使用言語:日本語
「中国の普通高校において日本語学習者の動機づけとその変容」(要旨3-1-J)
Current Status and Challenges of Japanese Language Course in Chinses Senior High Schools Focus on the motivation of students in Sichuan Province (abstract 3-1-E)
討論者:王 智新(武蔵野大学) -
報告2:朱 松松(博士後期課程生)(13:55-14:40) 使用言語:日本語
「中国の義務教育における食育に関する研究の動向と今後の課題 ――CNKI掲載論文を中心に――」(要旨3-2-J)
Trends and Future Issues in Research on Food Education in Compulsory Education in China —Focusing on papers published in CNKI—(abstract 3-2-E)
討論者:王 智新(武蔵野大学) -
報告3:石垣 晴海(博士後期課程生)(14:50-15:35) 使用言語:日本語
「日本における外国につながりを持つ子どもの教育課題 ―多国籍化が見られる自治体における教育支援に着目して―」(要旨3-3-J)
Educational issues for international children in Japan: Focusing on educational support for students with foreign backgrounds sparsely living in a municipality with multinational residents (abstract 3-3-E)
討論者:加藤 美帆(本学教授) -
報告4:頼 瑜瑩(博士後期課程生)(15:45-16:30) 使用言語:日本語
「中国における生涯学習の位置づけ ―中国職業教育法の改正から見る傾向―」(要旨3-4-J)
Understanding the position and direction of lifelong learning in China based on revisions of the Chinese Vocational Education Law (abstract 3-4-E)
討論者:澤田 ゆかり(本学教授)
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- 分科会4:文学・思想 司会:水野 善文(本学教授)
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報告1:サンジェーエフ・アムガラン(博士後期課程生)(13:00-13:45) 使用言語:日本語
「A・V・チャヤーノフの小説『農民ユートピア国旅行記』(1920)における法と政治:P・I・ノヴゴロツェフの法哲学を手がかりに」(要旨4-1-J)
Law and Politics in A. V. Chayanov’s Novel The Journey of my Brother Alexei to the Land of Peasant Utopia (1920): Comparing with P. I. Novgorotsev’s legal philosophy (abstract 4-1-E)
討論者:沼野 恭子(本学教授) -
報告2:イドジーエヴァ・ジアーナ(博士後期課程生)(13:55-14:40) 使用言語:日本語
「今村夏子『むらさきのスカートの女』論 ──子供とゲームの世界──」(要旨4-2-J)
The Woman in the Purple Skirt by Natsuko Imamura: The World of Children and Play (abstract 4-2-E)
討論者:邵 丹(本学講師) -
報告3:後藤 恵(博士後期課程生)(14:50-15:35) 使用言語:日本語
「フェルナンド・ペソーアにおけるセザーリオ・ヴェルデの影響:ポルトガル近代詩の系譜」(要旨4-3-J)
The Influences of Cesário Verde on Fernando Pessoa: A Genealogy of Modern Portuguese Poetry (abstract 4-3-E)
討論者:久野 量一(本学教授) -
報告4:新井 悠子(博士後期課程生)(15:45-16:30) 使用言語:日本語
「仏領期ベトナムにおける理想的女性像―1929年創刊の『婦女新聞』を中心に―」(要旨4-4-J)
The ideal Female Image in the French colonial period in Vietnam–Focusing on Women’s News issues published in the 1929– (abstract 4-4-E)
討論者:粟屋 利江(本学教授)
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会員総会:17:00~17:30
General Meeting of Members: 17:00-17:30
分科会報告要旨集
0 言語学パネル・セッション
0-1 宮岡大 本発表では,日本語諸方言の「ラ行五段化」形式について,生じるrが動詞語根と接辞のいずれに含まれるかを記述する。 日本語諸方言の「ラ行五段化」とは,母音終わりの動詞語根が子音r終わりに変化する現象であるとされる(例: miran, min「見ない」)。 しかし,「ラ行五段化」形式で生じるrは,動詞語根と接辞の境界付近に生じるため,どちらに属するか自明ではない。 本発表では,先行研究で扱われてきた動詞語根+屈折接辞からなる語形に加え,派生接辞を含む動詞語形(動詞語根+派生接辞+屈折接辞)データを扱い,その場合にrがどこに生じるかを示す。 rは共時的に動詞語根末の場合と接辞初頭の場合があり,それは方言ごとに異なることを示す。 加えて,この違いは通時的変化の違いを反映していることを論じる。 前者の場合はrが動詞語根末に生じる「r語根化」が,後者の場合はrが接辞初頭に生じる「r接辞化」が生じていると分析する。
