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2012年6月 月次レポート(佐藤貴之 ロシア)

活動報告書(6月)

執筆者:佐藤貴之
派遣先:ロシア国立人文大学

 今月は7月14日に開催されるスラヴ人文学会大会(会場:早稲田大学)への準備、ならびにヒルデスハイムセミナーで報告する論文の資料収集に奔走した。
 スラヴ人文学会は、スラヴ言語系研究会「スラヴィアーナ」を前身として2009年に学会として再編された団体で、再編以降はほぼ毎年参加してきている。今回の大会は個人研究報告、第一部「リバイバルとしての創作」、第二部「文化研究の日露比較」の三部構成からなっている。今回、執筆者が参加するのは第二部で、日露間における文化研究の比較に重点をおいて各報告者がプレゼンテーションを行うこととなっている。報告者は東京外国語大学非常勤講師の古川氏、ロシア国立人文大学東洋学研究所教授のA・N・メシェリャコフ氏と執筆者の三名、司会は横浜国立大准教授の大須賀氏、芸術学研究所に所属する鈴木氏(モスクワ)。モスクワ側の三名はスカイプを使用して、東京の会場とセッションする。メシェリャコフ教授は日本文化研究の大家で、『太古の日本―文化とテクスト』(2006年)、『日本人とは―歴史、詩学、日本の全体主義と舞台装飾術』(2009年)などの著者として知られており、メシェリャコフ教授と同じ場で報告できることは、大変光栄である。
 今回の報告では「1920年代のソヴィエト文学における西と東のパラダイム再興に関して:探究、あるいは克服としてのスチヒーヤ」と題した論文を紹介する。スチヒーヤは、諸外国語には訳しえないロシア語特有の概念として一般に専門家の間では認識されており、無理に日本語に訳そうとすれば「自然発生的な力」、「世界を構成する根源要素」、「盲目的な力」といった説明が加えられることが多い。
 今回の論文では、19世紀のロシア思想史で繰り広げられた「ロシアは西と東のいずれへ進むべきか」という議論が20世紀を迎え、いかなる変容を成し遂げたのかを考察する。中でも、革命後にサンクトペテルブルグ、モスクワで興った文学者集団「セラピオン兄弟」、「スキタイ人」の創作を中心に考察する。「セラピオン兄弟」のメンバーは革命後に作家としての立場を確立した若手が多く、その中枢をなしたのはユーモア作家として評価の高いミハイル・ゾーシェンコ、西欧派として有名な早世のユダヤ系ロシア語作家レフ・ルンツ、そしてスラヴ派の影響が強いフセヴォロド・イワーノフがいる。
 その一方、「スキタイ人」には、アンドレイ・ベールイ、アレクサンドル・ブロークといった、革命前に名をはせた詩人のほか、歴史家として高名なイワノフ=ラズームニク、革命後に登場した抒情詩人セルゲイ・エセーニン、同伴者作家として知られるボリス・ピリニャークが集い、芸術における「ロシア性」をアジア的な表象のなかに追い求めた。学会終了後は、研究成果を学会誌に掲載することが求められている。
 また、ヒルデスハイムセミナー関連では、ごく最近刊行された研究書を入手した。『ロシアとドイツ:19世紀から20世紀のロシア文化における哲学的対話』(G・A・チメ、2011年)という大著で、まさに執筆者の関心と合致した研究書であり、20世紀のロシア文化とドイツ哲学の関連性を解読していく上での非常に重要な文献である。
 作業や課題は山積しているが、一つずつ処理していきたい。 

以上。

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