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2011年7月 月次レポート(太田悠介 フランス)

ITP-EUROPA月次報告書(7月)

太田 悠介

 8月28日からポルトガルのポルトで開催される国際学会「国境、移動、創造――現在(いま)を問うこと(Borders,Displacement and Creation : Questioning the Contemporary)」への参加を予定しています。今回の学会では英語、フランス語、そしてポルトガル語が主要言語として指定されており、発表者はそのなかからいずれかの言語を選択することが許されています。ただしそれと同時に、言語の違いによって内容の理解が妨げられることがないように、発表原稿の要約と全文をあらかじめ英語で提出することを求められていました。今月は主としてこれに取り組みました。しかし、渡仏後は研究の対象がフランス語のテクスト中心となり、英語での作業から疎遠となっていたため、原稿の執筆には予想以上に苦労しました。英文のチェックなど友人の手も借りて、最終的には何とか完成にこぎつけることができました。

 ITP-EUROPAプログラムのもとで昨年の12月にボローニャで開催されたシンポジウムでは、研究の全体的な方向性を明らかにすることに重点を置いた発表を行いました。それに対して今回の発表では、この研究のプランの一部分を取り出して扱い、具体的な論証の道筋を提示するような発表にしたいと考えています。「国境、移動、創造」という国際学会の総合的な方向性を念頭に置きつつも、これと私自身の研究テーマをできる限りすり合わせて、今回の発表が博士論文の準備作業となるように心掛けました。
 タイトルは「政治的なものを求めて――ルイ・アルチュセールとエティエンヌ・バリバールにおける階級から大衆への移行(À la recherche du politique : le passage des classes aux masses chez Louis Althusser et Étienne Balibar)」としました。本発表では、階級概念による社会事象の説明の正統性が揺らぎ始めるというフランスの戦後の社会的、思想的状況の変化を前にして、アルチュセールとバリバールの両者が階級よりも広範な集団を指す大衆概念を理論化して取り込もうとする過程を描き出すことを目的としています。そして、両者におけるこの問題系の移行が、階級から大衆へという同時代の社会的なコンフリクトの中心の移行を理論的に反映しようとした努力の産物であることを、結論で示したいと考えています。
 学生の発表には一週間のプログラムのうち四日間が割り当てられ、さらにテーマごとに集約された4つのパネルに分かれ、連日これらのパネルが同時並行で行われます。私の発表は韓国の1990年代の運動をノマディズムと形容する発表や、ジャック・デリダの民主主義論、さらにヨーロッパのラディカル・デモクラシー論などの発表と同じパネルに組み込まれています。研究内容に比較的関連するテーマが多く、他の参加者の発表からも色々と学ぶことができればと考えています。

 7月はフランスでは大学の年度終わりの時期にあたります。これに合わせてパリ国際学生都市も入居者が大きく入れ替わります。規定では居住期間は最大で三年間と定められています。この規定にしたがって今年も幾人かの友人が学生都市を離れることになり、引っ越しの手伝いに駆けつけました。新年度の始まりの9月をむかえると、私自身も二年間を学生都市で過ごしたことになります。学生都市を居住先とすることで得られる恩恵は少なくありません。与えられた残りの一年間を無駄にすることのないよう、毎日を大切に過ごしてゆきたいと思います。

(ポルト学会 ポスター:http://ifilosofia.up.pt/gfmc/aesthetics/docs/PORTO%202011_Cartaz
.pdf

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