0-2 松岡葵 本発表は,日琉諸方言における心情述語文の格標示の類型化に向けた初期報告をおこなう。先行研究である松岡(2020)は,特に述語の品詞に着目して日琉5方言における心情述語文(例:私が太郎を愛する,私が太郎が怖い etc.)の格標示を記述しており,そのデータを基に,格標示に以下のような階層性がある可能性を指摘した。 1. 典型他動詞文(例:私が太郎を殴った)と同じ【主格-対格】の格標示は,典型他動詞文>心情動詞文>心情形容詞文という階層に沿って生じる 2. 二重主語文(例:私が背が高い)と同じ【主格-主格】の格標示は,二重主語文>心情形容詞文という階層に沿って生じる 3. 典型他動詞文とも二重主語文とも異なる【主格-与格】の格標示は,心情動詞文>心情形容詞文という階層に沿って生じる 本発表では,福岡県柳川市方言など他の方言データを加え,この階層性の検証をおこなう。
0-3 徐敏徹 「好きな人がいることはいるんだけど」のように,同じ述語(Predicate)が反復されることで 譲歩の気持ちを表す「PことはP」という反復構文がある。この構文を,従来の研究では母語話者による作例や,書き言葉・打ちことばに基づいて分析・ 記述してきた。本研究では,日本のドラマの字幕(台詞)を大量に集めて構築したドラマコーパスを利用し,「PことはP」の調査・分析を行った。その結果,「PことはP」に用いられている名詞化辞には「こと」以外にも「の」や「∅」があり,ゆれがあることがわかった。また,「PことはP」の用例は半数以上が逆接を表す「けど」や「が」と共起していること,そして,「PことはP」の後部にあるPの時制がタ形の場合は前部にあるPの時制も必ずタ形で現れていることが明らかになった。
0-4 パトリシオ・バレラ・アルミロン 本発表は、パピアメント語における名詞句の内部構造とその特徴を明らかにすることを目的とする。パピアメント語の名詞句においては名詞中核(noun core)が必須の要素である。そのほかに、名詞中核を修飾する諸要素が存在する。単純名詞のほかに、複合名詞や前置詞などがついた名詞も名詞中核になりうる。この名詞中核を前から修飾する要素と後ろから修飾する要素とで品詞が異なることもある。修飾要素のうち、形容詞は前置修飾と後置修飾に分かれ、名詞中核を被所有者とする名詞句でも、所有者が名詞の場合と代名詞の場合とで前置修飾と後置修飾の対立が見られる。さらに、名詞句における定冠詞、不定冠詞、無冠詞という形式と定・不定、および特定・不特定、総称・非総称というカテゴリーの関係性についても考察を行う。
0-5 岡本進 フィジー語バトゥレレ方言の名詞抱合の興味深い点は、別の目的語をとりうることである。(3) では、kata「噛む」が domo「首」を抱合したうえで、新たな目的語 qwata「蛇」をとっている。 (3) Ai kata-domo-ni-a na qwata 3SG bite-neck-TR-3SG ART snake 「彼は蛇を首噛みした」 このように名詞抱合が他動詞化する例は、フィジー語を含むオセアニア諸語の名詞抱合ではまれである。
0-6 鈴木唯 本研究は、Shibatani (2019) の体言化理論の枠組みに基づき、トルコ語の項体言化について記述・分析する。体言化とはメトニミーを認知基盤とする文法的派生プロセスである。体言化構造はメトニミーによって喚起されるコト・モノを概念表示する。体言化には通常の名詞同様、主要部名詞として指示機能を果たす名詞句用法と主要部名詞の概念表示を制限または特定する修飾用法がある。項体言化を理解するには文法関係や文法役割が重要であることが吉田 & 石川 (2022) で指摘されている。本研究はトルコ語の項体言化を対象に項体言化の用法の違いが文法関係や文法役割にどのように関わるのかについてコーパスに基づく計量的調査を行う。調査の結果、記述的には、トルコ語の項体言化では修飾用法が名詞句用法よりも頻度が高いこと、文法関係の階層で高い項は低い項よりも項体言化される割合が高いこと、修飾用法は名詞句用法よりも階層で低い文法関係の項体言化の割合が高いことがわかった。さらに、文法役割を見ると、用法を問わずSが多く、特に修飾用法ではd(ervied)-S(ubject) の項体言化が多いことが明らかになった。理論的には、この発見はメトニミー基盤の体言化理論によって理解することができることを主張する。こうして、本研究はトルコ語の項体言化の記述的研究だけではなく、体言化理論や文法関係の類型論に貢献する。
0-7 諸隈夕子 本稿は、ケチュア語アヤクーチョ方言の移動表現を実験的手法に基づいて得られたデータを元に俯瞰的に記述し、その類型論的特徴を明らかにすることを目指す。移動概念の標示手段を豊富に持つアヤクーチョ方言における移動表現の記述・分析は、移動表現の類型論的において重要な事例研究となる。 そして本発表では、アヤクーチョ方言の移動表現の類型論的特徴として、以下の3 点を主張する。 i) アヤクーチョ方言は特に主体移動において、経路が主動詞と主動詞以外の要素で同時に表される経路両極標示を強く好む言語である。 ii) アヤクーチョ方言は、主体移動においては経路主要部標示および両極標示を強く好む言語であるが、客体移動と抽象的放射においては経路主要部外標示が経路主要部標示に比べてはるかに優勢である。 iii) アヤクーチョ方言は主体移動の全体的な特徴として経路主要部標示および経路両極標示を好むが、経路の種類を細分化すると、経路主要部標示がほとんど見られない経路も存在する。
0-8 鄭雅云 漢語共通語のモーダル助動詞huìは、認識的モダリティの解釈と根源的モダリティ(能力など)の解釈をとることができると言われており、未来用法をもつとされることもある。認識的モダリティを表すhuìは、非未来の肯定文における使用に制限があることや、疑問文で現れやすいことが特徴的であるが、これを取り上げて論じる研究は少ない。それだけでなく、先行研究において、huìの非未来文脈での使用自体に対する関心も決して高いとは言えない。そして、huìの認識的モダリティとしての意味についてもまだ議論の余地がある。本発表では、まずhuìをもつ非未来文の下位分類を行い、次に「推量を表す肯定文」「理由説明文」「疑いを表す疑問文」「婉曲を表す疑問文」の4つのタイプに着目して考察し、非未来文におけるhuìが表すモダリティ的意味を明らかにしていく。
