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2012年7月 月次レポート(佐藤貴之 ロシア)

活動報告書(7月)

執筆者:佐藤貴之
派遣先:ロシア国立人文大学

 今月は7月14日に開催されたスラヴ人文学会大会(会場:早稲田大学)への準備、ならびに同学会に提出する論文の作成に奔走した。また、以前から作業を進めていた『ブルガーコフ戯曲全集』が刊行の運びとなり、提出する翻訳の修正作業を行った。
 先月の報告書でも言及したが、報告者は東京外国語大学非常勤講師の古川氏、ロシア国立人文大学東洋学研究所教授のA・N・メシェリャコフ氏と執筆者の三名、司会は横浜国立大准教授の大須賀氏、芸術学研究所に所属する鈴木氏からなり、モスクワ側の三名はスカイプを使用して、東京の会場とセッションした。日露間の文化研究の比較に焦点を当てたセッションであったが、有意義な二時間を送ることができた。メシェリャコフ教授は30年代の視覚芸術における「ハード」な表象、「ソフト」な表象に着目し、前者を軍国主義的、後者を日本の伝統文化的特質を備えたものとして定義し、これら二つの要素の相関関係を彫刻家、朝倉文夫の創作をもとに分析した。また、教授は谷崎潤一郎の創作と全体主義に関する考察を加え、有意義な視点を得ることができた。執筆者は1920年代における西欧文明とロシア文化の関係性を思想家、文学者の創作をもとに分析した。古川氏は、長年の研究対象であるA・プラトーノフの代表作『土台穴』にみられる動物と人間の表象に関して考察を加えた。スラヴ人文学会の大会開催に協力していただいたメシェリャコフ教授には深く感謝する次第である。
 また、執筆者はこれまで比較文学の観点から論文をいくつか提出しているが、学会終了後はメシェリャコフ一家(奥様も日本文学者)と日本とロシアの比較研究に関して有意義な意見交換をすることができた。別荘へもご招待いただき、大変貴重な知的交流を続けている。教授からは東洋学研究所と共同研究のお誘いを受けており、九月以降の派遣二年目では東洋学研究所とも連携をとりつつ研究を行うこともできる。学会の報告論文は今年度刊行される『スラヴィアーナ』に掲載される予定である。投稿論文の提出締め切りは8月末のため、脱稿を目指して奔走している。
 執筆者は学部在籍の頃よりミハイル・ブルガーコフ(『巨匠とマルガリータ』の著者として知られる20世紀の文豪)の戯曲を上智大学の学生劇場で上演、演出してきたが(『ゾーイカのアパート』、『至福』等)、ようやく戯曲の翻訳が出版されることとなった。共訳者としてはブルガーコフ研究者として知られる大森氏(東京大学)、秋月氏(スラヴ研究センター)がいる。刊行は今年の秋と聞いている。また、戯曲集の解題として単行本を出すことが決まっており、解説、戯曲誕生の経緯に関する考察を執筆することが求められている。博士論文の執筆に支障が出ない程度で作業を進めたい。
 モスクワにはロシア文学研究の牙城として名高いゴーリキー記念世界文学研究所があるが、この研究所に勤務する研究者のお誘いで11月に同研究所が開催する国際学会に参加を求められた。執筆者は1930年代の文学作品における喜劇的な表象に関して報告を行う予定である。最前線をいく各国の研究者らと密接な連携を生んでいくためにも、次の学会ではなんとしても力作を報告する必要がある。従って、士気を高めて日々の作業にいそしんでいる。
 最後になるが、ロシアの大学は8月末までが夏休みで、それと関連して大学図書館が完全に閉鎖されてしまった。日本では考えにくい事態である。そのため日々の作業は主にレーニン図書館で進めているが、日本人研究者と会うことがあり、良い刺激を受けている。
 気合を入れて来月も作業にのぞみたい。

以上。

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