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2013年8月 月次レポート(近藤野里 フランス)

ITP-EUROPA
月次レポート2013年8月

近藤野里(パリ第8大学)

 8月のパリ、暑さも和らぎ非常に過ごしやすい日が続きました。今月は、まずRené Milleran (1692) の文法書La nouvelle grammaire françoise.の電子化に集中的に取り組みました。この文法書は博士論文で使用するコーパスとなります。合計400ページの文書を手打ちでワードに起こす作業を行っていますが、月末に300ページの打ち込みが終了しました。来月もこの作業を引き続き行い、コーパスを完成させる予定でいます。また、来月の後半には完成したコーパスのデータ処理を行う予定です。
 博士論文の内容に関しては、未だ先行研究をまとめる作業に苦戦しています。今月は特に最適性理論(Optimality Theory、通称OT)を使用したリエゾンの理論アプローチについての文献をいくつか読みました。(例えば、Tranel (2000). Aspects de la phonologie du français et la théorie de l'optimalité, Langue française 126, 39-72.、Eychenne (2011). La liaison en français et la théorie de l'optimalité, Langue française 169, 79-102. 等)。
 今月は、フランスに提出する予定の博士論文の題目を設定し(Variations sociolinguistiques dans le système vocalique du français parlé. - Étude sur un corpus de films des années 1930、和訳:フランス語話し言葉における母音体系の社会言語学的変異 -1930年代フランス映画コーパスを用いて-)、 研究計画の作成を行いました。
 フランス語学において映画を言語学的研究に使用した前例はAbecassis, M. (2005). The representation of Parisian Speech in the cinema of the 1930s.以外は現時点では、(報告者の知る限りにおいては)見当たりません。1930年代の映画に出演する俳優はもともと舞台俳優であることから話し方が特殊であるという指摘があり、映画を研究に使用する上で「映画で話されるフランス語は実際に話されたフランス語として扱うことが可能なのか?」という問いが想定されました。これについては、「映画コーパスは人工的なデータであり、実際のフランス語話し言葉について決定的な結論を描くことはできない。しかし、脚本家と役者が1930年代のパリで話された言葉として認識したものが反映されている『計画された話し言葉』を扱うことは可能である」とAbecassis, M. (2005:357)が述べています。このような前提に基づき、先述の問いに対して当時のフランス語話し言葉のステレオタイプを研究することが可能であると返答できると考えます。
 研究計画を作成するに当たって、17世紀末から20世紀の後半にかけての母音の通時的変化について書かれた論文をいくつか通読しました。フランスでの博士論文では1930年代のフランス映画をコーパスとして使用するため、フランス国立図書館内にあるフランス国立視聴覚研究所(Inathèque, 通称INA)でコーパスとして使用する映画の候補を何本か視聴しました。労働者階級の役を演じることが多いJean GabinやArlettyという俳優が出演している映画を数本見ることで、当時の発音のイメージが少し明確になりました。

 

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