0-9 川畑祐貴 韓国語の程度副詞nemu「とても」は形式を繰り返したり(nemu~nemu)、第1音節の母音を音声的に延ばしたり(ne:mu)することで、nemuの発話やその意味内容が「強調」されうるが、こうした「強調」は時間語彙においても観察される。たとえば「今し方;すぐ、速く」を意味するkumpang(今方)では形式が繰り返されkumpang~kumpangとなり、「すぐ、速く」の意味が「強調」される。また「さっき」を意味するakkaは第1音節の母音が長く調音されることで(a:kka)、そうでない場合(akka)と比べて、「さっき」の示す時点がより「遠く」に感じられる。韓国語の時間語彙には時間的遠近性/遠近感(temporal remoteness)を明示する形式と含意しうる形式があるが(川畑 2022)、本発表では、その時間的遠近性/遠近感の表示について考える試みの一環として、時間的遠近性/遠近感の表示に関わる語彙形式に注目し、それら形式に観察される「強調」現象を取り上げ、時間的遠近性/遠近感の表示と「強調」方法との関係について考えてみる。
0-10 ホリロ モンゴル語と漢語の接触は中国内で広範囲に生じているが、その借用の実態に差異 が見られる。本発表では、中国内モンゴル自治区の西部で話されているモンゴル語オラド方言に見られる漢語の影響について検討するものである。モンゴル語オラド方言では、早期に借用された漢語はもとの音韻的特徴を失い、借用語としての痕跡がほとんど残されていない。それ以降に借用された語はある程度モンゴル語化されているものもあれば、そり舌音や声調、さらに当該地域の漢語(晋方言)の入声が残されたものも観察される。形態面では、借用された漢語にモンゴル語の各種の派生接辞や屈折接辞を付加することができる。ただし、「漢語+動詞形成接辞 -lA」や「漢語+xii-(する)」の使用は他方言と比べて極めて少ない。語彙面では、自立語のみならず、付属語まで多量に借用されている。上記はモンゴル語オラド方言の独特な特徴として捉えることもでき、漢語の影響がかなり及んでいることがわかる。
0-11 谷川みずき、長屋尚典 移動表現の枠付け類型論では、ノルウェー語は一貫して様態を主動詞で表し経路を主動詞以外の要素 で表す付随要素枠付け言語であるとされてきた。しかし、先行研究は直示には十分に注目してこなかった ため、ノルウェー語の移動表現の全体像を捉えきれていない。そこで本発表では直示動詞 komme ‘come’ の使用条件について国立国語研究所 MEDAL プロジェクトの B 実験の結果を用いて分析する。その結果、 komme の使用には toward the speaker という移動の方向だけでなく開放性や可視性など空間の特性 も関わっていることを指摘する。このような特性は同じように話者の方向への移動を表す前置詞句 (mot meg ‘toward me’ や til meg ‘to me‘) には見られず、直示動詞独自のものである。
分科会1:言語学
1-1-J 若狭基道 発表者の表したアムハラ語(エチオピア、セム語)の入門書『ニューエクスプレスアムハラ語』(2018年、白水社)は、従来のセム語学の伝統に沿わない点があり、特に動詞の語形変化に関してそれが著しい。その結果、動詞の語形変化を比較的少数のパターンに整理し、丸諳記せずとも類推で導き出せる語形変化が多いことを示せたことは利点である。これは、アムハラ語の母音連続を嫌うという音韻的特質に着目したからこそ可能になったことでもある。だが一方で、通時的・語源的事実よりも共時的な語形変化の型を優先させる方針により、動詞に含まれる語根(セム語では一般にこの語根が語の基本的な意味を担う)の数に関し、従来の説と不一致が見られる場合が生じた。これにより、辞書等の従来の教材を使いこなす際に問題が生じる可能性がある。伝統とは異なった扱いをしたのは教育効果を考えてのことであるが、果たしてそれが成功したのか否か、今や検討が求められる。本発表では、そのきっかけを作りたい。
1-1-E The speaker’s textbook of the Amharic language (Semitic, spoken in Ethiopia), Nyū ekusupuresu purasu Amuharago [New Express Plus Amharic] (2018, Hakusuisha), shows deviations from the Semitic tradition, especially in the treatment of verbal inflection. As a result, various verbal inflection classes are reduced to relatively small numbers of patterns, which enables learners to conjugate verbs correctly by inference without resorting to rote memorization. This is a positive side of the new approach, which was made possible by making best use of the Amharic phonological tendency to avoid hiatuses as much as possible. On the other hand, since the book puts more priority on synchronic patterns of the verbal inflection than diachronic and/or etymological facts, there happened discrepancy on the number of the verb root (which in general conveys a basic meaning of each word in Semitic languages) as for some, never a few, words between the book and the traditional treatment. The adoption of the unique approach is for the purpose of educational efficiency. However, it is high time to consider the question whether the attempt is successful or not. This presentation provides a springboard for it.
