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2012年2月 月次レポート(太田悠介 フランス)

ITP-EUROPA月次報告書(2月)

太田 悠介

 今月の10日から12日にかけて、アラン・ブロッサ教授とかつての教え子たちが中心となって開催した研究会合宿に参加しました。場所はフランス東部のフランシュ・コンテ地方に位置し、スイス国境にもほど近い小さな村フェルタンです。今回の研究会の主題は「人民、ポピュリズム、人口(Peuple, Populisme et Population)」で、題材としてエルネスト・ラクラウ『ポピュリストの大義』(La Raison populiste, Seuil, 2005)が指定されました。
 この著作は「ポピュリズム」という語がきわめて否定的な意味で用いられる現状を押さえたうえで、ギュスターヴ・ル・ボン、ガブリエル・タルド、ジークムント・フロイトら「ポピュリズム」批判のいわば源流に立ち返るというかたちをとっています。そのうえでラクラウは、彼らが実際には人民の構成の問題をそれぞれの仕方で提起していたこと、したがってその思想が統治の側の論理から発せられる通俗的な「ポピュリズム」批判だけにはとどまらない射程を備えていることを明らかにします。このように、批判の対象でしかないはずの「ポピュリズム」から、人民の構成という政治にとっての原初的な問題を腑分けして取り出すところに、この著作の理論的な貢献があると考えられます。ラクラウが「ポピュリスト」であることの「大義あるいは理由(reason/raison)」を説くのはまさしくこの意味においてです。
 研究会ではラクラウの著作を手がかりに、4本の口頭発表とテーマに関連する映画上映が行われました。もともとはマルクス主義の文脈から出発しながら、その後マルクス主義だけには限定されないより幅広い問題設定のもとでその思想を展開しているという意味で、ラクラウは「ポスト・マルクス主義」の代表格と見なされています。ラクラウのこうした方向性は私の研究テーマと重なる部分が大きく、この3日間の議論を今後あらためて自分自身の問題系の中で整理し直す必要性を感じています。また、留学を開始して以降も、3日間すべてフランス語という環境で過ごす機会はこれまでなかったために、フランス語の感覚を養うという意味でも、今回の研究会は貴重であったと思います。

Ota2-1.JPG(最終日のブロッサ教授による口頭発表の様子)

 

Ota2-2.JPG(2日目の休憩時間を利用して訪れた町オルナン。画家ギュスターヴ・クールベの故郷として知られる)

 

 研究会合宿以外では、3日と17日に高等師範学校でのセミナー「フランス哲学のアルシーヴ――テクスト、対象、実践」(« Archives de la philosophie française : textes, objets, pratiques » )に参加しました。3日は「マルクス主義と制度分析――ルイ・アルチュセールとジョルジュ・ラパサード」と題し、60年代から70年代のマルクス主義と知の制度化をめぐる状況をアルチュセールとラパサードのやり取りを通じて再構成した発表、17日は「ブルデュー国家論講義の構造」という題目の発表で、近頃出版されたピエール・ブルデューのコレージュ・ド・フランスの講義録に、同書の編集にたずさわった研究者のひとりが紹介を交えながら解説を加えるというものでした。高等師範学校で不定期に開催されているこのセミナーは少人数で若手の研究者が多く、率直な質問や発言などにも開かれた会合という印象を持ちました。こうした外部の催しの機会も時おり利用しながら、自身の研究を進めていきたいと思います。

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