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2014年1月 月次レポート(水沼修 ポルトガル)

月次レポート(1月)

水沼 修

 現在,中世ポルトガル語テキストにおける,「ter/haverの直説法現在完了+過去分詞」の形式が表す意味について調査を行う上で,より客観的な方法を模索しているところです.

 ある例文を取り上げる際,大きく分けて,それが,(1)「結果構文」として用いられている可能性,(2) 現代語の「単純過去」に相当する意味で用いられている可能性,(3)現代語のように「反復・継続」を表している可能性,を考慮した上で,意味の分析をする必要があります.その例において形式がどのような意味を表しているかを判断するのは必ずしも容易ではありませんが,これまでの諸研究では,判断の根拠があまり明確にされないまま,研究者が前後の文脈から判断し記述する場合が多く見られました.
 意味の特定には,前後の文における動詞の時制や,当該形式と共起する副詞節などが大変参考になりますが, 用法を特定するための情報が少ないケースも珍しくありません.そのような際には,前回紹介したUlrich Detge (2000)1のように,構文の主語が,過去分詞で表される動作の主体であるか否かに注目することで,形式の意味の特定に一歩近づくことができることもあります.ただし,これについても,動作主の一致の有無を常に断定できるとは限りません.

 もう一つのアプローチとして,翻訳の元となったテキストと対照するという方法が挙げられます.たとえば,Mafalda Frade (2011)2は,古典ラテン語で書かれたキケロの「De Officiis」と,15世紀に作成されたとされる同作品のポルトガル語版である「Livro dos Oficios」を比較した上で,翻訳版における「ter/haverの直説法現在完了+過去分詞」が,オリジナル版ではどのような形に対応しているかに注目し,同形式の意味の調査を行っています.全ての例において,対応する形が見られるわけではありませんが,意味を推定する上で重要な情報を与えてくれることは確かです.

 報告者も以前,15世紀末に作成されたとされるポルトガル語テキスト「Estoria de muy nobre Vespasiano」における複合時制形式に関し,その翻訳元と考えられている中世スペイン語のテキストとの比較を通じ,形式の意味を特定する試みを行いました.上述の「Livro dos Oficios」のケースに比べ,翻訳版が作成されるまでそれほど長い期間が空いていないこともあり,両者で対応が見られるケースがほとんどで,比較対照から得られた情報を踏まえた上で意味の分析を行うことができました.

 中世ポルトガル語テキストの中には,ラテン語をはじめとして,他の言語で書かれた作品を翻訳したものが多くあります.「Estoria de muy nobre Vespasiano」のように,対照できる例が多く見つかるケースは比較的珍しいと考えざるを得ませんが,翻訳元が明らかになっている作品については,これからも,積極的に比較対照を行っていきたいと思います.

 

1 Detge, Ulrich (2000). Time and truth: The grammaticalization of resultatives and perfects withina theory of subjectification, Studies in Language 24:2, 345-377.

2 Frade, Mafalda (2011). Teer/aver + particípio passado no 'Livro dos Ofícios' do Infante D. Pedro. In Diacrítica. No prelo.

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