1-2-J 山藤顕 本発表ではアフリカーンス語に現れる英語の借用語について扱う。アフリカーンス語はナミビアや南アフリカ共和国で話されるゲルマン語である。アフリカーンス語は綴りと発音のずれが少ない言語であるが、英語の借用語を用いる際にもその様子が見られる。アフリカーンス語で用いられるoraaitは英語のall rightが、koebaaiはgoodbyeが由来であり、それをアフリカーンス語の発音規則に倣った綴りへと変えた。しかし、近年では英語の借用語が英語の綴りのまま表記されている(例:Ek love dit. 私はそれが好きである)。その結果アフリカーンス語における英語の借用語は、アフリカーンス語式の発音・表記と英語そのままの発音・表記が混在している。本発表では、特に英語の動詞の借用語においてその例が顕著にみられる例を挙げ、アフリカーンス語の発音・表記に大きなずれが生まれつつあることを指摘する。
1-2-E This talk discusses the English loanwords that appear in Afrikaans. Afrikaans is a Germanic language spoken in Namibia and South Africa. Afrikaans is a language with few discrepancies between its spelling and pronunciation, a feature that is also evident in its use of English loanwords.The Afrikaans word oraait is derived from the English word “alright” and koebaai from “goodbye,” displaying changes in spelling to fit Afrikaans pronunciation rules. In recent years, however, loanwords from English have shown a tendency to retain their original English spellings (e.g., Ek love dit. I love it.). Consequently, the pronunciations and spellings of English loanwords in Afrikaans now display a mixture of Afrikaans and English characteristics. This talk, will give examples of English verb loanwords where this phenomenon is particularly apparent, highlighting a major shift in the pronunciation and spelling of Afrikaans.
1-3-J 甘利実乃 深層学習型AI(以下AI)による自動要約を日本語教育に活かしていく方法に関して、先行研究を考察するとともに、先行研究では指摘されていない課題を提示する。最新のAIでは、抽象型要約と呼ばれる、原文をベクトル化し、事前学習で形成したニューラルネットワークを通して要約する方式が採られているが、その基本原理を従来の抽出型要約と比較して紹介する。現時点でのAIには、原文の分野やレベルにより、得意・不得意があることを指摘する。AIの要約文を学習者の読み学習に活用していくには、学習者のレベルに合わせて、原文と要約文のレベル調整が必要となるが、現時点では出力要約文のレベル調整を行うことは困難である。AIは物語のような分野の要約は不得意とし、ニュースのような分野の要約は比較的得意とする。本発表では、原文を同一レベルの物語とニュースに限定し、AIによる要約文の学習者の読み学習への影響を考証した結果を報告する。
1-3-E In this paper, we discuss previous research and present issues that have not been pointed out in previous research on how to apply automatic summarization by deep-learning AI (AI) to Japanese language education. The basic principles of the latest AI, called abstractive summarization, which vectorizes original texts and summarizes them through neural networks formed by prior learning, are compared with traditional extractive summarization. It points out that AI at the moment has strengths and weaknesses depending on the field and level of the original text. To use AI summaries for learners’ reading learning, it is necessary to adjust the level of the original text and the summary to match the level of the learner, but it is difficult at present to adjust the level of the output summary. AI is bad at summarizing areas like stories and relatively good at summarizing areas like news. In this presentation, we limit the original text to stories and news of the same level, and report the results of the investigation of the effect of AI on learners’ reading learning of abridged sentences.
1-4-J 孫彤 本研究は、2000年以降、日本国内に刊行された初級学習者向けの総合日本語教材8種(16冊)を取り上げ、教育の目的、学習内容および取り上げられているトピックという3つの観点から、初級日本語学習者の学習目的と学習内容を明らかにする。そのうえで、AI による日本語会話練習環境に取り上げる学習内容の選定について提案したい。分析の結果から、まず、初級日本語教材に共通した文型・表現は約200項目である。また、これらの初級教科書では、自己紹介、買い物、食事、自分の家族、自国のことなどの身近なトピックをよく取り上げられている。分析の結果、日本語学習で目指すものは、学習者が既習の語彙や表現を使いこなせるようになるだけではなく、自然な会話を通して良い人間関係を作ることも求められていることが明らかになった。今後は、初級日本語教材で出現頻度が高い文型・表現を参照しながら、適切・十分な学習データを収集する。初級学習者のレベルに合わせるAI会話練習環境を構築したい。
1-4-E In this study, I will examine 8 types (16 books) of comprehensive Japanese textbooks for beginner-level learners published in Japan since 2000, and clarify the learning objectives of beginner-level learners of Japanese. This study was conducted from three perspectives: educational objectives, learning contents, and conversational topics. I will then make a proposal for the selection of learning contents to be included in the AI-based Japanese conversation practice system. Based on the results of our analysis, I found that there are about 200 sentence patterns and expressions common to all beginner-level Japanese language materials. As for the topics, familiar topics such as self-introduction, shopping, eating, family members, and country are often included. The study also revealed that the goal of Japanese language learning is not only for learners to be able to use the vocabulary and expressions they have already learned, but also to create good relationships through natural conversation. In the future, appropriate and sufficient learning data will be collected by referring to sentence patterns and expressions that frequently appear in beginner-level Japanese language materials. I would like to construct an AI conversation practice system that matches the level of beginner learners.
