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2012年1月 月次レポート(太田悠介 フランス)

ITP-EUROPA月次報告書(1月)

                                                 太田 悠介

 今月は昨年から懸案の課題だった日本語での投稿論文の修正を終え、月末に提出を済ませました。昨年8月のポルトでの口頭発表をもとに、かなり前から草稿の執筆には着手していましたが、論点をなかなか絞り切れず、分量もかなり多い状態でした。しかし12月の中旬に、パリ国際学生都市の日本館で定期的に開催されているフランス思想研究会でこの草稿を検討していただく機会を得たことで、具体的な修正の要点が見え始め、今月末にようやく完成にこぎつけることができました。
 論文の基本的なモチーフはポルトでの口頭発表の内容を踏まえたもので、階級から大衆へという戦後フランスの社会状況の変化を前にしたルイ・アルチュセール、エティエンヌ・バリバールの両者が、この変化をそれぞれの思想にいかに理論的に反映していったのかを検討するという主旨の論文です。「大衆消費社会」や「マス・コミュニケーション社会」といったかたちで大衆の概念が時代を要約する概念として浮上するのと対照的に、階級概念の信用が失墜し、それに伴ってこれを中心的な概念としてきたマルクス主義の影響力も低下しました。このように今回の論文では、この階級から大衆への移行をアルチュセールとバリバール両者の思想を通じて浮かび上がらせることを大きな目標としましたが、その過程ではとりわけアルチュセールとバリバールを明確に腑分けすることを心がけました。階級や大衆という共通の概念群を用いながらも両者の力点は微妙に異なっているため、両者の系譜関係と分岐点を詳らかにするのには結果的に多くの時間を要することになりました。論文を全体的に眺めてみると、アルチュセール、バリバールら研究対象との距離をまだ十分にとりきれていない箇所がまだあるという自覚を持っているだけに、再度修正の機会を与えてもらえることを祈っています。

 本研究との関連する催しとして、月末の29日にフランス思想研究会の1月の例会に参加しました。学会発表の準備や博士論文の草稿の検討、さらには博士論文の模擬審査など、発表者の希望に応じて様々なプログラムを組む同研究会の参加は、他の留学生・研究者の研究に触れる貴重な機会であるのみならず、フランスでの自身の研究の方向性や進捗状況をはかるひとつの目安にもなっています。今後もできる限り参加を継続してゆきたいと考えています。

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