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2013年4月 月次レポート(近藤野里 フランス)

ITP-EUROPA
月次レポート2013年4月

報告者:近藤野里(パリ第8大学)

 先月末に体調を崩し、体力の回復に少し時間がかかったため、今月は少しゆっくりした日々を過ごしました。ただし、幸運にも今月は特に発表や論文の〆切がなかったため、時間を気にせずじっくり文献を読むことができました。また、サマータイムが始まり、お日様が出ている時間が長くなったこと、春になって天気が良い日が増えたこともあって、精神的に明るくなったと思います。図書館を20時に出ても外は明るく、家路につく足取りも軽いものです。
 今月は3月にパリ第8大学の音韻論研究会で発表したパワーポイントの内容を文章に起こす作業を行いました。この作業の過程で、例えば18世紀フランス語の音韻体系について改めて考え直す機会がありました。例えば、Martinet(1969)は、Vaudelin(1713, 1715)の文献を基に18世紀の母音体系は、8つの母音が長短の対立を持つことで、16個の母音音素で構成されていた、としています。さらに、現代フランス語においては、音声変化の過程で、長短の対立がなくなり、長母音が音価の異なる母音(例えば/œ, ɔ, ɑ/)に変化したと分析しています。一方で、Morin(1986). "la loi de position ou de l'explication en phonologie historique", Révue québécoise de linguistique, vol.15, n°2, p.199-231.では、もともと18世紀以前には長短の対立がある一方、既に/œ, ɔ, ɑ/は音素に含まれていることが明示されています。Martinet(1969)が提示した18世紀の音韻体系は少し単純過ぎることがわかりました。Vaudelin(1713, 1715)が作成・使用した発音記号自体についても、同様のことが言えます。ただし、これについては同時代の文法家の記述を基にさらに考察する必要があるでしょう。また、今月はリエゾンに関する16世紀の文法家の記述が書かれている文献(Tory(1529)、Sylvius(1531)、Palsgrave(1530)など)を少しずつ読み進める作業を開始しました。

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