1-5-J 山下航平 Oxford English Dictionaryによると、英語前置詞ofは様々な意味を持っていることが指摘されている。したがって、他の前置詞と意味範囲が重なることは容易に想像できることである。これまで様々な研究が英語前置詞においてなされてきたが、意味的な研究が中心であった 。Yamashita(2021)では、深谷(2014)のofとfromの意味の違いをコーパスによって分析したことをもとに、ofとfromの意味的な差異にとどまらず統語的な配列、あるいは談話機能の差異もある可 能性があることを示唆した。しかし、fromにとどまらず様々な前置詞とも似たような意味を持っている前置詞は様々に存在する。本研究では、そのような前置詞との差異について 、Yamashita(2021)と同様に統語配列的・談話機能的な違いに着目して分析する。とりわけ、今回注目するのは前置詞と動詞との距離であり、語数をそれぞれ手作業で数える。用いる言語データについては、Yamashita(2021)と同様に小学館コーパスネットワークのBritish National Corpusを用いて収集する。
1-5-E The English preposition of has various meanings, which also cover meanings of other prepositions, according to Oxford English Dictionary. There have been many studies done on English prepositions, many of which mainly focus on semantic differences. However, Yamashita (2021) implies that of and from may play different syntactic and discourse roles based on the research of British National Corpus. Fukaya (2014) analyses semantic differences of and from through doing some survey on phrasal verbs including these prepositions. Yamashita (2021) mainly agree with there being some semantic differences but there may also be some discourse and syntactic differences as well. Yamashita (2021) only focuses on one prepositional verbal phrases: die of and die from. On the contrary, this research pays attention to other prepositional phrases as well, such as talk of/about etc. Moreover, this time the research aims to seek how many words are between the verbs and the prepositions, which means how distant these two words are. This study counts the number of words between the verbs and the prepositions and reveals how the distance influences on speakers’ cognition and usage after analysing discourse factors.
分科会2:現代社会
2-1-J 宮本ももこ 研究背景として、今日の沖縄の子どもの相対的貧困率が全国で最も高い状況があり、本稿を通じ、親から子どもへと継承される「貧困の連鎖」を断ち切りうる方法を模索したい。 先行研究より、地域の中で新たな人間関係を再構築すること、所得補償以外の要素についても、持続可能な支援をすることが、有効的であると目される。その典型例として子ども食堂があり、社会的包摂の取り組みを果たしている。 新型コロナの蔓延という逆境の中で、この場をどのような人が支え、どのように活動を継続し、どのような問題が存在するのだろうか。筆者は2021年9月、沖縄本島中南部の子ども食堂にて約1ヶ月間の参与観察を行った。その結果、子ども食堂を活動拠点に、地域資源がゆるやかに繋がり支援網を構築する中で、官民の認識ギャップが生じていることが分かった。そして活動持続性の裏には、高い自由度と沖縄への文化的帰属感、支援の受け手が支え手となり継承される互助の力があった。
2-1-E As a research background, the relative poverty rate of children in Okinawa today is the highest in Japan. Through this report, I would like to explore the ways to break the "chain of poverty" that is passed down from parents to their children. Based on previous studies, it is effective to rebuild new relationships within the community and to provide sustainable support for factors other than income compensation (education, health, interpersonal relationships, etc.). A typical example is the children's cafeteria, which is fulfilling social inclusion efforts. In the midst of the adversity of the new corona epidemic, who supports this place, how do they continue their activities, and what kind of problems do they face? In September 2021, the author conducted a month-long observation visit to a children's cafeteria in the south-central part of the main island of Okinawa. As a result, it was found that a perception gap between the public and private sectors has emerged in the process of building a support network by loosely connecting local resources and the children's cafeteria, a base of their activities. Moreover, it was found that a high degree of freedom, a sense of cultural belonging to Okinawa, and the power of mutual aid that is passed on from one generation to the next as the recipients of support become the supporters have played an important role in the sustainability of the activities.
2-2-J イブロヒモワ・ズライホ ソ連邦解体とともに構成共和国であっ15ヶ国が独立を宣言し、広大で多様な連邦の領土において、数十年にわたって発展した単一のソビエトモデルから15のユニークな国家制度に発展していった。とりわけ、ウズベキスタンの人口の約60%が0歳から29歳までの者であるため、国の発展のために教育分野が大いに注目される必要がある。本発表は、独立後のウズベキスタンにおける国家高等教育改革の中での高等教育の変遷ついて検討することを目的とする。特に、ウズベキスタンにおける教育改革について検討し、それを受け高等教育分野において実施されている制度や教育課程の内容と特徴、さらに高等教育の課題について考察・分析する。特に高等教育分野に注目が集まった2016年以降の高等教育の変容について検討する。
2-2-E One of the most important elements of human development is education, which plays a major role in solving the fundamental issues of society, such as social, economic, political spheres, and has a decisive impact on it. This presentation examines the transformation of the education sector in Uzbekistan after becoming independent in 1991, particularly in higher education, with a focus on the state education policy. After becoming independent from Soviet Union, educational reforms have been continuously implemented in the country in order to provide education that is appropriate to the changing times and the needs of the people. The main feature of this study is the investigation of the transformation of higher education under the state education reform in Uzbekistan, especially the transformation of the Uzbekistan’s education system after 2016. More than half of the population of Uzbekistan is youth, and the education sector needs to be given much attention for the development of the country. For Uzbekistan, the establishment of an advanced and appropriate education system will be a solid path to the future.
2-3-E 長谷川健司 The contemporary understanding of "global" has been shaped, in part, by the science of Earth' Biosphere: ecosystem ecology. This new science was founded, in mid-20th century, primarily by the theoretical and empirical contributions of zoologist G. Evelyn Hutchinson(1903-1991), one of the fathers of cybernetics. Before WWII, Hutchinson, with the help of Russian emigré in Yale, introduced Vladimir Vernadskii(1863-1945)’s biogeochemistry and the concept of Biosphere to American traditions of ecology. This unexpected intellectual encounter brought from Russia transformed the future course of Western ecology. Based both on the cybernetics theory of circular causal systems and biogeochemistry of the Biospheral material-energy cycle, Hutchinson created a powerful discourse on the dynamic structure of the planet. Furthermore, ecosystem ecology became to have a profound relationship with strategies taken by the superpowers of the atomic age. Under the Cold War regime, ecosystem ecology established itself as a "big science.” Two notable figures in this transition on the West side were Howard T. Odum(1924-2002), an American ecologist who Hutchinson supervised in Yale, and his brother, Eugene P. Odum(1913-2002). With large grants from the U.S. Atomic Energy Commission (AEC), these prominent ecologists succeeded in mobilizing scientists and engineers for biogeochemical research programs for environmental assessment of nuclear developments. Along with growing nuclear threat, ecosystem ecology gradually transformed into a universal knowledge that unraveled Earth’ Biosphere, the global battlefield of the Cold War.
