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2012年2月 月次レポート(横田さやか イタリア)

月次レポート 2012年2月 
博士後期課程 横田さやか 
派遣先:イタリア、ボローニャ大学

 今月は、秋に開催が予定されている国際シンポジウムへの参加を見据えて研究発表の準備に専念した。(シンポジウムの詳細と研究発表計画の採用、不採用について現時点では未定につき、大まかな報告となることをお許しいただきたい。)目下原稿作成の仕上げにかかっているこの論考では、「踊る身体」が科学技術の発展によってもたらされた現代生活の新たな刺激にどう対応しながら、どのような新しい身体の動き/振付けを生みだしてきたのかを包括的に俯瞰することを目指す。考察対象を研究テーマであるイタリア未来派のダンスに限定せず、モダン・ダンスの先駆者とされる同時代アメリカ、ヨーロッパのダンス、戦後日本のButohも視野に入れ、従来の時間的地理的二次元の拘束から解放された新たな視座を据えることを試みる。まさにその拘束から身も心も解放することこそ、この時代のダンスが希求し続けたテーマでもあるからだ。シンポジウムの開催はしばらく先であるが、博士論文執筆との関連でこちらを先に済ませ、その内容を博士論文の論理的補強材料として活用する予定である。
 また、研究発表において音声・映像資料を使用することを想定し、使用許可申請のため北イタリアのロヴェレート市にあるトレント・ロヴェレート近現代美術館(Museo d'Arte Moderna e Contemporanea di Trento e Rovereto)併設のアーカイヴを訪ねた。こちらには一次資料の調査研究に度々訪れており、毎度アーカイヴの方々には大変お世話になっている。しかし、今回の資料複製/貸出しについては、前例がないことや、当アーカイヴではなく別の研究組織に所有権がある資料が含まれていたりと、手続きを容易にさせない事情があるようで混乱が続き、現在もなお許可をいただけるかどうか先の見えない状態である。指導教員にも協力を仰ぎ、なんとか報告者が資料を研究発表に使用する学術的意義を理解していただけるよう努力を続けるつもりである。使用を想定している資料とは、報告者の博士論文の中心テーマとなるバレリーナ、ジャンニーナ・チェンシ(Giannina Censi 1913-1995)のインタビューの録音音声、テレビ番組内でのインタビュー映像、本人の指導監修のもと上演された「航空ダンス」の再演映像である。どれも80年代、90年代に作成されたものであり、チェンシの未来派バレリーナとしての存在が再発見された時代を物語る、見方によっては一次資料であるともいえる。今後、日本でもこれらの資料を紹介していきたいと考えているため、将来のためにも良い結果を期待したいところである。余談ではあるが、アーカイヴ職員の方から、博士論文の完成したあかつきには一部もらえるかと声をかけていただき、所蔵資料を元に研究が完成することに期待をかけてくださっていることに強く励まされた。
 ところで、今月イタリア全土、なかでも派遣先のボローニャは、異例の豪雪と寒波に見舞われた。寒さや雪に対応する備えのない街では自然の猛威を前に人は為す術もなく混乱が続いた。ひと月前には新年の挨拶とばかりに交通機関、運送業者、タクシー業者などのストライキが立て続けに実施され、交通機関がストップし、スーパーに食品が搬送されなくなるなどの混乱があったが、皮肉なことに今月は、ストライキがなくとも大雪と路面凍結のために交通網が麻痺しスーパーの食品棚はもぬけの殻となった。マイナス15℃などというこれまでにない寒さが続き、ティッシュペーパーの陳列棚までも空になりがらんとしている様はもはや笑うしかなかった。自宅では室内にいるにもかかわらずダウンコートと湯たんぽなしでは震えが止まらず、ひじょうに辛い日々だった。凍った路面に足を滑らせ尻餅などもつきながら暖をとりに図書館へ通ったが、そんなときには、散歩に連れ出してもらえた犬たちが全身で喜びを表し雪の中を跳ね回っている様子を見ることが唯一の癒しだった。さて来年の冬はと想像すると、暖冬になるかせめて平年並みの寒さで済むことを天に祈るしかないが、博士論文提出を間近にしてもう一度この凍てつく寒さを乗り越えられるかどうかとても不安なところである。博士論文の執筆計画は当然ながら残された時間を逆算しながら行っているが、体がもたずに作業が停滞してしまう時期があることを前提にして計算をし直さなければならないことを改めて痛感した。

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