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2013年4月 月次レポート(太田悠介 フランス)

ITP-EUROPA月次報告書(4月)

太田 悠介

 今月は社会思想史学会の年報『社会思想史研究』に投稿していた論文の最終稿提出のための修正作業を行った。表題は「矛盾と暴力――エティエンヌ・バリバールの政治哲学序説」である。
 『スピノザと政治』(1985)と世界システム論の代表的論者イマニュエル・ウォーラーステインとの共著『人種・国民・階級――揺らぐアイデンティティ』(1988)に代表される1980年代半ば以降、バリバールは自らの思想を「政治哲学」と概括するようになっている。そして、1960年代から1981年までフランス共産党の内部にとどまっていたかつてのバリバールにおいてはありえなかったような、「民主主義」、「人権」、「市民権」といったあらたな概念群が頻出する。今回の論文では、矛盾と暴力というふたつの概念に着目することで、この「マルクス主義」から「政治哲学」へという立場の移行を歴史的かつ思想的に跡づけることを目指した。
 国民国家内部で生じるフランス人労働者の移民労働者に対する人種差別という暴力の問題は、生産力と生産関係の矛盾だけでは説明しきれず、その意味で過剰であること、この点がバリバールによるマルクス主義の批判的な検討の出発点である。ここから、政治と暴力の二項を不可分なものとして捉えながら、同時に政治の可能性を考えるというバリバールの政治哲学の基本線が浮かび上がってくる。
 今回の論文ではバリバールの政治哲学への導入という点に絞って論じたが、執筆の過程で削った論点は少なくない。とりわけ、1980年代からフランスで復権が謳われる政治哲学の大きな潮流のなかで、バリバールの政治哲学がどのような位置を占めるのかという点は、今後博士論文であらためて論じなおすつもりである。

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