2-4-J 郡昌宏 北朝鮮では、1990年代の社会主義圏の崩壊と自然災害による飢饉を機に市場化が進んだことで、人々の意識や生活が大きく変わり、政権はそれに対応しつつ支配秩序を維持してきた。政治的・経済的・社会的諸問題に対する政権の認識や対応に関する従来の研究では、最高指導者の著作集や朝鮮労働党機関紙『労働新聞』、学術雑誌『経済研究』など、政策と密接に関係する公刊資料が主に分析されてきた。しかし、人々の意識や生活の変容を政権がどのように認識しているかを理解するためには、これらの資料だけでは限界があると思われる。このような問題意識のもと、本報告では、北朝鮮の代表的な月刊文学雑誌『朝鮮文学』に収められている短編小説を資料として北朝鮮の社会秩序の実相の分析を試みる。文学作品において、人々の意識や生活の変化がどのように描かれているかに注目し、そこから北朝鮮社会の実態や政権の社会認識をいかに捉えうるのかを探究する。
2-4-E In North Korea, the collapse of the socialist bloc and famine caused by natural disasters in the 1990s led to marketization. This phenomenon has drastically changed the nature of the society, including people's mindsets and lifestyles. The regime has maintained its dominance while adapting to those changes. Previous studies have mainly used official publications closely related to the policies, such as collections of the Supreme Leader’s speeches, Rodong Sinmun, the official newspaper of the Central Committee of the Workers' Party of Korea, and Economy Research, the exemplar economics magazine, to analyze the regime's perceptions and responses to various political, economic, and social issues. However, in order to more accurately understand the transformations in people's attitudes and lives, and how the administration recognizes them, we need to use other official sources. Considering these points, this report examines how the reality of North Korean social order can be analyzed through North Korean novels collected in Chosun Literature, North Korean literary magazine. This study will focus on how changes in people's attitudes and lifestyles are expressed in North Korean novels, and how the realities of North Korean society and the regime's perceptions can be analyzed through them.
分科会3:教育
3-1-J 何育汶 本発表の目的は、中国の大学入学試験の際に外国語の試験科目として日本語を選択する生徒が 増加しているという背景を踏まえ、四川省の日本語を外国語として選択している全学年の高校生を含む日本語学習者を対象に実施したアンケート調査の結果を報告する事である。また、ガードーナの統合的動機づけと道具的動機づけを理論的枠組みとして、四川省の高校における日本語学習者の動機づけの構成を分析するものである。その結果、これらの高校生は日本語学習において、統合的動機づけよりも道具的動機づけが強いことが示されたが、大学へ進学した後に日本語の学習を継続する生徒数は9割以上を示した。その学習動機の変容については、中国の大学での高校日本語既習者を対象として追跡調査を行う予定である。そのため、高校から大学へ進学した後、日本語学習者の動機づけの変化についても、さらに検討する価値がある。
3-1-E I will report the results of a questionnaire survey conducted on Japanese language learners including high-school students of all grades who have chosen Japanese as a foreign language in Sichuan Province, China. In terms of data, the paper uses Gardner’s integrative motivation and instrumental motivation as a theoretical framework to analyze the composition of Japanese language learners’ motivation in Sichuan High School. The results indicate that these high school students are more instrumentally motivated than interactively motivated in Japanese learning. At the same time, further discussion on the changes in learning behaviors of language learners when transitioning from high school to or across college could be a future topic worth exploring, which may help pinpoint some of the problems in Japanese course articulation between high school and college.
3-2-J 朱松松 中国では、食育の概念は2006年に導入されたと言われている。2022年3月、義務教育課程が改革され、食育の内容が提示された。この16年間、中国における食育は大きな一歩が踏み出されたと考えられている。また、中国の義務教育における食育のさらに実施・推進するため、これまでの研究を整理・分析し、その傾向や特徴を考察すること、および今後の課題を提示しておくことは、必要且つ意味あることと考えられる。そこで、本稿は中国の義務教育に焦点を当てて、現時点まで、食育に関する研究はどのような動向にあるか、またどのような特徴がみられるかを問題意識とし、文献レビューを通して先行研究を概観する。また、文献を整理・分析することで、今後食育に関してどのような課題があるかを明確にする。
3-2-E In China, the concept of food education is said to have been introduced in 2006; in March 2022, the compulsory education curriculum was reformed and the content of food education was presented. Over the past 16 years, food education in China is considered to have taken a major step forward. In order to further implement and promote food education in compulsory education in China, it is necessary and meaningful to organize and analyze past research, consider its trends and characteristics, and present future issues. Therefore, this paper focuses on compulsory education in China, and reviews previous studies through a literature review, with an awareness of what trends and characteristics have been observed in food education research to date. By organizing and analyzing the literature, this paper will clarify what issues need to be addressed regarding food education in the future.
