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2012年11月 月次レポート(佐藤貴之 ロシア)

活動報告(11月)

執筆者:佐藤貴之
派遣先:ロシア国立人文大学

 今月は研究報告の準備に専念した。以下、詳細。
 モスクワの世界文学研究所ИМЛИで11月13日から15日の3日間にわたって近現代ロシア文学に見られる喜劇性を共通論題とした国際学会が開催された。今回の国際学会には、ロシア全土、諸外国(日本、フランス、ポーランド、トルコ、チェコ、ウクライナ、エストニア等々)からそうそうたる研究者が列席された。日本からは上智大学外国語学部教授の村田氏が参加された。そしてA.プラトーノフ研究の大家として知られるN.コルニエンコ氏の存在は、大変なる緊張感を会場にもたらした。コルニエンコ氏の博識に執筆者は深く感服すると同時に、コルニエンコ氏の前で報告すると知り、大変な緊張感を覚えたことは言うまでもない。プラトーノフの創作に関する研究報告も多く、執筆者と同様の問題意識を提示した報告もあり、たいへん参考になった。
 今回の学会はベテラン向けの学会であり、大学院生の参加は皆無に等しかった。外国人である執筆者に寛大にも研究報告の許可をくださった実行委員長のD.ニコラ―エフ氏には深く感謝したい。ニコラ―エフ氏とは2010年に開催されたロシア文学研究所(ペテルブルグ)の国際学会で知己を得て以来、面倒を見ていただいている。
 今回、執筆者が行った研究報告「M.ブルガーコフの戯曲におけるソヴィエト作家の喜悲劇的描写について」(ロシア語)は、1920年代のモスクワを中心に活動した作家、詩人たちの創作に関するものである。論文ではM.ブルガーコフ、A.トルストイ、O.マンデリシュターム、B.ピリニャークなどを扱った。世界文学研究所でもしきりに議論がおこなわれている作家たちでもあり、鋭いご指摘を数多く頂戴した。今回の国際学会は論集が刊行されるため、頂戴した指摘を踏まえ、論文をもう一度叩き直す必要がある。また、世界文学研究所が刊行する論集であれば、VAK(文科省付属高等諮問機関)が要求する学術雑誌の水準に十分達していると思われる。したがって、今回提出する論文は、博士論文の審査に際し要求される基準をクリアするうえでも必要不可欠な作業である。
 また、会場には名だたる研究者が列席されていたため、執筆者の用意する博士論文に関して御意見、御指摘を個別に頂戴した。たいへん貴重な御指摘を下さったA.ダニレフスキー教授(ターリン大学)、詩学研究の大家でピリニャーク研究にも従事しているY.オルリツキー教授(ロシア国立人文大学)、そしてN.コルニエンコ氏(世界文学研究所)には深く感謝している。
 さらに、「ゴーリキーと東洋」をテーマに仕事をされている世界文学研究所のO.シューガン氏と知己を得られたことは成果の一つに数えられるだろう。執筆者とたいへん近い問題意識を抱えるシューガン氏からは、来年の3月に開催されるゴーリキー国際学会へ招待を受けた。こちらの学会ではシューガン氏と共同研究の形で「『どん底』の日本における受容」、また執筆者からは単独で「ピリニャークとゴーリキー:創作上の対立に見られる諸問題」(仮題)を発表する予定である。このテーマに関する資料はすでに集まっているため、準備自体に時間はあまりかからないと思われる。論文の準備は年明けから始めたい。
 世界文学研究所の学会が終了して約一週間後、本学が開催したヒルデスハイム・セミナーに参加した。短期間のうちに研究報告が連続したため、頭の切り替えに苦労したが、無事準備を終えることができた。ヒルデスハイム・セミナーで報告した論文「O.シュペングラーと1920年代のソヴィエト文学――『西欧の没落』の受容と解釈」(英語)は、2011年度派遣時に執筆者が博士論文執筆資格取得試験(哲学)で用意した考察に加筆、修正を加えたものである。こちらの論文はロシア語で執筆してあったため、英語への翻訳作業に時間をとられたが、英語で行うプレゼンは久しぶりであったので、なかなか緊張する場面もあった。学部生時代に熱中した英語ディベートサークルの経験が多少は生きたようである。また、本学の若手研究者、ヒルデスハイム大学の皆さんが報告された研究報告には大変深い刺激を受けた。自らの知的好奇心、問題意識がスラヴ文化圏からヨーロッパ文化圏へと越境してゆくのを体で感じることができる大変貴重な経験であった。今回のセミナーを通して知己を得た皆さんとは、いずれ共同研究などの形で知的交流を続けていきたい。そして今回のヒルデスハイム・セミナーを実施するに際し、御支援、御協力いただいた本学、ならびにヒルデスハイム大学の皆様に深く感謝したい。
 モスクワへ到着後は、来年の3月に刊行されるM.ブルガーコフ戯曲集(東洋書店)に収められる予定の小論執筆に専念した。まだ完成していないが、12月末までに脱稿する必要がある。作業を急ぎたい。そのほか、最近関心を高くしているブリヤート文学(ロシア語話者のモンゴル系住民)に関する資料収集、読み込みを夜を徹して行った。このブリヤート文学に関しては、来月の活動報告で具体的に論じたい。
 最後に余談であるが、10月以降のモスクワは日照時間が皆無のため、みな血色の悪い顔をしており、執筆者自身、体調管理にはとても手を焼いている。最後にドイツで見た太陽が非常に恋しいところである。

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