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2013年2月 月次レポート(横田さやか イタリア)

月次レポート 2013年2月 
博士後期課程 横田さやか 
派遣先:イタリア、ボローニャ大学


 今月も引き続き、「イタリア未来派のダンス」を論考する博士論文執筆作業に専念した。最近は、研究の発展のために有意義であると思われる企画展やシンポジウム等が開催されていても、気分転換をする余裕もなく、ひたすら原稿に向かう日々を過ごしている。
 既に執筆を終えた第一章については、内容としてはある程度納得のいくものが仕上がった。第一章では、未来派が展開した前衛芸術運動のなかで、身体芸術である舞踊が、いかに魅力的な主題として機能したかを詳らかにすることを試みる。未来派マニフェスト、絵画、彫刻、装飾美術、また、バレエ・リュスや同時代パリの芸術家との交流が伺える書簡等が考察対象となる。本章の特徴は、論題に対して先行研究がこれまで掘り下げてこなかった視点を提示していることである。まず、創立者マリネッティの優れた身体感覚を考察する点が本論文のひとつの強みであるといえる。マリネッティにとって、表現媒体はあくまでも「言葉」であって、彼自身は舞踊家でも振付家でもないが、同時代のモダン・ダンスの誕生と並行して、新しい「踊る身体」を編み出すに足りる身体的敏感さをいくつものマニフェストの中で見せているのだ。そのマリネッティとバレエ・リュスの興行主ディアギレフの「共鳴」、未来派アーティストと、ピカソらバレエ・リュスとコラボレーションをしたアーティスト等の影響関係を明らかにする点もまた、本章の強みである。
 執筆修了後しばらく間を置いたうえで、今月、第一章の各節をさらにいくつかに分断し、改めて読み直し作業に取り組んだ。執筆を進めるなかでとくに注意すべき点のひとつは、一次資料に関わる情報を整理しその明確さに努めることである。というのは、資料情報の混乱や研究者間での見解の食い違いは未来派研究につきものであり、それは、正確さに欠ける作業や、作業に関わった研究者の独断や解釈に過度に依存した内容が更新されずにきたことが要因となっている。68年にようやくマニフェスト集が出版されたにしても、未来派に関わる作品やマニフェスト、書簡等が正確にアーカイヴ化されている例はごく僅かであり、ほとんどの資料は海外に流出したか、個人所有されているのが現状である。4年前の未来派100周年を機に研究書や企画展カタログが多く出版され、一次資料の見直しの風潮があるこんにちでは、先行研究を鵜呑みにせず、原典に忠実にその資料情報を明らかにすることが不可欠であると思われる。そのため、確認作業では、脚註の正確さ、明確さにとりわけ気を払い、何度か書き直しや情報の補足を行った。
 また、第一章の確認作業と並行して、第二章の執筆を進めた。今月中にボローニャ大学指導教員の面談指導が予定されていたが、海外出張や学生の卒業試験が重なり、指導教員がご多忙を極めたため、来月に延期された。そのような中でも、研究室へ執筆原稿を届けに伺ったときには時間を割いてくださり、作業の進捗状況のご報告をさせていただいた。時間が飛ぶように過ぎていく毎日であるが、来月も引き続き執筆中の第二章に取り組む予定である。

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