3-3-J 石垣晴海 本研究は、日本における外国につながりを持つ子どもに教育支援を必要とする背後にある要因を考察したうえで、多国籍化が見られる地域において、地域の特徴および地域における外国につながりを持つ子どもの教育支援の実態と課題を明らかにすることを目的とした。本研究では、日本の学校教育制度に視点を定め、外国につながりを持つ子どもが置かれている言語習得における課題および学校における「暗黙の規範」に関する先行研究の一部を概観した。さらに、先行研究で明らかにされている自治体や学校における教育支援に関する事例の一部を考察したうえで、地域において多国籍化がみられ、地域の学校に日本語指導を必要とする外国につながりを持つ生徒が学区内で点在している自治体で活動するNPO法人の記述をもとに、教育支援の実態と支援上の課題からみえてくる自治体間で施策や支援の格差が生じる背景と課題を検討した。
3-3-E The purpose of this paper is to examine the important roles played by local governments, non-profit organizations (NPOs), and non-formal education settings in providing educational support to international children and their guardians, and to identify the issues underlying the challenges faced by supporters. It also sheds light on the educational challenges faced by students from backgrounds unfamiliar with the Japanese schooling system and Japanese policies. As many previous studies have pointed out, there are disparities in educational policies and support among local governments. When discussing the education of foreign children in Japanese society, attention tends to focus on "areas where many foreign residents live in the community.’ Since it has been suggested that the quality and quantity of educational support varies by municipalities, this paper explores the support and local characteristics of a municipality with large numbers of international residents and no concentration of students with Japanese language support in the school district. Local governments, schools, and NPOs are building networks to identify children who are unfamiliar with Japanese school education and need educational support, as well as their parents. However, the research reveals that it is difficult to identify students in need of educational support by nationality.
3-4-J 頼瑜瑩 2022年5月1日に『中華人民共和国職業教育法(改正案)』(以下、『職業教育法』と略称する)が施行された。今回の法整備は2021年に一連の教育改革の継続とみなされる。近年、中国は産業構造の転換や少子高齢化社会の深刻化などの問題を直面している。また、地域間の経済・教育格差は中国の「小康社会」を維持することにマイナスの影響を与えている。こうした背景の中で、成人に対する教育が再び喚起され、高度技術者の養成が必要となってくる。一方、2019年に公布された教育方針『中国教育現代化2035』に基づき、学習型社会を構築するとともに、生涯学習の重要性が提起されている。しかし、中国には生涯学習及び職業教育の定義と範囲が明白にされていない。つまり、職業教育は生涯学習体系に属するかどうかという問題である。本研究は2022年『職業教育法』を分析することによって、中国における生涯学習の位置づけを確認していく。
3-4-E The Vocational Education Law of China (Amendment) (hereinafter referred to as the 'Vocational Education Law') came into force on 1 May 2022. This legal development is regarded as a continuation of a series of education reforms in 2021. In recent years, China has faced problems such as the transformation of its industrial structure and the worsening of its declining birthrate and ageing society. In addition, economic and educational disparities between regions have had a negative impact on China's ability to maintain a 'moderately prosperous society'. Against this background, education for adults has been re-stimulated and the training of highly skilled technicians is needed. Meanwhile, the importance of lifelong learning has been raised, as well as building a learning-oriented society, in accordance with the education policy 'Modernising Chinese Education 2035', which was promulgated in 2019. However, the definition and scope of lifelong learning and vocational education are not clear in China. In other words, the question is whether vocational education belongs to the lifelong learning system. This study confirms the position of lifelong learning in China by analysing the 2022 Law on Vocational Education.
分科会4:文学・思想
4-1-J サンジェーエフ・アムガラン A・V・チャヤーノフ(1888 - 1937)はその小農理論と協同組合論によって主に農業経済学者として知られているが、小説『農民ユートピア国旅行記』(1920)は、チャヤーノフの思想を法・政治の領域で展開することを可能にしている。その際に手がかりとなるのは、小説にもその名が登場するP・I・ノヴゴロツェフ(1866 - 1924)の法哲学である。チャヤーノフが描いた農民ユートピアは、ユートピアといえど、終局的で完全な社会として描かれているわけではなく、歴史の進行とともに変化する余地が与えられている。このような描写は、ノヴゴロツェフの法哲学が問題としていたこと、すなわち、完全なる社会の実現を目指す思想(マルクス主義、アナーキズム)に異を唱えつつ、完全性の永遠の追求を可能にする条件を見つけ出すことと対応している。本報告では、両社の思想のこのような対応を明らかにすることで、農業経済学に限られないチャヤーノフの思想の射程を示したい。
4-1-E Although A. V. Chayanov (1888 – 1937) is known primarily as a Russian agrarian economist for his theory of peasant economy and cooperatives, his novel The Journey of my Brother Alexei to the Land of Peasant Utopia (1920) allows extending of Chayanov’s ideas to the area of law and politics theories. A clue to this is the legal philosophy of P. I. Novgorodtsev (1866 – 1924), whose name also appears in the novel. Chayanov’s peasant utopia, though a utopia, is not depicted as a final and perfect society but is given room for change as history progresses. Such a depiction corresponds to what was at issue in Novgorodtsev’s philosophy of law, i.e., finding the conditions under which the eternal pursuit of perfection becomes possible, as opposed to the ideas that aim to realize a perfect society (Marxism, anarchism). By clarifying this correspondence between the two thinkers, this report aims to show the scope of Chayanov’s thoughts, which is not limited to agrarian economics.
