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2013年7-8月 月次レポート(横田さやか イタリア)

月次レポート 2013年7-8月 
博士後期課程 横田さやか 
派遣先:イタリア、ボローニャ大学

 6月末、ボローニャ大学芸術学部において博士論文最終審査が実施され、博士号(映画、音楽、演劇学)を取得した。疲労感と緊張感はそうたやすくほぐれはしなかったが、7月も、継続して課題を進めることに専念した。今月の課題は、国際シンポジウムと学会発表の準備に取り組むことであった。まず、9月に予定されている国際シンポジウムにおける研究発表に備え、発表の要旨を執筆し、発表原稿の草案に着手した。発表はイタリア語で行い、博士論文のなかで言及したテーマから、ジャコモ・バッラにみられる身体表象の変遷について取り上げる。次に、10月のイタリア学会年次大会において研究発表を行うことになり、そのレジュメ作成に取り組んだ。学会発表では、未来派活動期のなかでも、とりわけいまだ日本では十分に考察されていない後期に注目し、その時期の主題である「航空美学」に絞って考察を行う。発表は日本語で行うため、イタリア語で執筆した内容を日本語に変換していく作業に取り組むことになった。これまではイタリア語で伝えることに専念してきたため、ほとんど初めての作業であり、想像していた以上に困難で不自由さを感じた。しかし、その客観的工程こそが自論を再考する助けになったといえる。今後日本国内で研究成果を発表していくにあたって重要になる翻訳の問題についても、改めて考えさせられた。
 もう一点、今月の課題に掲げていた点に、一次資料の調査を新たに開始することがあったが、残念ながら望んだ通りには課題を消化しきれなかった。博士論文執筆中には優先順位を考え敢えて手をつけなかった資料のなかに、いくつか非常に興味深いものがあり、それに着手するためにイタリア国内のアーカイヴを訪ねることを考えていた。しかし、ボローニャで滞在していた家を引き払うにあたって、なにかと煩雑な問題に見舞われ、研究を最優先に進めることが叶わなかった。荷造りのために、膨大な量の資料、研究書等の整理にも、想像以上に時間がかかり、それは気の遠くなるような作業だった。書籍、資料の量と重みを改めて実感しては呆然となり、更にはそれらが想起させるプレッシャーの記憶が呼び起こされては疲労感が倍増し、むしろ全て捨ててしまいたいという衝動に駆られることすらあった。一方で、資料、書籍を項目ごとに分類し、それぞれに重要度をつけるためにぱらぱらとページを開いてみるなどしてひとつひとつ触れていくうちに、自ずと研究テーマに対する自分の概念をマッピングする作業に繫がり、また、博士論文を脱稿するまでの執筆内容変更の紆余曲折の過程を思い起こす作業にもなった。博士論文計画の練り直しを重ねていた当初は、ひとつの主題に対して分析、定義を行ってはそれを否定していく自己否定の繰り返しであった。その道のりが、書籍やコピー資料のページ端のメモ書きに見て取れた。その都度なにをアンチテーゼとしてきたかが思い起こされ、それは今後の成果発表の場で、質疑応答などの際に役立つと思われる。本棚の整理をする作業そのものが、博士論文という課題から開放されたいま、自分自身に新たな課題を課し、新たな研究生活のリズムを築くために、思いのほか助けになった。
 最後に、この場をお借りして、ITP-EUROPA関係者の方々、先生方、事務のみなさまへ改めて感謝を申し上げたい。2010年9月より派遣していただき、本学とボローニャ大学間で締結された共同指導共同学位授与制度に即して博士号を取得することを最終目標として研究を進めてきた。無事に目標を達成できるかどうかは、日々の研究の進捗状況にかかっていたが、十分に評価されるに値する博士論文の完成には、先生方からの厳しいご指導と強い励まし、そして事務の方々からの細やかなサポートがなければ、実現していたかどうかわからない。これをもって、最後の月次レポートになる。長きにわたってのご指導とご支援、ほんとうにありがとうございました。

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