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2012年9月 月次レポート(佐藤貴之 ロシア)

活動報告(9月)

執筆者:佐藤貴之
派遣先:ロシア国立人文大学

 今月からITP-EUROPAの派遣二年目がスタートした。台風が迫り、欠航が危ぶまれる中、9月17日に韓国経由で無事モスクワまで到着した。
 渡航後まもなく、モスクワへ出張中の沼野教授とお会いし、派遣先大学の副学長ドミートリー・バーク氏との面会へ向かった。バーク氏との面会では本学との研究協力体制に関して審議するほか、筆者の博士論文共同審査に関する準備体制について貴重な意見交換を行った。御多忙の中、非常に好意的な待遇をしていただいたバーク氏、ならびに筆者のために奔走していただいていた沼野教授に心から感謝したい。
 今月末は修学の一年目から二年目への進級審査が行われた。この点に関しては大学院係より突如通知されたため、思いもよらぬ事態であったが、早急に対応し審査を受けることができた。審査では研究計画書、活動報告書、業績の一覧を提出し、所属する研究科の教授陣たちと研究内容や方向の妥当性、研究の進捗状況に関して審議し、無事審査を通過することができた。審査に立ち会っていただいた指導教官のレクマーノフ教授、バーク氏、ボイコ教授、チェルカスキー教授からは大変貴重な指摘を頂戴した。審査での指摘を生かし、実り多い一年間にできるよう尽力したい。審査終了後、大学院での修学二年目終了時(2012年9月)も同様の審査を受けることを研究科からは事前に連絡を頂戴した。
 9月28日には大学付属の書店「ケンタウロス」でプラトーノフ研究会が開催された。今回の企画は、ドイツのプラトーノフ研究者ハンス・ギュステルが著書『ユートピアの裏表:プラトーノフ創作のコンテクスト』(新文学概観社出版、2012年)を出版されたことを記念して開催され、会場には出版社の編集者、副学長のバーク氏、プラトーノフ研究者として広く知られるナターリヤ・コルニエンコらが出席し、2時間に及ぶ討論会が開催された。プラトーノフは筆者も関心を持ち研究を進めている作家であるだけに、大変興味深く討論を拝聴した。
 今回の研究会で興味深かったのはロシアとヨーロッパの間に広がるメソッドの差である。ロシア文学者らが自国文学の研究で一次資料に重点を置くのは当然であるが、その点、外国文学としてロシア文学研究に取り組むハンス氏は「開かれたテクスト」としてプラトーノフ創作に取り組んでおり、ロシア文化の枠組みを越えた幅広い文脈から作品分析することを方針としていた。こうしたメソッドの違いもあり、ギュステル氏とコルニエンコ氏の間では熾烈な議論が展開された。外国文学としてロシア文学をロシアで研究している外国人の筆者にとっても、いずれのメソッドをとるべきか、身につまされる思いで討論を拝聴した。
 また指導教官のレクマーノフ教授が研究書『評伝エセーニン』 を出版された。エセーニンは筆者の研究対象であるボリス・ピリニャークやアレクサンドル・ブロークと関係の深い詩人であり、早速購入して読了した。教授の問題意識は筆者の研究とも大いに共通した点があり、重要な参考文献として大いに活用したい。
 大学も始業を迎え、今月から講義が次々と開催されている。昨年度は開講されなかった講義から重点的に履修し、専門に関する幅広い教養を培うとともに、自らの論文執筆も急ぎたい。

以上

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