4-2-J イドジーエヴァ・ジアーナ 本発表では、2019年の芥川賞受賞作、今村夏子の長編小説『むらさきのスカートの女』を論じていきたい。多くの今村作品と同様にこの作品では暴力と排除のシステムが描かれており、周囲から疎外されている登場人物が中心に立っている。デビュー作『こちらあみ子』もそうだが、本作品でも黄色と紫という反対色のペアが形成され、二人のヒロインが二重写しになっている。見る側と見られる側、執着する側とされる側が入れ替わるプロセスに注目しつつ、その関係性や象徴性の分析を行いたい。『むらさきのスカートの女』の主人公は自分のことをほとんど語っていない上に、周囲から透明人間扱いされ、疎外されているが、そうした排除構造を最も分かりやすく表象しているのは、子供たちによって行われる遊びである。そのため、本発表では遊びの場面に着目しつつ、主人公像と排除のシステムを考察する。
4-2-E This presentation examines the 2019 Akutagawa Prize-winning novel, The Woman in the Purple Skirt by Natsuko Imamura. The novel, like many of Imamura's works, depicts a system of violence and exclusion, the characters are marginalized in their environments and, despite their efforts, constantly find themselves caught up in a cycle of violence against them. As in her debut work This is Amiko, here as well, a pair of opposite colors, yellow and purple, is formed, and the two heroines appear as a double resemblance. While paying attention to the process of switching the observer and the seen, the obsessor and the obsessed, our analysis will focus on the relationship breakdown caused by misunderstanding and miscommunication, and also symbolism among these two characters. The protagonist of The Woman in the Purple Skirt speaks little of herself, is treated as invisible and neglected by others around her. The most obvious representation of this structure of exclusion is the game played by children. Therefore, this presentation considers the image of the protagonist and the system of exclusion, focusing on these scenes.
4-3-J 後藤恵 ポルトガルのモダニズム詩人であるフェルナンド・ペソーア(1888-1935) はしばしば批評文や作品のなかで詩人セザーリオ・ヴェルデ(1855-1886)に言及している。都市や農村の人々の日常を描写したヴェルデの詩は当時のポルトガルの文壇には受け入れられず批判された。ペソーアは依然として広く読まれていなかったヴェルデの詩の革新性を高く評価するだけではなく自身の創作がヴェルデの詩学を継承していることを示唆しており、ヴェルデがペソーアに与えた影響は大きい。両者は都市の表象の文脈においてよく比較されるが、詩自体の構造や技法の関連性については検討の余地がある。本報告では、詩の主体の多様性や視覚的表現の積極的な使用といったヴェルデの詩の特徴やポルトガルのモダニズムの展開を踏まえたうえで、ペソーアがヴェルデをなぜ評価したのか、そして彼のいかなる部分を自身の創作に取り込んだのかについてペソーアのテクストを基に考察する。
4-3-E Fernando Pessoa(1888-1935) is one of the leading poets of Portuguese modernism. He often referred to Cesário Verde (1855-1886), the poet, in his critical essays and works. Verde lived a life that moved between urban and rural areas, describing in his poems the everyday life of the people he saw there. Verde is now considered an important figure in contemporary Portuguese poetry. However, his poetry was unacceptable and criticized by the Portuguese literary circles of the time. Verde's influence on Pessoa was significant, as he praised the innovation of Verde's poetry, which was not yet well-read, and suggested that his creation inherited Verde's poetics. Although there have been many studies comparing the two, they often have been discussed in the context of urban representations, and the relevance of the structure and techniques of the poems themselves remains open to examination. The presentation begins with a brief overview of the characteristics of Verde's poetry, such as the variety of poetic subjects, the active use of the senses, especially the visual, and the development of Portuguese modernism, which followed in the footsteps of other European countries. Then, the presentation considers, based on Pessoa's texts, why he valued Verde and what aspects of Verde he incorporated into his work.
4-4-J 新井悠子 本報告は、1929年~1935年の間にベトナム南部の都市、サイゴンで発行した『婦女新聞』という女性誌の言説分析から、理想的女性像について検討する。1920年代のベトナムの状況は、「第二次大開発」が行われるなかで、民族資本家の勃興、労働運動が活発になり、20年代後半からは政治運動が高まる時期でもある。『婦女新聞』を概観すると、西欧諸国・中国などのフェミニズムの動きを肯定的に紹介しつつも、基本的には良妻賢母論を唱えた。ただ注目することは、1910年代の女性誌が、民族の独自性として「儒教道徳」を示し、女性に対しても儒教の徳目の習得を求めた。しかし、1920年後半創刊の『婦女新聞』はその傾向が見えづらくなっている。1920年代という「近代化」が急速に進行する時期に、民族の論理/女性としての自己とのはざまのなかで、女性たちはいかなる理想的女性像を創出したのか検討する。
4-4-E This report examines the ideal image of women through an analysis of the discourse of a women's magazine called "Women's News" published in the southern Vietnamese city of Saigon between 1929 and 1935. The situation in Vietnam in the 1920s was a time of "Second Great Development," the rise of national capitalists, an active labor movement, and from the late 20s, a growing political movement. An overview of "Women's Newspaper" shows that while it positively introduced feminist movements in Western countries, China, and other countries, it also advocated the theory of the good wife and wise mother. It is noteworthy that women's magazines of the 1910s presented "Confucian morality" as the uniqueness of the nation, and demanded that women also master Confucian virtues. In the 1920s, when "modernization" was progressing rapidly, we will examine what kind of ideal image of women was created in the context of the logic of the nation and the feminine self.