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2012年3月 月次レポート(佐藤貴之 ロシア)

活動報告書(3月)

執筆者:佐藤貴之
派遣先:ロシア国立人文大学

 今月は大学院での授業をうける傍ら、博士号取得事前試験の準備に当たる。
 大学院の授業では科学哲学、ならびに外国語の科目を受講。現在、外国語の授業では各院生が先行研究の要約を執筆するタスクが課されている。ロシアの研究機関ではしばしばこの要約を提出することが義務付けられる。この要約はロシア語ではレフェラートと呼ばれるが、どうやら日本語には訳せない類のジャンルにあたる。従って、担当の教官から執筆スタイルの指導をうけつつ作業に当たっている。
 レフェラートでは、先行研究を洗い出し、その内容をまずは要約する。その後、先行研究の特徴を分析し、問題点や不明な箇所を明らかにする。最後に自らのアプローチの妥当性を論述する。学術論文とは違い、自らの命題を提示、論証することが目的ではないため困難を覚えることが多い。レフェラートでは先行研究との位置づけ、問題設定のアクチュアリティーを明確に出すことが厳しく求められるため、研究の姿勢つくりの上ではもちろん非常にいい勉強になる。博士論文提出の際には、先行研究と自らの研究の関係性まで明確、かつ簡略に記述したアフト・レフェラートというものの提出が求められる。このアフト・レフェラートは図書館に保管され、論文等でも引用することが許可される研究資料としてみなされるようになる。現在、執筆中のレフェラート提出は博士号取得事前試験を受ける上での必要条件として指定されている。同様のレフェラートを科学哲学の試験でも提出しなくてはならないが、こちらはシュペングラーとソビエト文学の関係性をテーマとしている。執筆を急がなくてはならない。
 同様に外国語の授業では「命題の要約」なる資料を作る訓練を受けている。「命題の要約」は副次的な情報をすべて削除しつつ、研究書のテーマ、主張、問題意識などを余すことなく、章立ての形で再構成する作業になる。この作業を日常的に行うことで、論文執筆を円滑に進めることが可能となる。たとえば、研究書を読んだ際にメモを取ることは非常に重要だが、一目で研究書の内容と特徴が把握できるコンパクトな資料といえばわかりやすい。今度とも大いに重宝する技術であることは間違いない。
 現在すすめている研究では、20世紀初頭に勃興したロシア・シンボリズムを代表する詩人アレクサンドル・ブロークと十月革命の関係性を追っている。ブロークは革命を受け入れ、1920年代のソビエト文学に多大な影響を与えた芸術家だが、革命を「スチヒーヤ」と結びつけ、当時の文壇では幅広い議論と無数の亜流をもたらした。スチヒーヤは要素や本能、不可抗力など、さまざまな用語が当てられる非常に指示範囲の広い言葉である。興味深いことに、ソビエト初期では革命をマルクス主義やボリシェビズムとは結びつけず、民衆の不可抗力的、あるいは自然発生的な現象(即ち、スチヒーヤ)として捉えられる傾向が強かった。しばしこれは民族主義的傾向として批判されることにもなるのだが、「革命=スチヒーヤ」なる図式の源ともいえるのがブロークの代表作『十二』である。このモチーフが初期ソビエト文学の中でとりえた変容の可能性とその機能をピリニャーク、プラトーノフの創作をもとに分析中。また、同様の問題意識から周辺の作家ら(A.トルストイ、M.ゾーシチェンコ、I.バーベリ等)の創作も俯瞰的に調査、分析中。
 最後にプライベートの話になるが、3月は雪解けのためか、連日曇りで日照時間が急速に減少し、体調の不具合を覚えることが非常に多かった。どうやら恒常的なビタミン不足のようで、体調管理への意識を改めた次第である。

以上

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