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2013年7-8月 月次レポート(太田悠介 フランス)

ITP-EUROPA月次報告書(7月‐8月)

太田 悠介

 一時帰国で7月の前半を東京で過ごしたのち、パリに戻ってきた。昨年度に引き続いて留学の機会を与えてくださったITP-EUROPAプログラムの関係者の皆さまに心よりお礼を申し上げたい。
 二週間程度の短い滞在だったが、ITP-EUROPAプログラムの派遣報告会、本学の中山智香子先生の授業をお借りして行った口頭発表、友人が「カルチュラル・タイフーン」の枠内で行ったセッション「エメ・セゼールとの対話――植民地主義・アフリカ・シュルレアリスム」への参加など、濃密な日々となった。それぞれの機会を通じて、あらたな宿題をいただく。
 帰仏後は、主として国立図書館に通った。準備中の訳書ジェラール・ノワリエル『フランスというるつぼ』について、担当箇所の翻訳の最終的な見直しを行っているほか、クロード・ルフォール『民主主義の発明』の共訳の話をいただいたため、その下訳を始めた。そのためこの間は、午前中に自宅で翻訳を2ページ程度進め、午後からは国立図書館で博士論文に取り組むという学期中よりも規則的な日々を過ごすことになった。
 博士論文と翻訳を並行して進めることには、つねに時間の制約という問題がつきまとうが、その一方でエティエンヌ・バリバールの思想を主題とする博士論文に積極的な効果も生んでいるように思う。論文を執筆している最中に言葉がみつからずに探すとき、午前中に目にした表現や言い回しに助けられることがしばしばある。また、ノワリエルの場合には「移民史」という観点、ルフォールの場合にはルフォールが「全体主義」と概括するソヴィエトの体制およびこれに対する東欧世界からの批判への着目という観点に立ち、それぞれの視座から20世紀を浮かび上がらせるという作業を行っているため、20世紀後半に位置づけられるバリバールの思想を叙述する博士論文の一文ずつが、こうした視座によって吟味されるような感覚を覚えている。
 夏休みの期間中には、以前作成した博士論文の目次に再び手を入れ直し、バリバールのマルクス/マルクス主義論を中心に執筆を行った。その過程で、「世界システム論」を専門とするイマニュエル・ウォーラーステインとの共著『人種・国民・階級』(1988)や、バリバールの単著『デモクラシーの境界』(1992)を読み直すことになった。この時期の著作は、バリバールの仕事のなかでも、とりわけ綿密な論述とそれに裏打ちされた迫力で際立つことをあらためて確認した。この時期のテクストの内容のみならず、その文体の魅力までをも再現する叙述を心がけたいと思う。

 

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