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2012年1月 月次レポート(佐藤 貴之 ロシア)

活動報告書(1月)

執筆者:佐藤貴之
派遣先:ロシア国立人文大学

 今月、大学院の授業は哲学を除き開講されておらず、自由な時間が多かった為、主にプラトーノフ関係の研究書や資料の入手、解読に奔走した。通常の授業は二月から再開するようである。
 プラトーノフ関連の研究書は大学図書館にも多数所蔵されてはいるが、それでも十分とは言えない。そこでロシアの古本屋総合サイトalib.ruを使用し、プラトーノフ国際学会論文集「哲学者の国」(2009年~2011年)をモスクワ大学内の古本屋で入手した。このサイトはロシア全土の主要古本屋と提携しており、およそ必要な書籍はほぼ確認できる。もちろん骨董価値がつくものも多く、そうした貴重本はとてもではないが購入できるものではない。このサイトは検索システムが充実していることも大きなメリットだ。その例として、どの古本屋でも販売している書籍の概要を詳細に掲載しており、検索システムはタイトル・執筆者のみならず、概要も検索してくれる。つまり、研究書の中身まで検索してくれる便利なツールなのである。なので、思わぬ書籍が見つかることもあるので、研究の新展開も期待できる。ぜひご利用されることをお勧めしたい。もちろん、ネットで注文することもできるが、やはり調べきれない情報もあるので、執筆者は情報を確認した後に現地の本屋まで足を運んで書架を確認するようにしている。
 購入した「哲学者の国」では筆者と同様の問題意識を抱えた論文が多数収められており、改めてプラトーノフ、ピリニャークの創作関係の重要性を確認した。今回の論文では主に1928年に両作家が邂逅し、『中央黒土地帯』と『地方の間抜けども』という二つの作品の分析が大きな課題である。そのほか、邂逅以前に見られる創作上の共通項を明確にし、両作家が共作という形をとるに至った経緯を記述することを目的としている。この作業自体の成果は来月中旬の学会で報告するが、両作家のその後の影響関係に関しては別稿として報告したいと考えている。
 ピリニャークはプラトーノフよりも年輩で、これまでの研究ではプラトーノフはピリニャークの追従者だったという見解が多い。ただし、そうした見方はプラトーノフ研究者の中から批判を受けている。プラトーノフは長年、技師として仕事をしており、作家としての技量は評価されていなかった。それに比べピリニャークはソビエト権力公認の作家として世界中を飛び回る時代の寵児であった。しかし、両作家の作品を細かく分析していくと、どうやらピリニャークの方がプラトーノフの影響を受けていたといえなくもない複雑な様相が浮かび上がってくるのである。中でも、『カスピ海はヴォルガへそそぐ』(ピリニャーク、1929年、長編)という作品が鍵を握っていると思われる。この作品で取り上げられているモチーフはプラトーノフ創作に特有のものが多く、ピリニャークの読者からすると、異様なまでに作家の問題意識が変わったとさえ思えてくる。つまり、ピリニャークはプラトーノフ創作の特殊性を「拝借」した、といえる。
 ピリニャーク研究者の間でプラトーノフの名が上がることは非常にまれである。それは、ピリニャーク再評価の流れの中で作家のオリジナリティーを強調したいという意図があるのではないかと邪推したくもある。ただし、後輩のプラトーノフがピリニャークに与えた影響は甚大なものである。この点に関しては、4月下旬にエストニアのタルトゥーで開催される学会で評価を問いたいと考えている。ちなみにタルトゥーの学会申し込み締め切りは2月10日と差し迫っており、報告要旨の作成を急がなくてはならない。

以上。

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